第4話おかしなことに気付く奴

「私の話信じる?」女の声で晃は我に返る。

信じる?とんでもない。一体どこの誰がこんな荒唐無稽な話を信じるものかと晃は思う。地面から人が生えてくる?車の外に出たらいつの間にか行きつけのカフェのトイレにいた? 

晃はこの女は薬物でもやってるんじゃないか?という目で女の頭のてっぺんから足の爪先を観察し始める。


晃は彼女の麦わら帽から鎖骨までカールしながら垂れる金髪を見る。

(ふん。忌々しい、まるで天使の髪じゃないか。)

晃は彼女の青い瞳を見る。

(ふん。恐ろしい。この女の瞳は海より深く神秘的じゃないか。)

晃は彼女の鼻筋の通った鼻を見る。

(ふん。痛ましい。まるでギリシャの彫刻じゃないか。)

晃は彼女の胸を見る。

(ふん。大きなメロン二つぶら下げてきたくらいで許さないぞ。)


そして一通り見終わった晃は最後にこう思う。

(頭がおかしいのを除けば、この娘は滅茶苦茶僕のタイプだ。)


彼女の奇想天外な話に飽きてきた晃は彼女の胸に時々目をやることで退屈を凌ぐ。


「ねぇ。聞いてるの?私の話信じてくれる?」

「信じるって言ってもなぁ。そんな話簡単に信じることは・・・」

「自分は22回も車に轢かれているくせに?」彼女は少しムッとした顔で言った。

「仮にも自分が轢いた相手にその言い草はないのじゃないかな。」晃も少しムッとした顔で応える。

「言っておきますけどね。あなたも地面から生えてきたのよ。最初のサラリーマンみたいに・・・いいえ最初のサラリーマンだけじゃないわ。私が轢いた他の21人のように、あなたも地面から生えてきたのよ?あなた達、地面から生えてくる人たちは一体何なのよ。」


「知らないよ。そんなの。あの日は友達に呼び出されて自転車でそいつの家に向かってたんだ。千躰交差点を渡る時に君に・・・」

「千躰交差点を・・・」

そう言いかけた時、晃は母親が事故後「あんたは時越交差点で事故にあった。」と言ってたことを思い出す。


その時は母親の延々と続く説教のせいで眠くなっていて聞き流してしまっていたが、それはおかしかった。


晃は自分が事故に遭う前の景色を鮮明に覚えていた。


晃の顔が青冷める。晃の目はもう彼女の胸をチラチラと見ることをやめていた。

代わりに彼女の水晶のような瞳をみつめて占い師のように答えを求めていた。


「千躰交差点?私があなたを轢いたのは時越交差点よ。私の話が異常ならあなたの話は一体どれ程まともなのかしら?」



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