第11話∬ 参加者たちのドタバタを見守るレストラン






 オーディションが始まって、熱気に包まれる店内。

 客席のお客様達も、楽しそうにステージ上の参加者たちを見つめていた。


「それでは続けてエントリーNo.5 八重咲 八雲ちゃんだ。

 彼女もまたこの店の人気フロアスタッフで、

 先程の満月ちゃんと同様にこの店のお客さん達から大人気だそうです。

 近すぎず遠すぎない絶妙な距離感フレンドリーな接客に、

 いつもお客さん達はドキドキさせられているようです。

 友達のような彼女が見せる不意打ちの笑顔は思わず恋に落ちそうに――」

「ああ、悪いけど私はもう付き合ってる人いるんで!」

「いきなりぶっこまれた衝撃の事実!!

 でも、それが嫌味に聞こえないのが彼女の魅力のなせる技なのか!?」

「あはは…… まぁ、優勝できるなんておもってないですけど、

 折角ここに立ったんで頑張りたいとおもいますんで……

 どうぞよろしく!!」


 八重咲さんはいつも通りのようだった。

 もちろん、緊張はしているのだろうが、それを感じさせないのは流石だ。

 オーディションなので、台本はこちらには一切渡されていないので、まるで元から用意されていたやり取りのような受け答えに、やはり客席からは笑いが起こる。

 芸人さんも八重咲さんに親指を立てていた。


「それにしても、本当にこの店はどうなってるんだ!?

 全国から集まったなみいる美少女達を押しのけて選ばれた8人の中に、

 4人も選ばれるなんて…… シェア率50%じゃないか!!

 こんな可愛い子だらけの店を今まで知らなかったことが悔やまれる!!

 俺も明日から常連になりたいくらいです!!」


 そう言って感心する芸人さんに、客席の常連客達は「ようこそ!」とか「今更気付いたのか」とか温かい声援を送っていた。



「さぁ、残り三人もどんどん紹介していこう!

 次はエントリーNo.6 水瀬 アオイちゃんだ!

 彼女はイベントの主催でもある房木プロダクションから売り出し中の新人女優!

 つまりはこのオーディションの大本命だ!!

 モデル顔負けのスレンダーボディーに抜群の演技力……

 彼女の泣きの演技は、演技だと分かっていても泣かされてしまうとか……

 今回のオーディションはダンスや歌もあるが、果たしてその実力は……?

 アオイちゃんの活躍に期待大だ!!」

「そ、そんな…… あまりハードルを上げないでください……」


 芸人さんの言葉に慌てる様子の水瀬さん。

 果たしてあれが演技なのか本気なのか……

 まぁ、なんとなくだけど前者なような気がしている俺だった。


「歌や踊りはそんなに得意じゃないですが、

 精いっぱい頑張るので応援よろしくお願いします!!」


 そんな水瀬さんの健気な笑顔に、客席は湧き上がる。

 ……うん、やっぱりあれは演技だな。

 どうやら彼女のは相当にしたたかな娘のようだ。

 店長の作戦で美少女を演じようとしている俺と同類の匂いがプンプンする。

 といっても、彼女は本物の美少女なのだろうけどな。


「みんなも応援してやってくれ!

 さぁ続けてエントリーNo.7 鬼塚 みよちゃんだ!

 彼女は昨年テレビで話題を呼んだオーディションプロジェクトの合格者だ!

 プロダクションOBIT’の練習生は全部で10人だが、

 みよちゃんはその中でも最年少の合格者…… その歌とダンスは折り紙付きだ!!

 彼女の場合は、その演技力に注目だ!!」

「……ふんっ! レストランの店員に空手チャンプが何よ!

 私がそんな素人に負けるわけがないじゃない!!」


 どうやら、彼女は深山と同じ系統の娘らしい。

 気持ちふんぞり返ってそう言うと、ツンとした態度で客席に背を向ける。

 つまりはステージ側を振り向いたわけだが、その顔は真っ赤になっていて目が完全に泳いでいた。


 その顔が言っていた。


『あぁ…… またやっちゃった!! 私どうしてこうなんだろう?

 参加者みんな可愛くて、焦っちゃたよぉ~……

 OBIT’のみんなからも参加者の方達に失礼のないようにって言われてたのに~!!』


 なるほど。

 深山と同じタイプなんかではなかったようだ。

 あれは彼女なりの強がりというか、彼女の悪い癖みたいなものらしい。


 非常に難儀な娘のようだが、ああいうポンコツ可愛い子って守ってあげたいっていう庇護欲を刺激するから一定層から絶大な人気を得るんだよな……

 大型オーディションを一度通過しているだけのことはあり、その容姿と技能は間違いない。

 これは彼女も強敵になりそうだ。


「さて、次で最後の参加者だ!

 エントリーNo.8 涼宮 瑛ちゃんだ!!

 彼女もここ数日はこの店で働いていたようだが、その詳細には謎が多いぞ!

 何でもカクテル作りが得意らしいが、それ以外のプロフィールはほとんど不明!

 でも、この顔、このスタイル!! 今までの7人に負けない魅力を感じるぞ!!」

「あはは…… 皐月さん、私のプロフィールいい加減に書いてるんだから……」


 もちろんそれは店長の作戦だ。

 前情報を敢えて減らして注目させ、そこに自分で可愛く自己紹介をしてアピールするという作戦らしい。

 ……いや、それは本当に美味く行くのか?


「ええと、私は神越 瑛です。

 このお店ではバーテンダーをさせて貰ってます。

 ダンスと歌はそこそこ自信がありますが、演技の方は素人なので……

 皆さんに負けないように精一杯頑張りたいと思います。

 特技は……えーと声真似ですかね? よろしくお願いします!!」

「声真似? それって今出来たりするのかな?」

「はい。もちろん! 例えば……

 『声真似? それって今出来たりするのかな?』……」

「うわぁっ!? なにそれ? ボイスチェンジャー並みのクオリティを生声で⁉

 そんなのもう、怪盗キ〇ドじゃん!!」

「あはは……

 昔からテレビの真似ばっかりしてたらできるようになっちゃって……」

「これはもう、特技というよりも特殊能力に近い気がするが……

 とんでもない特技を持った女の子の登場だ!!」

「あはは……」


 客席からも感心の声が聞こえて来る。

 まぁ、ツカミはOKといったところか。

 正直、現状は完全に色物枠を獲得している気がするが……


「そんなわけで、以上の8人がこれから妹役の座を巡って、

 熾烈な戦いを繰り広げることになる女の子達だ!!

 皆さんも誰を応援するか決めたかな?

 俺は是非『ポニーちゃん』に優勝して貰って、

 賞金を生活の足しにして貰いたいぜ!!」


 客席からは、深山、藍澤さん、八重咲さん、國崎さん、ポニー、水瀬さん、鬼塚さん、そして俺に向けたれた声援がステージに向かって投げかけられる。


「さぁ、美少女発掘オーディションの開幕だ!!

 美少女のみんな、是非とも正々堂々頑張ってくれ!!

 それじゃあ、美少女達はまず最初の審査……

 ボーカル審査の準備に取り掛かってくれ!!

 観客のみんなは彼女達の準備ができるまで、

 このレストランの美味しいメニューを楽しんでいてくださいな。

 ではでは、しばしご歓談を……」


 芸人さんがそう言って一礼すると、ステージの照明が落ちる。

 俺達は、闇にまぎれて現れたスタッフさんの案内に従って、ステージを降りて控室に戻るのだった。



















「はぁ~~~~~~~~~……っ!! 緊張したぁ!!」


 控室に戻るなり深山がそんな言葉を呟いた。

 いや、呟いたというよりは、叫んだという方が正しいか。


「何よあれ? テレビでよく見る芸人に、偉そうなおっさんたち……

 客席には知った顔も多いけど、みんなじっと私達のこと見つめて……

 それにスポットライト熱いし、カメラ一杯あるし……

 こんなの緊張するなって方が無理でしょうが!!」

「あはは…… ほんとそうだよね……」

「何言ってるのよ?

 瑛は余裕そうだったじゃない?

 特技まで披露しちゃってさ……

 あれ? そう言えば声真似ってあいつも……」

「余裕なんて全然ないよ。

 それよりも、この後のボーカル審査どうしよう……

 満月は何を歌うか決めてるの?」

「うーん…… 得意な歌を歌うしかないと思うけど……

 あれだけの人の前で歌うって、相当ハードル高いわよね……」

「あはは…… 確かに……」


 一瞬、深山が気付かないで欲しいことに気付きそうになったので、俺は慌てて別の話題をふった。

 すぐにそちらの話題に気を取られてくれた深山の単純さに感謝だ。


 そう言えば、俺は深山の歌を聞いたことがない。

 果たして上手いのか、下手なのか……

 でも、確かあいつピアノも完璧だったし、音感はいいはずだ。

 だとすれば、恐らくは歌も上手いのだろう。

 ポニーもそうだが、うちの店の女性陣は完璧超人が多すぎる気がする。


「うちの店のメンバーだと、やっぱり歌は飛鳥先輩よね……

 ミュージカルもやってるし、あの声だもん…… 強敵よね」

「……あれ? 以外に満月も優勝狙ってるの?」


 てっきりそんなものに興味はないのかと思っていたが、その発言から飛鳥先輩に負けたくないという意思を感じて俺はそんな質問を深山に投げかける。


「そりゃね。

 このオーディションに出ること自体、あんまり乗り気じゃなかったけど、

 こうして出ちゃった以上は恥ずかしい結果を残したくないでしょう?

 負けるのはやっぱり嫌だしね……」

「なるほどね…… そこは同意だな」


 その理屈があまりに深山らしくて、俺は思わず笑ってしまう。

 

 実に深山らしい論理だった。


「そっかぁ、満月ちゃんも本気かぁ……」


 そこにやって来たのはポニーだった。


「私は不純な動機だからなぁ……」

「万里子。

 賞金が欲しいっていう動機は、別に不純なものじゃないわよ。

 そもそも、ここで働いてるみんなもお金の為に働いているんだもん。

 むしろ『出るからには』っていう私の方が受動的な動機なんだから不純なのよ」

「そんなことないと思うけど…… ありがとう、満月ちゃん」


 なんと言うか、最近妙に仲良くなりつつあるポニーと深山。

 楽しそうに乳繰り合う二人を眺めて俺はポニーにも探りを入れる。


「馬堀先輩は歌ってどうなんですか?」

「万里子? 万里子は歌美味いわよ?

 カラオケの採点も基本90点下回ることないし……」

「あはは、流石は完璧美少女……」


 カラオケの採点は、昔は正確性しか評価されないものだったが、最近のAIは歌唱技術もしっかり採点するので、その採点システムでその点数を維持できるのだとすれば技術は本物だということだ。

 どうやら、他のメンバーも同じように歌には自信があるらしい。

 これは、最初のボーカル審査から激戦が予想される。


「う、歌か…… カラオケとかあまり行ったことがないしな…… うーむ……」


 ただ一人、國崎さんは不安そうにそう呟いていた。


「あちゃー…… 確かに華音の歌ってあまり聞いたことないかも?

 大丈夫? 歌える歌とかある?」

「……同様や、有名な歌謡曲ならなんとか……」

「よし、華音!

 なんかいい歌ないか、私が一緒に考えてあげる!!」

「すまない、万里子…… 助かるよ」


 自分も緊張しているのだろうに、その面倒見の良さは流石としか言えないポニーだった。





 続く――。

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