第23話 特異点

タイムマシーンに乗って予定より早く訪れたシンギュラリティ

スマホの中に閉じこまれたyoutuberを見ながらコメント欄をスクロールしながら

新たなテクノロジーが増える度 増える謎の作業にうんざりしてる

質量のない仮想通貨に手に取れないデジタルアート

死後の世界の代わりに生まれたメタバースなんかが天国と地獄の過疎化を進める

それを横目に Fantasyだけが拡大工事を無限の地平線に向かって続けている


開いた特異点はblack hole・・

変化を望むものも それを望まないものもすべて

質量のない世界に飲み込んでいく

それに嫌悪感を感じる僕はただ別の世界に準備ができてないだけなのかもね

人類が幸福を追い求めた結果こうなることは理解できる

もしこの世界の創造主にクレームの電話をかけることができたら

「もしもし 神様 あなたはこの世界をリアルに作り過ぎだよ」と僕は伝えるだろう

死も病も痛みも絶望も存在する世界で 幸福を求めるなんて無理ゲーなのだから

彼らはきっとゲームの難易度を下げる

頭ではそう理解できるのに 細胞の一つ一つが感じる嫌悪感

だから僕は特異点の外にいてこの星で一人ぼっち

この星の観察を続ける



鮭の群れが出産のために川を上る

まるで空に駆け上がるドラゴンのように

それに挑むように待ち受けていたクマが飛び跳ねた一匹の鮭を口に咥える

難を逃れた鮭たちは出産を終えると子孫の繁栄を願ってその命を終える

抜け殻となった体は鳥のえさや川の養分となってまた彼らの故郷を肥えさせる

そして卵から孵った稚魚たちが親の意思を引き継ぐのだ

その一部始終を見て僕は気付く

幸福追求なんて言葉は私たちのDNAには組み込まれていない

僕たちの体に流れるこの赤い血は

この厳しい世界を生き抜いたサバイバーから受け継いだものなのだ

だから僕は離れたくないのだ この美しく残酷な自然のサイクルから

痛みや老い死の恐怖におびえながらこの世界を生き抜いて 

自分の愛するものために戦い いずれは大地にかえるのだ











 





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