第21話 border

彼女の瞳は

彼女の宇宙と外の宇宙を隔てる境界線

この世界の凄惨な光景を前にした彼女は

潤んだ瞳を守るため

瞼をシャッターのように降ろしてしまう

すっかり閉ざされた宇宙の中で

彼女は一人震える

静寂さと冷たさが彼女の内側を満たすと

彼女は耐えきれなくなり 誰かに助けを求めるように瞼を開く

彼女が目を開けると

そこには最愛の彼がいて

心配そうに彼女の顔を覗き込んでいる

彼の眼差しは恒星の光のように

彼女の瞳に入り込み

凍てついていた彼女の宇宙をいとも容易く溶かし

ついには瑞々しい命溢れる世界へと変える


彼の拳は

彼の宇宙と外の宇宙を隔てる境界線

受け入れがたい現実を前に

彼は静かに拳を握る

弱きものが虐げられる現実を前に

彼は一人 戦うことを誓う

固く閉ざされ彼の拳の中で

彼の圧縮された理想の宇宙が

ビッグバンのように静かに眠っている

今はまだ拳の中で眠るそんな小さな宇宙も

時が来れば爆発して 

やがては外の宇宙すら飲み込んでしまうだろう

それまで彼は行き場のない拳を空に突き上げて 

進み続ける 後に続く者が現れることを信じて

彼は一人歩き続ける


私たちの口は

私たちの宇宙と彼らの宇宙を隔てる境界線

私達が彼らを彼らと呼ぶときに生まれる確かな境界線の中で

私たちは彼らを罵り

彼らは私たちを罵る

しかしその境界線は時に曖昧で

蜃気楼のように

私たちと彼らの間に引かれた線をぼやけた物にしてしまう

彼らの一人が口を開いて歌いだすと

私たちの誰かがその異国の曲に心打たれる

感情を隕石のようにお互いにぶつけ合う中で

私達は彼らも同じ感情を持ち音楽を愛する 

私たちだと知る


僕の肌の上を電撃のように駆け抜けた鳥肌が

僕と世界を隔てる境界線

逆立った毛の内側で

僕の中の宇宙が外の宇宙の美しさや驚異にかき乱される

僕はいてもたってもいられず

僕の頭の中に流れた流星群を観察して

それを静かに書き記す

それは詩というような大袈裟なものではなく

無知を松明で照らし原始人が壁画に描いた落書きのようなものだ

私はこの宇宙の大きさにわけもわからず圧倒させられながらも

わけもわからないままに生きて日々感動を覚えている

それはきっと壁画を描いた原始人も同じで

きっと彼らもこの宇宙の神秘を表現せずにはいられなかったのだ


きっと誰もが境界線を前に戸惑いながら生きている

人一人が持つ37兆個の細胞と

2000億個の恒星を抱える数千の銀河

私達の中に眠る宇宙は戸惑いながらも

今日もどうにかこの宇宙との均衡を保っている









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