第12話 Lonely

Lonely


二つの水晶体を通して世界を見る

受刑者がアクアリウムの板を挟んで面会人と向き合う気分になる

おでこを付き合わせて熱心に話し込んでみても

どこも触れていない

頭に固定されたヘッドホンから流れる音がうるさく鳴るから

君の話なんか聞いてない

頭を掻きむしって抵抗しても無駄なこと

あと数分経てば俺はこの場から立ち去って

また君を置いてけぼりにするだろう

いつものことだけど 慣れないね

分かり合える直前で手錠を繋がれ ちっぽけな自意識に戻っていく


消灯時間が過ぎると独房の外から孤独に怯える死刑囚達のすすり泣きが聞こえる

なぁ そこにいるんだろ?

壁を一枚挟んだ背中越しに

きっと俺と同じように部屋の隅で小さくなってる君がいる


俺がパイプ椅子を投げつけたのは

君が嫌いだったからじゃない

傷ついてる時に君が笑ってたから


君が花瓶を割ったのは

俺を憎んでるからじゃない

君が寒さに凍えている時に

一人 暖炉に手をかざしていたから


「死が二人を別つまで」なんて嘘

どうして神父は平然とつくのかな?

大木の枝から

木の実が一つ広大な土地に放り出されるように

誰もが突然この世に産み落とされ

世界の広さに怯える

ヘッドホンのボリュームを下げて

耳を澄ますと


大地に張り巡らした根が地下水を吸い上げる音が聞こえる


稼働しっぱなしの映写機

瞼を閉じてそれを覆うと

一本の枝に誰彼構わず実る果実達がスクリーンに映る


本音は誰もがあの頃に戻りたい


壁についた無数の古傷をなぞると

今でも痛みが全身を駆け巡る


もういいだろ?


お互い十分傷ついた

無理にこじ開けなくてもその時が来れば 死神がたるんだ紐を引っ張ってブラインドをあげるかのように

いとも容易くこの壁を取り払ってしまうのだから

きっとそれぞれの独房には

ホテルの客室の引き出しに聖書が入っているように孤独が潜んでいて

誰もが乾いた指でページをめくって

それを朗読する


死が全ての者を繋ぐまで...


立ち上がって 右手を壁に置く

壁を一枚挟んだ向こう側で

きっと君は左手を重ねてる


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