第11話 心の真ん中/Big Ben

心の真ん中/Big Ben


陽の落ちた後のロンドン


ライトアップされたビッグベン


大時計の針の音が

この街の心臓であるかのように脈を打つ


時計台の裏の古びた工具が無数に置かれた部屋に


いつまで経っても成長しない

少年の頃の自分がいる


小窓を開けて外界を見下ろす


9世紀にノルマンディー公が持ち込んだロマネスク建築も


12世紀に生まれた優美なゴシック建築も


19世紀に鉄筋と板ガラスがもたらした近代的なヴィクトリアン建築も


これまでの歴史の軌跡として

なんの違和感もなく仲良く並ぶ


ちょうど人が成長して

その姿を大きく変えたとしても

一人の個人として認められるように


生き抜くために手をたくさん汚してしまったとしても


鏡に映るあの頃の自分が醜い老人の顔に変わったとしても


時計台の裏の部屋で


黄色い鱗粉を落とす

ティンカーベルが通り過ぎるのを


頬杖をついて待つ少年の僕が


この心の中に存在する

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る