第10話 ナスカの地上絵

教師がチョークで引く線


黒板に集まる視線


サラサラとペンがノートを走る音

皆何をそんな必死に


黒板に書かれた文字なんてすぐ消える


脳裏によぎるのはどんな砂嵐にも消されなかったナスカの地上絵


肩肘ついて物欲しそうに窓の外を眺めてたら校舎の外へと頭から真っ逆さま


突然降りかかってきた冷や水で目が覚めると休憩時間はもう終わりだと親方が叫んでる


生あくびした後

作業着にポケットを突っ込んで近くのコンビニへ向かう


店の前で缶ビールを開けてその中の奈落を覗く


最初の一杯から腐敗した匂いの香るごみ捨て場まで


体を捻りながら落ちていく


ガサガサとカラスがゴミを漁る音で目が覚める


死神の鎌みたいな奴らのくちばし


いっそ跡形もなく食いつまんで


一緒に空へと連れていってくれないか?


財布をなくして行く当てもないのに


奴らはなんの足しにもならない黒い羽を一枚落として去っていく


生ゴミを背もたれにして 最後のタバコに火をつける


落ちるところまで落ちて自堕落もひと段落


おい そこのあんた 退屈してるなら聞いてくれるか?


あともう一段落..




角に置かれた黒色のオセロを指差しそれが俺だと路上で遊ぶ老人達に語る


「あえて世間の外側にいるのさ 誰にも染まらず チャンスを伺っている 俺は何もかも捨てた あんたらとは違う」


「数十年後のお前が俺たちさ」


「俺には才能がある」


「それは酒がみせる妄想 だ。今すぐ辞めた方がいい」


「酒を?」


「夢をみることを」


「急に立ち上がってなんだ 殴るのか?」


「歩く」


「どこまで?」


「ナスカの地上絵を描くんだ」


「やっぱりやめよう」


「歩くことを?」


「酒を」


まだ足跡のない白紙が尋ねる

まだおまえに創造する力は残っているか?


入り口に置かれた石碑に刻まれた名前と 周りを飾る無意味な装飾が敷居をむやみに高くして

新参者の最初の一歩を遅らせる


それでも目を凝らせば

その奥に標識も信号もない自由な世界が広がっているのが見える


少なくともそこは何者も拒んではいない


道を踏み外し続けてようやく見つけた最後の道


ペンで下腹部を掻き切って己を晒けだせば傷口から溜まっていた思いが黒いインクとなって流れていく


そのまま歩き出せば白い紙の上にポタポタとインクが落ちていく



血迷ってる??


いや きっと今描いてるー


言葉に迷い 意識が朦朧としている時でさえ確信がある


バンビが産まれながらに立ち方を知っているように

誰かに教わらなくても言葉の紡ぎ方を知っている


その歩き方が今はまだ しどろみどろであっても最後にはきっと...


上空で心配そうに見つめる二つの黒い星に微笑んで手を振る


Hi!! そこからでも 俺の消えない地上絵は見えてる?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る