第25話 ハングドマン③
風たちが帰ってきた時、城内は異様な空気に包まれていた。何事かと聞き込むと、執事たちに国王の間に案内される。そこには、既に来ていた他の生徒や戦士たちが、一人の機の民を問い詰めている最中であった。風たちが部屋の中心まで来ると、国王は普段のように豪快さを忘れず声をかけてくる。
「おおっ! 帰ったか、ご苦労!」
「先生たちか…丁度良い、この機械人形が俺たちをずっと監視していたの知ってましたか?」
「いや…でも、何してるんですか貴方たち,アリシアさんを尋問するって…」
執事たちの話を纏めていくと、そういう結論に至った。
「尋問じゃありません。だから、国王に許可取って、こうして話し合いの場を設けたんです」
「大勢で一人に寄ってたかって問い詰める——これのどこが話し合いですか!?」
「がはは! ま〜慌てなさんな。アリシアから昨日こうなることは聞いていた。存分に聞き悩め若者。今のお前さんたち全員に必要だ」
石墨の怒号は国王の一声で掻き消される。
「国王陛下…貴方は一体どこまで知って…」
国王に一人の戦士が問いかける。それは、先日の夜、近江のパソコンを見た戦士であり、訓練の担当で冬馬やハートとも一度戦った男だった。
「まぁ待て待て。今来た彼等…特にバルカナッツォは、気になるだろう?」
「オレの名前知ってるんですね、光栄ですよ国王ヘーカ」
風たちの列を掻き分けてバルカナッツォは前に出る。アリシアは視線を彼に移すと、瞳からはデータの羅列が流れだす。それはまるで、何かを確認し計算して送信しているようだった。
「オレたちは今戻って来たばっかりだし、彼女に何を聞いているのか教えて欲しいな」
バルカナッツォの頼みを戦士の男が答える。
「良いだろう。事は昨日の夜、来訪者近江が機の民の秘匿サーバーにアクセスしたことから始まった。彼等来訪者の個人情報を蓄え、それを人の国ではなく、機の国に流出していた。これはスパイ行為では?」
疑われたアリシアの表情は崩れない。彼女は国王の方へと顔を向ける。
「国王…話しても?」
「がはは、それはオレが決めることじゃない」
アリシアは風たちの方を向き、無機質で均一な声のまま語り出す。
「では…まず最初に一言。良くここまで辿り着きました。100点です。近江の『電脳幽霊』は予想以上に有用だと結果が得られました」
「何様だよ?」
「解を教えましょう。まず、近江が侵入したのは、この地下にある私個人のサーバーです。機の国でも何でもない」
場の視線が近江へと一斉に集まる。
「え、ええっ…だって確かにログ見て…」
「ですから、100点だと。アレは私が許可を取って機の国の秘匿サーバーと同じ防護壁にした偽造品です。中身の個人情報など日中、貴方方を観察していれば誰でも書ける内容です。夜の部分も適当です。本当によく見ました?」
「はぁ!? あたしのプライベートほぼ当たってるんだけど」
「でしたら貴方は私の想定内の行動をした人間ですね。ありがとうございます」
「礼を言われる筋合い無いし!」
今にも噛みつきそうな勢いの少女は石墨たちに抑えられる。その間に近江が自らの疑問をアリシアに尋ねた。
「なら、他の情報…特に柊木君の事も全て罠、ですか?」
「いえ、アレはハートから其方の方々に冬馬が話したと報告を受け、書き足した真実です。情報の質は公平にしましょう」
自分はぬか喜びしていただけと分かると、近江は悔しさから地面を蹴る。そんな彼を差し置き、話題の人物が手を挙げた。アリシアが「どうぞ」と手で示すと無邪気な子供のように尋ねてきた。
「じゃ〜オレから一つ。結局、災厄の根源はカンナギなの?」
「カンナギってカンナギチサ? 前に東が図書館から見つけて来た先代来訪者の人だよね」
来訪者たちが内容を確認している様子を見ながらアリシアは返答する。
「情報源を教えてくれるなら話しますよ」
「生憎、匿名希望でね。こんな厄ネタ教えてくれる人の時点で察してよ」
アリシアにとって想定内の回答。
「でしたら、違う…とだけ答えましょう」
「違わないだろうさ。柊木も龍王もハートとかいう機械人形も動揺していた。あんたも同じ機械人形だよな?」
アリシアの立場からして、かなり無礼な態度を取っているが、国王もアリシアもワザと見逃していた。そんな事を言う暇が無駄と考えていた。
「動揺もするでしょう。理由に想像はつきますが、語るべき内容ではない」
「違うだろ? 隠したいんだろ? あの名前は英雄の象徴だ。ガキの頃に、散々聞かされたよ…そんな人間が今、諸悪の根源だって国民には言えないよな!」
国王は傍観したまま何も言わない。バルカナッツォの怒りをただただ受け止めている。
「権力の蜜を啜る老害の隠蔽が、オレの家族を殺したんだよ!!」
「バルカナッツォさん…」
だが、彼の怒りもアリシアには届かない。
「それでも、違うと言い続けましょう。私は私の仲間を貶める行為を断固として許すわけにはいきません」
「じゃあ黙ってないで理由を語れよ! 違うしか言わない癖に…オレに納得できる真実を教えてみろよ! 何で失敗したんだよ! 200年前ちゃんと勝てば、今頃…オレは…」
バルカナッツォの過去はアリシアも書類上でしか知らない。確かな事は、3年前に彼の妻と息子が彼の留守中に起きた侵攻事件で殺されたこと。彼はバラバラになった家族の遺体も確認したらしい。トラウマにも近いだろう。
「情報源を話さない限り、語る事は出来ません。貴方に入れ知恵したのは、きっと地位の高く若い誰か。そして、この国を、人の民を、来訪者を、恨んでいる」
「こんのぉっ!!」
バルカナッツォは短剣を取り出してアリシアへと走り出す。風たちは驚いて間に合わない。戦士たちはアリシアへの懐疑心で残酷にも間に合わぬふりをした。どうせ、彼女なら避けるという確証もない期待をして。
「っ!」
「アリシアさん!」
しかし、彼の短剣は周囲の期待とは裏腹にアリシアへ深く突き刺さった。
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