第11話 ウォー・クリミナル②
一方、冬馬がハートと共に陣地に戻ると、巫教団の教団員の一人が駆け足で近づいて来た。彼は冬馬の前に来ると地に膝を付けて深々と頭を下げる。
「報告致します! 敵生命体の全滅を確認!」
「あ、はいどうもです……他の方々は?」
「本陣の前にてお待ちしております。さっ早く!」
急かされた冬馬達がロジュウの待つ本陣へと辿り着くと、テントの前で大勢の教団員が待機していた。彼等は皆一様に頭を垂れており、そういった持ち上げる扱いに慣れていない冬馬は複雑な気分のままテントへと入っていった。中では、数名の教団員とロジュウの部下達、そしてロジュウが怪訝な表情で待っていた、
「柊木冬馬。この先からは部下も同席させる。説明する時間はたっぷりある」
「つまりそれってもしかして…説明したの?」
冬馬の問いの意味は自身の出自に関してなのだが、ロジュウは分かっていると言わんばかりに頷く。
「では改めて自己紹介を。柊木冬馬、200年前に災厄の軍勢と戦ってました。僕の方では体感一年も経ってません」
喋り終えたと同時に横っ腹を金属の肘でどつかれる。突然の痛みに涙を滲ませどつかれた場所をさすりながら隣のハートを見下ろすと、彼女は目を逸らして知らん顔をしていた。何のつもりだと問い詰めようとする前に、ロジュウの部下である参謀のガンプが口を開く。
「確認するけど…君があの名前を知ってはいけない大戦犯?」
「……はい?」
「君の名前って子供の時には大人達から聞かされるんだよ。200年前に来た三人の内、最も戦場に被害を与えた人間。ダメな軍人の例として君が挙げられるくらいには戦犯」
「戦犯……あ〜なるほど…」
最初は何度も頷いて理解したふりをする冬馬だったが、冗談でも無いことに実感が湧くと、目の前の机に手をつき身を乗り出し慌ててロジュウに尋ねた。
「ちょっとロジュウさん!! あの後何が起きたの!?」
すると、ロジュウが口を開く前に隣のハートが答えた。
「私も衛星にアクセスして知ったけど、来訪者が帰ったのに災厄の軍勢が倒せなかった理由が必要で……ほら、当時って巫や秋は皆の英雄扱いだったから、若干戦果が足りない冬馬ならスケープゴートに丁度良いって事に…なったらしい」
「アリか。そんなの……」
空いた口が塞がらないまま信じられないと訴える。そんな冬馬にロジュウは頭を下げて謝罪した。
「謝罪はする。最初はこの世界の何処かに居ると信じていて嘘に気づいたお前達が戻る事を期待していたのだ。気づけば200年…真実を知るのは各種族の最上位だけとなってしまった」
「倒さないで帰っちゃった俺達も悪いし、どちらかと言えばあの二人より活躍してないから………うん」
気まずくなった二人が黙り込んでいると、ガンプが再び口を開く。
「領主殿。やはり先程貴方がおっしゃられた通り、禁書室の文献に記された内容は嘘だと? 虚無より現れた災厄の軍勢を倒すために呼ばれた三人の来訪者。カンナギ、シュウ、トウマは仲間達と共に戦うも肝心の決戦でトウマが失敗し、倒しきれずに全滅。英雄となったカンナギとシュウと異なりトウマは戦犯である。此度の内容解禁せず闇に葬る、となっていますが」
「その1から10まで間違ってる歴史は誰が作った?」
「記録にはアリシアって書いてある」
ハートがぼそりと言っただけで冬馬は納得する。
「そうか〜アリシアさんか…あはは、じゃあ仕方ないね」
「オマエ、あの歳食いババアに弱みでも握られてるのか…?」
流石のカラナも冬馬を心配するが、スッキリとした表情の冬馬を見てそれ以上追求するのも馬鹿らしくなり口をつぐむ。
例え冬馬がアリシアに理由を問い詰めようと、200年前に世話になった分と200年の間契約で歯痒い思いをさせた分差し引けば釣り合う物である。
「結局、倒せなかったことは変わらないしね。それに名前を知られてないなら好きなように動ける利点もある。きっとアリシアさんはそこまで想定していたに違いない」
(((絶対違うと思う……)))
この時、冬馬以外その場に居合わせた全員が同じ事を考えていた。いくら万能なアリシアでも200年先の未来まで見通せるはずが無い。悪意ある歴史改竄なのは誰がどう見ても断言できた。
「アリシアに悪意はあると思うが、民達に巫が負けたとは言えなかったのだ。彼女達は最後の希望だったからな。その後、根源側が一時的に撤退してくれなければ全滅は免れない状況だった」
「では領主殿。この方がいる今は我らに勝ち目があると?」
ガンプの言葉に同席していたロジュウの部下達から期待の声が上がる。
「今なら私は五分…と見ている。問題は向こうが柊木冬馬の来訪を確認したことで各戦場に散らばらせた戦力を集めてくるかもしれないことだ」
「それは何とかなるよロジュウ」
冬馬は後ろに控えていた巫教団の面々に指示を出す。
「教団の皆さん。これから全世界の教団員の力を使って人々をこう信じ込ませてください。「来訪者は初陣で苦戦、先行きは不穏」そして、人の国では「肝心の来訪者は戦果挙げられなかった。他国に弱みを見せない為、無かったことにする」これでお願いね」
「「御意」」
そそくさと教団員達がテントから出て行く姿を冬馬は見送った。
「そんな事に何の意味がある? 災厄の軍勢には来訪が知られているんだぞ?」
「色々意味はあるけど…一番は時間稼ぎだね。きっと災厄の軍勢は世界中の民衆の中に諜報要員を仕込んでる。それは200年以上前からあったことで見つけ出すのは困難だ。だから、教団の力で嘘の報告をでっち上げて真実にする」
ロジュウの眉間に皺が寄るのを無視して冬馬は語り続ける。
「この情報が広まると柊木冬馬の名前が広まっても民衆はダメな来訪者と片付ける。追っかけファンが居なきゃ場所も特定出来ない。だから、忍ばせてたスパイを使って探しに来る。けど、こっちの駒とは数が違いすぎる。揉み消しは確実に可能だし、スパイの炙り出しまで出来ちゃう。だから、傍観してるよ」
長々と語った下の結論をロジュウは途中から察していたのか、続けて話そうとする冬馬を口を遮る。
「もういいわかった。貴様がそうまでして逃れたいのは災厄の軍勢などでは無い……あやつらか」
「アリシアさんに人の国のスケジュールを見せてもらったよ。全世界合同の対策会議が一か月後なんだって? それまで時間を稼ぎたい」
全世界合同の対策会議には各国の代表が出揃う。次回の議題は確実に来訪者の話になるだろう。結局のところ、冬馬の存在が他種族に知られるまで一か月しか無かった。
「ネタバレは盛大にやりたい主義だからさ。一緒に飛ばされた人達はそこで知らせる予定。昔の仲間も大半はそこで良いかな〜って思ってる。でも、菓子折り持って会わないと殺される人が多分居るから…」
思い出しただけで背筋が凍る程の恐怖。そういった方々に人の国で同時に暴れてもらうわけにはいかない。先に挨拶して個人で暴れてもらわないと国が滅びる。
「そんなわけで、一か月の旅に出るからさ。アリシアさん誤魔化しておいてくれない?」
「はなからそのつもりか。アリシアに何も言わず去るのが怖いだけだろう……まぁ戦線を今日終わらせたのは事実だ。部下達の借りを返すとしよう。報告は私の方でやっておく」
何やら含みを持った笑みを浮かべたロジュウだったが、冬馬は気にせず頭を下げて礼を言った。その後、非常に厄介な事態に陥ることにも気づかず冬馬とハートは陣地を後にした。
冬馬達が去った後、ガンプは気になっていたことをロジュウに尋ねていた。
「領主殿、結局正しい歴史って何ですか?」
「知らぬ方が身の為だ。今まで誰も真実を語らない…理由は一つしかないだろう?」
首元で手を横に引くで切るジェスチャーを見せたロジュウにガンプ達は苦笑いする他なかった。
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