第91話 ジレンマ

アヌの逃走はすぐに追跡された。



最初に緊急スクランブル出動した戦闘機4機は瞬く間にアヌによって撃沈された。



その後、高速で戦線から離脱するも移動した先でも同じ事を繰り返した。



結局、アヌは一日で戦闘機50機戦車80台余りを破壊する事になった。



米軍はこれでアヌ討伐に本気になる。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



研究機関内に設けられた取り調べ室



ウトナ「何度言えば分かってくれるんだ?」



ウトナ「あれは暴走状態にある!緊急停止も効かない!アヌの言うリミッターを急ぎ開発しなければ止められない!」



軍士官「そんな悠長な事を言っている場合ではないのですよ。」



軍士官「今すぐアレを停止させるか抹殺する方法を提供頂きたい。」



ウトナ「そ、そんな無茶な。。」



軍士官「あなた方が作った物でしょう?」



ウトナ「。。。」



ウトナ「何かがナノマシーンに干渉しているんです。」



軍士官「何かとは?」



ウトナ「ティアマト。。。アヌはそう言っていました。」



軍士官「ティアマト。。。?何ですか?それは?」



ウトナ「。。。分かりません。」



軍士官はため息をついた。



軍士官「とにかく、あなたは全力でアレを止める方法を探して下さい。」



ウトナ「。。。分かりました。」



しかし、数日しても暴走したアヌを止める方法は見つからなかった。



この間に米国陸軍は壊滅的な状況になっていく。



業を煮やした軍はついにはウトナに暴力を伴ったきつい尋問を始めた。



それでも何も情報は出てくる筈はなかった。



そして



傷だらけのウトナに軍士官は詰め寄る。



軍士官「ヤツの家族がとうなってもいいのか?」



ハッとして軍士官を見るウトナ



ウトナ「ま、待って下さい!エンリルはまだ子供なんです!」



軍士官はニヤリとすると



軍士官「あなた次第ですよ。」



と言ってウトナを見下した。



ウトナは肩を落とし何も出来ないジレンマで歯ぎしりをしていた。



そうしている間にも世界中からここが攻撃されようとしていた。





一方、逃走したアヌは



施設から逃走して最初の夜、暴走した適合者達の回復を試みていた。



アヌは試しに適合者の一人に自分のオーラを当ててみた。



すると、その者は心が帰ってきた。



我に返ったその者はアヌに抱えられながら



「せん。。せい。。」



アヌ「正気に戻ったのか?」



「あり。。がとう。。」



その者はそう言うと笑顔を見せて息を引き取った。



アヌ「おいっ!待て!」



アヌは今にもティアマトに飲み込まれそうになりながら、言いようの無い悔しさに震えた。



アヌ「どうして何もかもうまく行かないんだ。。」



その光景を見ていた意識のある適合者数名がアヌの元へはい寄って来る。



「せん。。せい。。私にも。。」



「ゼェゼェ。。私にも。。」



「死なせて下さい。。」



アヌ「や、やめてくれ!違うんだ!」



アヌ「私は!」



膝を落とすアヌ



アヌ「私は、あなた方を助けたかったんだ。。。」





その瞬間



アヌのオーラは辺りを包み込み



適合者達の命は



消えた。



その死に顔は皆、安らかだったと言う。

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