第90話 崩壊

不適合者の突然死。



それは何の前触れもなく急に訪れた。



緊急対策チームを結成するも原因が分からないまま数日が経過するとこの事は大事件となった。



ナノマシーン研究は一転して世界中から避難を浴びる事になり警察も動き始める。



研究機関の建物前には連日遺族らの抗議デモが行われ物々しい雰囲気が漂っていた。



そしてさらに1ヶ月が過ぎた頃、適合者達にも徐々に異変が出始める。



それは低レベルの適合者が次々と精神に異常をきたしていくと言うものだった。



彼らはナノマシーンのチカラで得た特殊な能力を持っていた。



そのチカラを振るい人を襲う者まで出始めた。



警察が抑えようとしたが適合者には銃が効かない為、ついには軍の出動を要請する。



こうしてもはや危険なものと認識されたナノマシーン研究機関とその研究資料の全ては軍の管理下に置かれた。



適合者達もナノマシーン研究機関に集められて外界と隔離する事になった。



エンリルも当然例外ではなかった。



研究機関の一室



そこは何もない部屋で支給された毛布と枕を手に集められた適合者がまばらに床に座ったり寝転んだりしていた。



そんな中にエンキとエンリルの姿があった。



疲れた様子のエンキの横でエンリルは不安そうにエンキにもたれていた。



エンリル「母さん。僕、どうなっちゃうの?」



エンキ「大丈夫。父さんがきっと何とかしてくれるわ。」



エンキはエンリルの頭をぎゅっと抱き寄せる。



エンキ「大丈夫。。。」



エンリル「エルヴィンにエサあげてきた?」



エンキ「ええ、大丈夫よ。たくさんあげて来たわ。」



エンリル「エルヴィンに早く会いたいなぁ。。」



ぼんやりエンリルがエルヴィンや家の事を思い出していると突然、隣にいた男性が叫び声を上げた。



男性「はゔぁ!!」



汗がびっしょりだ。



男性「や、止めてくれ。。止めてくれ。。止めてくれ。。止めてくれ。。ぐっ!!」



一瞬、赤く光ったかと思うと光は消えて男性はさらに苦しみ始める。



頭を床に打ち付けながら



男性「止めてくれ!止めてくれ!止めてくれー!無理だ!俺には無理だ!!」



と叫び、そして白目を向いた後、狂ったかの様に笑い始める。



男性「。。。。へへへへへ」



体は痙攣しながら反り返ったまま不自然に立ち上がる。



それを見て下がりながらエンリルを抱き寄せるエンキ。



エンリル「か、母さん。。あれ何?」



次に男性の体は電気を帯びて放電し始めた。



バチバチと音を立てながらエンリル達の方を見ると手を振りかざして今にも襲いかかりそうになる。



と、同時に部屋に轟音が鳴り響いた。



兵隊が機関銃を発射したのだ。



男性は頭部を狙い撃ちされてエンリルの目の前に倒れ込んだ。



エンキ「キャァァァ!!」



エンリル「母さん!怖いよ!」



エンリルは恐ろしさのあまり目をつぶってエンキにしがみつく



それを必死で自分を保ちながらエンキは抱きしめていた。



倒れ込んだ男性はまだ動いていたが駆けつけた兵隊たちに拘束されて何処かへ連れて行かれた。



その状況はアヌもモニターで見ていた。



アヌ「ウトナ。。私達は間違っていた。。」



アヌ「まさかこんな事になろうとは。。」



ウトナ「。。。何か方法はある筈だ。」



アヌ「私やエンリルもいつ暴走が始まるかわからない。。」



涙に打ち震えるアヌにウトナはかける言葉を失った。



しばらく沈黙が続く



ウトナ「。。。とにかく私は、暴走の原因を調べる。」



ウトナ「お前も諦めるな。」



静かに頷いたアヌだったが、その時アヌに異変が起きる。



小さな小さな何かが一瞬にして自分の中に広がるとアヌはティアマトのチカラに目覚めた。



アヌの体を赤い光が包み込む。



しかし、それは完全にその身に持て余したチカラだった。



アヌの身に激痛が襲いかかる。



アヌ「ぐわあああああああああああああ!!!」



のたうち回るアヌ



ウトナ「どうした!?落ち着け!」



慌てて押さえつけるもウトナや警備に当たっていた軍人の制止を振り切ってアヌは研究所の窓を割って外へ飛び出した。



ウトナ「アヌ!!」



驚くのは無理もない、そこは3階だ。



しかしアヌは苦しみながら空に舞うとそのまま空中をさまよった。



ウトナはその光景を窓の外に見る。



ウトナ「と、飛んだ!?何だこれは!?」



アヌを覆うティアマトのオーラは次々に色を変える。。



赤からオレンジそして黄色へ緑へ



アヌ「止めてくれ!!これ以上は!!」



アクセルが戻らないエンジンの様にそれはただ加速していく。



そして緑から青へ青から紫へオーラが変色した時、アヌは雄叫びを上げた。



アヌ「うおおおおおおおおおおお!!!」



地球全体が震度するかの様な衝撃が大気を突き抜けた。



そしてウトナのいる窓にゆっくりと降り立つアヌ。



アヌ「い、意識が持って行かれそうだ。。何とか抑えている。。」



ウトナ「一体何が?」



アヌ「ティアマト。。。」



ウトナ「ティアマト?」



アヌ「そ、そうだナノマシーンを介して私の精神と繋がっている。。。何かだ!」



近くで見るとアヌは自身のオーラでその身がボロボロと崩れ、同時に修復しているのが見て取れた。



ウトナ「私はどうすればいい!?」



アヌ「わ、私はもう遅い。。。ナノマシーンにはリミッターが必要だ!適正なレベルでこのチカラの流入が止まるように!」



ウトナ「り、流入?」



ウトナ「アヌ!どうすればそのリミッターを作れる!?」



アヌ「わからない。。。しかし頼む!エンリルを!エンリルが生きていける様にそれを作ってやってくれ!!」



その時、アヌは何かに気が付いて再び施設に入ると飛んだまま階段を地下に降りていった。



ウトナ「アヌ!何処へ行くんだ!?」



ウトナも後を追う。



途中兵隊がアヌに発泡したがアヌは全くの無傷だった。



目的の部屋に入るとそこは暴走した被験者達が硫酸の水槽にロジウムで作られた拘束具をはめられて沈められていた。



ナノマシーンで回復するより早くひたすら硫酸で溶かさらているのだ。



アヌは彼らの心の悲鳴を察知したのだ。



アヌは触れずしてそれ等拘束を解き、彼らを連れて何処かに飛び去ってしまった。



追いかけてきたウトナとすれ違ったがアヌはそのまま暴走した人達を宙に浮かせて空に消えていった。



あっという間に視界から消えたアヌの飛び去った方向を見つめ続けるウトナ



ウトナ「これはまずいぞ。。。」



ウトナ「クソッ!なんて事だ。。。何とかしなければ。。。」



ウトナ「エンキさんに何て言えばいいんだ。。」



ウトナは落胆で目の前が真っ暗になるのを覚えた。



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