第9話 コチンダさん

真っ白な病棟の一室。



そこにオムツにランニングの筋肉隆々男が赤い目を光らせながら心元なさそうに立っていた。



他でもないこの物語の主人公、他守ショウその人である。



目の前にいる看護婦は大きな瞳に少し人懐っこさを感じる年の頃20代前半の美しい人だった。



ショウ「か、看護婦様。。こ、これは一体??」



引きつった表情でショウは恐る恐る聞いた。



看護婦「AR機能の名残りです。大丈夫です。カッコイイですよ!」



と、満面の笑顔で看護婦は言うが。。



ショウ:カッコイイわけないでしょう!!



と心で叫んでいた。



しかもこの下着、着ていると言うよりは皮膚の一部の様に一体化してしまっている。



言わばテクスチャーの様なものだ。



ショウ「そ、それでこれは着替えたり、その出来るのでしょうか。。。?」



看護婦はまた満面の笑顔で



看護婦「今の所、システムの仕様ですのでで不可能です(笑)」



と言い放った。



それを聞いたショウはショックで凍りついたまま轟沈した。



看護婦「さぁ採血をしましょう!」



いそいそとゴムバンドをショウの右腕に巻き、注射針を刺そうとする。。



しかし、針は一向に刺さらない。



看護婦「うーん。内側も硬化しているんですね。。しかも弾力もある。。」



看護婦「では、口の中の組織を採取しますね。」



と、綿棒を取り出すとショウの口の中の唾液を取った。



綿棒を何かの検査液に漬けたが無反応。



看護婦「ダメですね。。。」



と、少し悔しそうだ。



看護婦「では、検査機を使いますね。」



と、持ってきた大きな装置に電極を差し込み、もう片方の心電図を取るような粘着のパットを、『服』のない部分につけた。



そして何やら操作を始めた。



すると、ウィィーーーン と言う音がして何かの検査が始まった。



看護婦「こ、これは。。。まさか。。」



看護婦のショウを見る目が見る見る変わる。



それは驚きと羨望にも似た眼差しだった。



ショウ「。。。あの、一体何が。。?」



看護婦「ごめんなさい。他守さん、私も初めて見ました。あなたは恐らく歴史上初のSSS(トリプルエス)ランクの適合者です。」



看護婦「人類の救い主になるかも知れません。」



ショウ「はぁ、救い主? それは一体何のランク何でしょうか? ゲームの?」



看護婦「詳しいことは先生から直接聞いて下さい。私、この施設の看護師の東風平(コチンダ)と申します!」



目を輝かせて東風平(コチンダ)はショウの手を取ってショウを見つめた。



ショウ「こ、コチンダさん。。」



ショウ:変わった名前だなぁ。。外区の人だろうか?



ショウ:それにしても。。か、顔が近い。。



頭の中が真っ白になり、ショウはまるで白いお花畑にいる様な錯覚を見た。



しばらく、いや一瞬だろうか?ショウは時間が止まった様な気がした。



しかし、自分の今の出で立ちを客観的に思い出してしまいハッとなって我に返った。



ショウ:カッコ悪!!!汗汗汗



するとどうだろう?



白い病室に一面白い花が散りばめられていた。



東風平(コチンダ)は呆けたように



東風平(コチンダ)「。。。これが、現実を支配するとさえ言われるチカラ。。」



そしてハッとしたようにそして瞳を潤ませて



東風平(コチンダ)「こんな事ができるなんて。。」



東風平(コチンダ)「他守さんは私達の様な者たちの希望です。」



と感情を抑えられない様子でショウに詰め寄った。



ショウ「えっと、あ、ありがとうございます。。」



何が何だか解らないショウはそう言うしかなかった。



一瞬、さり気なく小声で



東風平(コチンダ)「金森先生には気を付けて下さい。。」



と少し真顔でショウに伝えて納得したかのように頷いてみせたコチンダだった。



東風平(コチンダ)「お花、勿体ないけどかたずけますね。」



少し部屋から出ていったコチンダはシンプルないかにも病院にありそうなグレーのほうきとちり取りを持ってきて丁寧に掃除した。



ショウ「す、すいません。。散らかしてしままって。。」



と、申し訳なさそうなショウに笑顔で



東風平(コチンダ)「いえ、むしろ光栄です。」



と機嫌良さそうに花を集め、30リットル程のゴミ袋に詰めた。



そして、東風平(コチンダ)は「失礼しました」と深々と頭を下げて出ていった。



ショウは嬉しいようなムズ痒いような気持ちで状況が飲み込めなかった。



ショウ:コチンダさん。。どういうんだろ?何でもかんでも知っているみたいだけど。。?

今度来たらもう少し話したいな。。



などと物思いにふけっていると今度はアナトから連絡が来た。



アナト→ショウ:「応答出来るか?何かあったのか?」



こちらは相変わらずの無愛想。。



ショウ→アナト:「検診が来て何かの検査をされた。トリプルエスとか言われたけど。。何のことだか。。?アナトはわかるのか?」



アナト→ショウ:「。。。い、いや。。解らない。」



ショウ:何か今明らかに動揺したような。。?



ショウ→アナト:「あと、金森先生って人に気を付けてって言われたけど。。わかんないけどアブナイ先生なのかも知れない。。?汗」



アナト→ショウ:「私の調査ではこの施設は83区の支援で運営されている。倒産したはずのサークルアンデッドがこっそり残っているのもその為だ。施設内では83区の思惑が渦巻いている。それをよく思わない者もいるのだろう。」



アナト→ショウ:「彼らは覚醒しなければ殆ど害のない程度の低位のナノマシーンをゲームにかこつけてよその区であるこの81区で大量にばらまいていたのだ。そしてお前もばら撒かれたうちの一人だ。」



ショウ→アナト:「83区??何ですかその国際テロ組織みたいな構図は。。?」



ショウは苦笑いを浮かべながらどう答えて良いのか解らない様子。



アナト→ショウ:「いつの世も科学者や医者は己の探究欲の為に権力者は己が集団の利益の為に平気で小さな命を踏みにじる。それは弱肉強食の調和を逸脱したものだ。」



ショウ→アナト:「アナト。。君もサークルアンデッドの被害者って事?」



アナト→ショウ:「さぁな。。ひとつ言える事はお前はもう人間ではないと言う事だ。」



アナト→ショウ「また後で連絡する。」



そう言うと直接会話が途絶えた。



ショウ→アナト:「え?いきなり?」



その声はアナトに届かない。



シーンと静まりかえった病室。



時間は午後7時をまわっていた。



外の様子は全く解らないが恐らくもう暗いだろう。



何もない壁を見ながらショウは深くため息をつく。



その胸に『人間ではない』と言う言葉が深く突き刺さっていた。



ガックリとするショウの耳元から



アナト「随分情けない格好だな。お前の趣味か?」



ショウ「うわ!!い、いつの間に。。」



いつの間にか隣に座っていたアナト。



アナト「大きな声を出すな。この部屋には監視カメラは無いようなのでお邪魔させて貰った。」



ショウ「い、一体どうやって?」



アナト「こうやって」



そう言うとアナトはヘビの姿にその身を変えた。



ショウ「。。。。」



ショウ「君も十分人間じゃないと思うよ。。」



そしてまた再び少女の姿に戻る。



アナト「保健所の定時が来たのでこっそり出てきたのだ。姿を変えれるといっても質量は変わらないのでここまで来るのはなかなか大変だったぞ。」



ショウ「それ、俺にも出来るのかな?嘘でも元の姿に戻りたいんだけど。。」



アナト「私を食らうか私が能力を移譲するかだな。正直移譲は勘弁してくれ。」



ショウ「く、食らうって。。え?」



ショウ:食われるより移譲が嫌なのか?



アナト「食らうと言っても一部でも血液でもいい。これ(メタモルフォーゼ)は基本能力なのでどの部位でも大丈夫だ。」



ショウ「すいません。食べるとかないです。。」



アナトは少し微笑んで



アナト「食わせる時は交換だぞ?」



と、ショウの目を覗き込んで言った。



ショウ「あ、は、ハイ。。すいませんでした。」



東風平(コチンダ)が恋しくなるショウであった。



そして丁度その頃、ショウの病室へ向かおうとする一人の男の姿があった。

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