第10話 担当医金森

ショウは考えていた。



アナトは何者なんだろうと



考えれば考える程に不思議さが増してくる。



インプル版VRMMOファーストアドベンチャー18の機能のハズの直接会話が使え、ある程度今のショウの状態も把握している様だ。



しかし、彼女はこのファーストアドベンチャー18の制作会社の人間でもなさそうだ。



アナトも自分と同じくナノマシーンを入れられて覚醒したんだろうか?



それにしては違和感がある。



それならアナトも例の『オムツ』の筈だ。



でも、『オムツ』を見たときの彼女反応は明らかに事前に知っている感じがしなかった。



まるで変なものを見たかの様に眉をひそめていた。



まぁ、変なものなんだけど。。



被害者なのか聞いた時も「さあな」とはぐらかしている。



このアナトの奇跡の様な美しく完璧な容姿も変身(メタモルフォーゼ)によるものなのだろうか?



そもそも味方なんだろうか?



科学者や権力者の理不尽に対して、そしてサークルアンデッドを使って83区が81区にやっているらしい事に対しても嫌悪感を顕わにもしていた。



81区民だから?



頭の中をそんな思いがぐるぐるまわっていた。



ぉぃ



ぉぃ



アナト「おい!」



ショウ「うわ!な、なに??」



アナト「だから大きな声を出すなと言っただろう?」



アナト「さっから注意が散漫な様だ。気分でも悪いのか?」



ショウ「う、うん。アナトってさ。。どうやってナノマシーンを入れられたのかなって?」



ショウ「やっぱりファーストアドベンチャーで?」



アナト「違うな。もっと前の実験が関係している。私は前研究所で実験体にされていた被害者の生き残りの娘だ。」



ショウ「そ、そうなんだ。。サークルアンデッドってそんなに前からあったんだ。。?」



アナト「それも少し違う。サークルアンデッドは以前の研究成果を引き継いだに過ぎない。母にとっては忌まわしきそして私達にとっては生命線ともなったその研究をな。」



ショウ「私達?他に家族がいるのか?」



そう言われると、アナトはひと呼吸おいてガラリと目の色を優しく変えた。



アナト「あぁ。兄様と他にも仲間がいる。」



そう言うと初めて初々しい笑顔を見せた。



それを見てショウは少しだけホッとした気がした。



それもつかの間、すぐにアナトの表情は険しくなり



アナト「誰が来た様だ。。」



と、今度は見る見るアナトの身体は壁一面に広がり、入り口を除く他の2面の壁と見分けのつかない真っ白い壁に擬態した。



ショウ:ホントに凄いな。。この『能力』俺も使えたらなぁ。。



と、関心しているとコンコンっとノックがして返事をする間もなく



男「失礼します。」



と今度は白衣の男性が入ってきた。



男「宜しくお願い致します。私、この度担当医になりました金森と申します。」



ショウはハッとなった。



ショウ:確かコチンダさんがさっき気を付けてって言ってた人だ。。



金森「どうかしましたか?」



ショウ「いえ、どうもご丁寧に。こちらこそ宜しくお願い致します。」



金森「早速ですが他守さん。簡易の検査結果を見ました。他守さんの外観は先に伺っていたのでもしやと思っていましたがまさかここまでの症状だとは思いませんでした。」



ショウ:あれ?コチンダさんと反応が明らかに違う。まるで病気扱いだ。。



ショウ「何かまずい状態なんですか。。?」



金森は深く頷くと



金森「ええ、申し上げにくいのですがゲーム内にウイルスが混入していた時期がありまして。。」

「そのウイルスの影響でゲーム内の設定等が本当の肉体に影響してしまう事象が確認されています。。」



ショウ「あの、一体どういったロジックでそんな事が起こるんでしょう?」



ショウ「普通に考えたら考えにくいんですが。。」



金森「ええ、確かにそうでしょう。然し、そのウイルスはプログラムからネットワークに穴を開けてそこからゲーム機器自体とインプルシステムをハッキングしてインプルから脳内チップ付近の脳細胞を直接汚染し体全体に広がるのです。」



ショウ「インプル経由で。。?じゃぁ僕の頭の中のチップは今ウィルスにやられているんですか?」



金森「ウィルス駆除プログラムをチップに通して一旦進行を止める必要があります。その為に明日から特別集中治療室に入って頂きますのでご了承下さい。」



淡々とした口調で金森は説明を続けた。



然し、アナトや東風平(コチンダ)のこともあってショウには全てをそのまま鵜呑みにする事も出来なかった。



そして説明が終わると金森は



金森「では、また明日。しっかりお休み下さい。」



と部屋を出ていった。



硬い廊下に響く革靴のコツコツという足音が遠くに消えて行ってからしばらくしてアナトは前触れも無く擬態を解いて壁から少女にその姿を戻した。



そして花を飾るくらいしか出来そうにない小さなテーブルにあったリモコンを手にとると壁に仕込まれたモニターの電源を入れた。



それから人が複数人で騒がしく討論している様なトーク番組をつけた。



アナト「一人部屋から話し声がしていてもおかしいからな。」



アナト「それに、私には外の気配が分かるから騒音があっても外の注意には差し支えない。」



と、つけた番組をさも興味なさそうに見つつアナトは言った。



アナト「。。。特別集中治療室か、入ったら最後一生出れそうにないな。」



アナト「散々実験台にされた挙げ句、眠らされたまま内蔵一つ一つバラバラに取り出してホルマリン漬けにされるんじゃないか?」



そう言うとアナトはショウの方に目線だけ向けてニヤリとした。



ショウ「怖いこと言うなよ。。まさかそんな。。」



しかし、アナトの言うようにサークルアンデッド自身がウイルスをばら撒いていたのならこのまま行けば何をされるかわからない。。



アナト「奴らの目的は81区の救世主を生むことではない。83区の利益を生むことだ。奴らが欲しいのはお前の成長ではなくデータだ。」



アナト「奴らもエアバニーの時の轍(てつ)は踏むまい。将来的に脅威になり得るお前をこのまま外の世界に野放しにするなんて事はしないだろう。」



※エアバニー警視正…特イ第1捜査課課長



ショウ「エアバニー?あのイ特の?何か秘密があるのか?」



アナト「奴もお前と同じナノマシーン適合者だ。お前程突出したものではないがな。」



ショウ「へー。。知らなかった。防衛戦の英雄とは聞いていたけど。。」



ショウ「アナトは知り合いなのか?」



アナトはショウの顔を覗き込んで目を見て一言



アナト「さぁな」



と言ってベットに腰をおろした。



ショウは、何なんだよ。。と心の中で苦笑した。



そしてひと呼吸おいて



アナト「それよりここを脱出するか?特別集中治療室とやらに入って眠らされでもしたら脱出は困難だぞ。」



ショウ「んー。。でもどうやって?俺はヘビとかなれないぞ?」



アナト「方法はいくらでもあるさ。」



その時だった。



テレビからニュースが飛び込んできた。



『ここで、臨時ニュースをお伝えします。』



『先程、警察よりイシュタラ関連の発表がありましたのでお伝えします。』



ショウ「なんだ?ついに攻めて来たのか?」



『昨夜27地区で目撃されたイシュタラと思われる生命体ですが、同区に潜伏していたイシュタラである可能性が高いと公式に発表がありました。尚も逃走中のこのイシュタラの行方を警備局イシュタラ対策部では捜索しています。また、現在行方を眩ませている同区の他守ショウ28歳の自宅から長期に渡ってイシュタラが居住した形跡が発見され、イシュタラ隠微または共謀の容疑で81区全地区指名手配に指定されました。また、政府からも先程外出を自粛するように勧告が出されました。危険ですので絶対に出歩かないようにして下さい。繰り返します。。。』



ショウ「え。。?」



一瞬時間が止まったみたいになり、ショウには何が起きたのかわからなかった。



ショウ「お、俺?指名手配??」



アナト「ナルホド。。そう来たか。」



アナト「これでお前はその姿のままでもイシュタラとして追われ、姿を元に戻せても指名手配のお尋ね者だ。」



アナト「ここの連中もこれを見てどう出るか。。」



ショウは頭を抱えた。



ショウ「つ、詰んだ。。俺はこれからどうすればいいんだ。。?」



アナト「いっそ81区を出るか?」



ショウ「指名手配なって区外へは出れないよ。。それに氷河期が終わったとはいえ外は放射能汚染が酷いらしい。外にはイシュタラもいるし出たらおしまいだよ。。」



アナト「お前はイシュタラなんだろう?出ても大丈夫なんじゃないか?」



アナトは少し嬉しそうにそう言うと



ショウはムッとして



ショウ「冗談言ってる場合じゃないだろ!」



とふてくされて横になってしまった。



何か小声でブツブツ言っているショウの頭にアナトはそっと手をかけて



アナト「エアバニーレベルでも外へ出て大丈夫なんだ。お前もいけると思うがな。。」



と言うがショウはそっぽを向いてしまう。



ショウ「もう、放っといてくれよ。。俺はもう立ち直れそうにない。。」



ショウ「。。。」



ふと辺りを見回すとアナトがいない。。



ショウ「アナト?あれ?。。本当に放っておかれた。。?」



ガクっとした所でショウの部屋のドアがノックされた。



コンコン



「金森です。少しお話を。」



緊張が走りショウの胸はドキドキと痛い程に高鳴った。


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