第5話 アナト

ショウが部屋に逃げ帰った頃、大騒ぎになった大通りに一人の少女の姿があった。



年の頃16-7、透き通る様な白い肌に黒髪。



感情のない冷たく冷めきった黒く大きな瞳の奥に光はなく、ただ何かを探している様だった。



少女「この近くにいる。。しかし少し変な感じだった。。」



大通りには沢山の警察車両のサイレンが鳴り響いていた。



警官の「危険ですので近寄らないで下さい!」「速やかに帰宅して下さい!」



と言う静止にもよらず、やじ馬も沢山いた。



やじ馬「何だ何だ?おおー!ありゃイ特じゃないか?初めて見た!」



イ特とはスパイとして潜入するタイプのイシュタラを捜査する為の特別組織である。低位のイシュタラなら近付くだけでも感知すると言う。



そんな人混みの中で少女はキョロキョロしていたが突然はっとした様になって振り返り



少女「こっち。。」



とショウの住むフラットの方へ方向を変え、ショウが通ってきた道をゆっくり、それでいて何かを確実に捕捉しているかの様にまっすぐに歩いた。



そしてショウの住むフラットの前で立ち止まった。



少女「波動が消えた。眠ったか。。」

「だが、この辺りなのは確かな様だ。」

「かの地への潜入調査は我隊のみだった筈だが。。増援など聞いていない。。どういうことか?」



しばらくして、少し表情を曇らせた少女は頷き



少女「了解した」



と夜の闇に溶け込む様に消えて行った。







そして夜が明けた。





悪い夢を見た気がする。



目を開けると白く四角い天井の中央に白く四角い照明が見える。



見慣れた部屋の天井だ。



そしてその天井に自分の両手を差し出して見た。



尖った爪に筋肉質な手。



赤いローブに赤い袖。



ショウは昨日のことは夢ではなかったと自覚した。



深くため息をついた後、取り敢えず現状を整理することにした。



ショウ:まず、俺はどう言う訳かゲームの中のキャラクターのまま現実世界にでてきてしまった。

そしてどの程度までかわからないがどう言う訳か魔法も使える。

お腹は減らないし喉も乾かない。



そして少しシビアな表情になり



ショウ「百歩譲ってそこまではいい。。」



そして部屋をウロウロしながら独り言を続ける。



ショウ「しかし、このままでは仕事に行けずに遠からずここを追い出されてしまうし姿を消さないと外にも出れない。。」


ここで赤い目が意味もなく光る。


ショウ「そしてゲーム制作会社のサークルアンデットはもう倒産していて何故か検索にもかからない」


意識を脳内のインプルに向ける。


ショウ「メンテナンスは。。」



ショウ「インプル、ファーストアドベンチャー18を起動」



とゲームのタイトルを確認するも相変わらずのメンテナンス中だった。。



ショウは「会社倒産してるのに誰がメンテナンスしてるって言うんだよ。。」



ベッドに座り込み一言



ショウ「詰んだ。。」



ショウは脱力してへたり込んでしまった。




そこへ「ピーッ」とインターホンの呼びベルが響いた。 



ショウ:!!! まさか警察??



手のひらに汗がにじむ。



恐る恐るインターホンのモニターを見ると見た事もない女の子が無表情に立っていた。



ショウ:凄い美少女だ。。でもどっちにしろ出れないけど。。



思っているとモニター越しに女の子と目があった気がした。



その瞬間、ショウの頭の中に直接女の子の声が飛び込んだ。



女の子→ショウ:話がある。入れてくれないか?



ショウ:直接会話??



ショウ:まさかあの子もファーストアドベンチャー18のプレイヤーなのか?



すがる思いで玄関に走って行き、扉を開けると女の子を部屋にズカズカと入ってきた。



ショウ「え!?あ!ちょっと!」



慌てて後を追うショウ。



女の子はそんなショウを気にも止めず、やはり相変わらずの無表情で



女の子「邪魔をする。」



と淡々とした感じで部屋に入って座った。



ショウは嬉しいような訳かわからない様な怖いような色々と入り混じった心境だった。



ショウ「。。あの。。一体。。?」



女の子「そうか。。やはりな。。」



女の子「ひとつ頼みがある。遠からず奴らが訪ねて来るだろう。その時私を共に連れて行ってくれまいか。」



ショウ「はぁ?。。あの?。。どう言う意味でしょう?」



女の子「お前はサークルアンデットがただのゲーム会社だと思っているのだろう?」



ショウ「ち、違うんですか。。?」



女の子「やつらの起源は古い。その歴史は____」



言いかけた瞬間またインターホンが「ピーッ」と鳴った。



女の子は「来たか。私はアナト。死にたくなけれは同行させろ。」



そう言うとアナトは見る見る少し小柄な、と言っても部屋で買うには少し不自然なくらい大きいシベリアンハスキーに姿を変えた。



ショウ「ええええええ??」



ショウはアナトの変身に驚いたがとにかく今は外の様子を伺う方が先決だった。



外には敵か味方か黒い制服を来た三人の男達の姿があった。



自分を捉えに来たのだろうか?



ショウの心は焦りでいっぱいになっていた。

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