第49話 即席パーティー
シエル・ウラヌスとエレクトラ・ル・スレイヤーズの二人を加えて、最難関ダンジョンの一つである『永久図書館』を攻略することを決めた。
しかし、いくら無茶に慣れた俺であっても、即席のパーティーで難関ダンジョンに挑んだりはしない。
パーティーでの連携をとれるようにするため、事前に難易度が低めのダンジョンに挑んで『慣らし』をしておくことにした。
「……と、いうことで集まってもらったんだが。何だよ、その不服そうな顔は」
集まってもらった面々を見やり、俺は溜息をつく。
「…………」
「…………」
俺の前には二人の女がいる。
臨時パーティーのメンバーであるシエルとエレクトラだ。
二人は何が気に入らないのかしかめっ面をしており、憮然とした様子で俺の前に並んでいた。
「……『永久図書館』に行くと思ったのに」
「レオンを助けるためなんでしょ? 寄り道している暇はないはずよ!」
エレクトラとシエルが同時に抗議してくる。
つまり、彼女達は『慣らし』などいらないから、さっさと『永久図書館』に行きたいと言っているのだ。
「いや、馬鹿かよ。ダンジョンを舐めてるのか?」
俺は王女がいることも忘れて暴言を吐く。
「臨時で組んだパーティーで初見の最難関ダンジョンにいけるわけがないだろうが。自殺がしたいのなら他所でやってくれ。俺を巻き込むなよ」
「ムウ……それはわかってるけどさあ……」
シエルが不満げに唇を尖らせ、目を逸らした。
ツンデレの幼馴染ヒロインである彼女のお決まりの顔。ゲームでは何度も出てきた表情である。
「私、早くレオンを助けなくちゃお見合いさせられて結婚することになるんだけど? 寄り道してて間に合うの?」
「さあな。それはそっちの事情だろう? こっちの都合としては……出来ればレオンを助けたいが、そのために無茶をして命を投げ出すつもりはないんだよ」
レオン救出は必須の義務というわけではない。
さすがにシエルに向かって口にするつもりはないが……ぶっちゃけてしまえば、モニカという勇者の代理が見つかっている以上、レオンの存在は必ずしも必要ではないのだから。
「強制するつもりはない。文句があるのなら、そっちはそっちで勝手にしてもらって構わないが……どうする?」
「……いくわよ。貴方の指示に従う。それで文句ないんでしょう?」
「結構。それで……王女殿下はどうする? 俺に乗るか?」
「……私も構いませんわ。バスカヴィル卿に従います」
エレクトラも不満そうではあるものの、どうにか納得してくれた。
彼女が永久図書館に行きたい理由については聞いていないが……おおよその察しは付いている。
ある病に侵されている彼女の妹……第三王女殿下を救う手立てを探しているのだろう。
エレクトラは貴重な『高位呪術師』で戦力になることだし、第三王女に対しても個人的に思うところもあるので追い出したりはしない。
新参者二人の同意を得て、俺は大きく頷いた。
「ならば良し。それじゃあ、二人に納得してもらったところで……ダンジョン『賢人の鍛錬場』に入るぞ」
俺達がやってきたのは、スレイヤーズ王立剣魔学園。そこにある生徒の練習用ダンジョンの一つだった。
初回のチュートリアルダンジョンである『賢人の遊び場』の上位ダンジョンであり、高ランクダンジョンの中では比較的、難易度も低い場所である。
特に魔法使いを育成しやすいダンジョンでもあるので、このパーティーにとっては格好の場所だった。
このダンジョンに攻略するには、学園に事前申請しなければいけない。
最近、学園の授業にはほとんど出ていないため、職員室に申請用紙を届けた際には担任のワンコ先生に嫌味を言われてしまったが。
本来、学生である俺はもちろん学校に通わなければいけない。
しかし、学園の授業には例外があって、特殊な事情がある生徒は出席を免除されているのだ。俺もまた公爵家の仕事があることを理由として免除を貰っている。
説教が終わると、すぐにダンジョン立ち入りの許可は出た。実力不十分な生徒がダンジョンに入って死ぬのを予防するための審査なので、すでにいくつもの実績を挙げている俺であれば問題なく審査が下りた。
「パーティーの布陣だが、前衛はもちろん俺。中央にエレクトラ殿下、後衛にエアリスとシエルがついてもらう。俺が抜かれた場合にはエレクトラ殿下に対処してもらうことになるが……構わないだろうか?」
「いいですわ。私だってそのつもりで来たのですから、足手纏いにはなりませんわ」
エレクトラが頷く。
『高位呪術師』は魔法使いの中では攻防に優れていて、使いどころの広いジョブだった。前衛にも後衛にも動ける位置に置いておくのが最善である。
「エアリスは回復優先。シエルは後方から魔法で攻撃してもらうが、
「わかりました。サポートはお任せください」
「わかってるわよ! 心配しなくても、味方を魔法に巻き込んだりしないわ!」
「ならば良し。それじゃあ……ダンジョンに入るとしようか」
俺達は学園の敷地内にある塔へと向かった。
塔の入口には警備員が立っているが、事前に学園に申請してもらっていた許可証を提示するとすぐに通してくれる。
「くれぐれも油断なくいくぞ。攻略開始だ!」
俺の号令と同時に、全員がダンジョンの内部に足を踏み入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます