第41話 王への要求


「話の前に……国王陛下、まずは人払いをお願いしたい」


 俺は開口一番にそう切り出した。

 玉座の間には侍従や騎士など、少なくない人がいる。

 これから話す内容は、あまり余計な人には効かせられないものだった。


「ム……内密な話ということか?」


「はい、間違いなく」


「…………」


 国王が無言で手を振ると、玉座の間に控えていた騎士や侍従が退室していく。

 大臣らしき男と白鎧を着た年配の騎士……名前は忘れたが、NPCとして登場していた騎士団長だけが残っていた。

 部屋に残っているのはいずれも王の側近ばかり。これならば、話しても問題ないだろう。


「すでにアルテリオ公爵から話は聞いているかもしれませんが……先の戦いにおいて、勇者の子孫であるレオン・ブレイブが敵の術中にかかり、魔物に姿を変えられてしまいました」


「フム……報告は受けている。ダンジョン深部にあったコアを利用されたという話だったか?」


「はい、その通りです。魔王軍を率いていた将……ボルフェデューダという魔物によって、やられてしまいました」


 俺の言葉に、玉座の国王が眉間にシワを寄せる。


「ダンジョンで倒れた冒険者などがアンデッドになる事例は確認されているが……よもや、生きた人間を魔物に変える力があるとは知らなんだ。そのレオンという少年も災難だったようだな」


 国王は同情したように言いながらも、「だからどうした?」と首を傾げた。

 レオンはゲームにおいては主人公だったが、この時点においては『勇者を祖先に持つ成績優秀な学生』という程度にしか認知されていない。

 国王もレオンが魔物になったことを、さほど気にしてはいない様子だ。


「俺はどうにかして、レオンを人間に戻す方法を探したいと思っています。そのために、『永久図書館エターナル・ライブラリ』への立ち入りを許可してもらえませんか?」


「…………!」


 俺の言葉に、国王が目を見張った。

 王都には王宮が管理している大図書館がある。

 国中からあらゆる本が集められており、貴重な魔導書なども保管されている場所だ。

 大図書館はスレイヤーズ王国の国民であれば誰でも立ち入り可能な『一般エリア』、貴族階級の人間だけが入ることができる『特別エリア』に分けられている。


 しかし、実は大図書館の地下には禁書とされる危険な本を集めた『超級管理エリア』というものがあり、そのさらに奥には『永久図書館』という特別な場所が存在していた。


「……どうして、『永久図書館』のことを知っている? まさか、父親……ガロンドルフから聞いたのか?」


「まあ、そんなところです。俺と父は仲良し親子でしたからね。その程度の世間話はしますよ」


 国王が怪訝に問うてくるが、俺は肩をすくめて受け流した。


「……本気で殺し合いをしておいて、どの口で言うか。ガロンドルフが機密情報を漏らすとは思えぬし、バスカヴィル家の力で調べたのか?」


「どうやって知ったかなど、どうでも良いことでしょう? 『永久図書館』には建国から現在に至るまでのありとあらゆる歴史が記録されており、闇に葬られたはずの真実でさえ、そこにはある。スレイヤーズ王国の闇を管理する人間として、俺はそこに立ち入る資格があるはずです」


『永久図書館』は『1』において、シナリオクリア後に入ることができるようになる追加コンテンツだった。

 そこには禁書の中のさらに禁書である書物や、歴史の闇が封じ込められており、国王を含めたわずかな人間しか存在を知ることが許されない。


「そして、『永久図書館』の番人はこの世のありとあらゆることを知っている。魔物に変えられたレオンを救い出す方法だって、知っているかもしれない」


 俺の目的はその番人に会うことである。

 ゲームクリア後に出現するエクストラダンジョン――『永久図書館』。

 そのダンジョンではクリア後の追加要素として、ゲームプレイ中のイベントのハイライトやレコードを確認することができるのだ。

 イベント時に発生したアニメ映像をまた見ることができたり、魔物の連続討伐などの記録を確認、条件が揃えば報酬アイテムを手に入れることもできた。


 また、そこを管理している番人は『この世の始まりから存在していて、全ての知識を持っている』という設定があったはず。

 その設定が事実であるとすれば……あるいは、レオンを元に戻す方法だってわかるのではないか。


 俺の要求を受けて、国王が玉座に座ったまま口元を手で覆い、難しい顔で唸った。


「フム……確かに、代々のバスカヴィル家の当主もまた『永久図書館』に立ち入る権利があったな。バスカヴィル家は悪人ばかりではなく、反逆を企む政治犯を始末することもある。そういった表沙汰にできない暗殺の記録などもそこに収められている。いずれ時が来ればそなたにも伝えるはずだったが、手間が省けたと思うべきか……」


 考え込んでいた国王は顔を上げる。

 先ほどまでの厳格な表情から一変して、悪戯を企む小童のような顔になっている。


「いいだろう。『永久図書館」への立ち入りを許可する……ただし、条件付きだがな』


 きた……予想通りの展開だ。

 俺は緊張から顔を引き締め、国王の言葉の続きを待った。

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