第17話 謎解き
そのままダンジョンを進んでいった俺達は開けた空間へとたどり着いた。
体育館ほどの広さの空間である。床には矢印によく似た形の模様が描かれたパネルが無数に並べられており、部屋の奥には次のフロアに続く扉が見える。さらに入口の横には階段があって地下に通じているようだ。
「お、最初の関門に到着したな」
謎解きダンジョンである『アルテリオーレの奈落』。その最初の謎解き部屋である。
「何だ、この床は? 不思議な形をしているな?」
ナギサが警戒したように大部屋を見回した。
モンスターがいるわけでもなく、宝箱があるわけでもなく……一見すると扉と階段以外は何もない部屋であったが、床に並べられたパネルだけが異様な存在感を放っている。
そう……ここはドラ〇エをはじめとした多くのゲームに登場する『移動床』トラップの部屋だった。
このパネルの上に乗ってしまうと矢印の向きに流されてしまい、移動中は一切身動きが取れなくなってしまう。
正しいパネルに乗ればそのままゴールに到着することができるが、間違えると落とし穴に落ちてしまう……そういう構造になっている。
「む……頭を使うことは苦手だな。どこから乗れば扉にたどり着くことができるのだ?」
「なに、これは最初の謎解きだ。そう難しい話じゃないさ。まずはゴール地点のパネルを見て、そこから矢印を逆向きにたどってスタート地点までさかのぼれば……」
「とうっ、ですのっ!」
「えいっ!」
「あ」
説明を終えるよりも先に、ウルザとモニカがパネルに乗ってしまった。
「うおいっ! 勝手に乗ってんじゃねえ!?」
「「ひゃああああああああああああああっ!?」」
俺が慌てて手を伸ばすが……彼女達の身体を掴むことはできなかった。
二人の小さな身体がパネルに描かれた矢印の向きへと流されていく。想像以上のスピードで。
「速い、速いですのっ!」
「わああああああっ! これ、ちょっと楽しいかもっ!」
矢印に逆らえずにグルグルと部屋を移動する少女らであったが、意外と余裕そうである。
ジェットコースターに初めて乗った子供のようなリアクションをしていた。
「ご主人様! これはどうやったら止まりますの!?」
「いや、ゴール地点に着くまで止まらな……あ」
「ひゅおわああああああああああああああああっ!?」
ウルザが矢印の先にあった落とし穴に落ちていく。
ドップラー効果のように悲鳴が流れていき……やがてボチャンッと水音がした。
「ふあああああああっ! 濡れてしまいましたのおおおおおっ!」
地下に通じる階段から、ビチャビチャに濡れたウルザが駆け上がってきた。
落とし穴の下には小さなプールがあり、落ちると水属性のダメージを受けてしまうのだ。
「あうー……ヌレヌレのエッチな姿になってしまいましたの。身体の凹凸が浮き彫りになってサービスカットですの……」
「お前の身体のどこに凹凸があるんだよ。それよりも、モニカは……」
「わああああああああああああっ!」
甲高い声がする方向に目を向けると、モニカはまだパネルで移動中だった。
猛スピードで部屋の中を移動しているモニカであったが……その進行方向上には落とし穴がある。
このままでは、モニカもまた落ちてしまうだろう。下に落ちて、プールによる水属性ダメージを受けてしまう。
「不味い……!」
ウルザはタフだから良いとして、モニカはまだまだ未熟。トラップによるダメージでも致命傷になりかねない。
「モニカ!」
「モニカさん!」
俺とエアリスが叫んだ。
だが……当のモニカはというと、パネルに流されながら右手を振るった。
右手から放たれたのは蛇腹剣。ワイヤーにつながれた刃が勢い良く伸びて、天井に突き刺さる。
「エイッ!」
モニカの身体が宙を舞う。
天井に刺さった蛇腹剣に身を任せて、まるで蜘蛛を模したアメリカンヒーローのように大ジャンプをした。
「ひゃんっ!」
大きく飛んだモニカが背中から床に墜落する。
無様に転びはしたものの、扉のすぐそば……ゴール地点へと見事にたどり着いた。
「つ、着いた……はううっ、楽し怖かったあ……」
「おいおい、嘘だろ?」
アイツは何かの加護でも得ているのだろうか。
フックショットはドラ〇エじゃなくてゼ〇ダの伝説だろうが。
反則じみたやり方によってゴール地点に到着したモニカに、俺は思わず肩を落とした。
「なるほど、ああして攻略すればいいのだな!」
一方で、ナギサが感心した様子で頷いた。
俺の脳裏に嫌な予感が走る。止めようと声をかける前に……ナギサが動き出す。
「参る!」
ナギサが床を蹴ってジャンプして、数枚のタイルを飛び越した。
そのまま下に着地するかと思いきや……刀を抜いて、下に向けて振るう。
「青海一刀流――凍波!」
ナギサの刀から青い斬撃が放出される。
波打つ水のようなエフェクトが放たれ、発生した衝撃によってナギサの身体が浮き上がった。
「フッ!」
斬撃の勢いで舞い上がったナギサは腰から別の剣を抜いた。モンスターを解体する際に使用している短剣である。
ナギサは天井に短剣を突き刺し、腕の力と身体のバネを使ってゴール地点に飛んだ。
「よっと……私も成功だな」
ナギサはモニカのように無様に転ぶことはなく、見事に両脚で着地した。
一度もパネルを踏むことなく……完全にこの部屋に設置されたトラップの趣旨を無視している。
「ウルザもいきますの! ふおおおおおおおおおおおおおっ!?」
またしても適当なパネルに飛び乗ったウルザが落とし穴の下に落ちていく。ボチャンと水音が地下から聞こえてきた。
落ちては上がってきて、またパネルに飛び乗る。まるでゲームのルールを理解していない子供のようなゴリ押しの攻略である。
「……少しは頭を使えよ。お前ら」
謎解きとは関係ないやり方で攻略している仲間達に、俺は途方に暮れて立ちつくす。
何故だろう……別に俺が落ち込むことではないだろう、無性に虚しい気持ちになってくる。
「え、えっと……あのパネルはこっちに続いていて、こっちのパネルがつながって……」
そんな中で、エアリスだけがまともに謎解きをしている。
パネルの向きと順番を計算して、どこに乗ればゴール地点にたどり着けるのかを計算していた。
ダンジョンの製作者の意図したとおりに謎解きをしている姿を見て、俺は感極まってエアリスを抱き寄せてしまう。
「エアリス! お前はやってくれると信じてたぞ!」
「きゃあ! 何ですか、こんなところでダメですわ……!」
俺の腕に抱かれて、エアリスが嬉しそうに鳴いて豊満に実った身体をよじらせるのであった。
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