第15話 初戦闘
大穴に飛び込んで数秒の浮遊感の後、すぐに地面に着地した。
「きゃっ!」
「おっと……!」
同じく、穴に飛び込んできたエアリスの身体を抱きとめる。
隣ではウルザが「バビュッ!」と両手を挙げて謎のポーズを決めて着地しており、モニカをお姫様のように横抱きにしたナギサも降りてくる。
「さて……ここからのことだが、事前に決めておいた手はず通りにいくぞ」
今回のダンジョン探索の最優先目標は『レオン・ブレイブを発見すること』。二次的な目標が『モニカを保険の勇者として育てること』である。
レオンがもしも死んでいた場合、早急に新しい勇者を用意しなくてはいけない。勇者でなければ発生しないイベントや、手に入らないアイテムがあり、魔王の封印も勇者以外には不可能だからだ。
そのため、モニカに少しでも経験を積ませて、スキルの熟練度も上げる必要があった。
『ウギギギ……』
『シャア……』
「お……さっそく
俺達の侵入に気がついたのか、ダンジョンの奥からモンスターが現れた。
大型犬ほどもある大きなバッタと真緑色の不気味な大蛇である。
バッタの方は『ソルジャー蝗』、大蛇は『グリーンタイラント』というモンスターである。いずれもゲーム中盤辺りで登場する敵だ。
「……さっそく敵のお出ました。モニカ、やれるな?」
「う、うん。大丈夫っ……!」
「そうか……それじゃあ、行くぞ! ナギサ!」
「承知!」
俺とナギサが同時に飛び出した。
俺はソルジャー蝗に、ナギサはグリーンタイラントめがけて攻撃を浴びせかける。
「『手加減攻撃』!」
「『峰打ち』!」
『ウギイッ!?』
『シャアッ!』
俺が振るった剣が巨大なバッタを叩き潰し、ナギサの刀が大蛇の胴体を薙ぎ払う。
俺もナギサもすでにシナリオ後半レベルの実力は有している。この程度の敵など一撃で葬り去ることができるだろう。
『ギギギギ……!』
『シャア……!』
だが……敵は二匹とも生きていた。
それもそのはず。俺とナギサが使用した武技はどちらも相手を殺さないように手加減するための技。この技をいくらぶつけても敵を殺すことはないのだ。
「それでは、援護します。パワーアップ、ラビットフット!」
エアリスが補助魔法を発動させた。
魔法の対象は前線で戦っている俺やナギサではない、後方でウルザに庇われているモニカである。
「よし、やれ! モニカ!」
「う……うん。いくよっ!」
モニカが一歩前に出て、蛇腹剣を振るう。
手加減をした攻撃によって弱っている魔物へと、鞭のようにしなった刃が命中する。
『ギイッ!?』
避けられずに攻撃を受けたソルジャー蝗が倒れて、そのまま動かなくなった。
もう一体のグリーンタイラントには当たらない。外してしまった。
「もう一回だ、やれ!」
「うんっ!」
『シャッ!?』
モニカが再び蛇腹剣を振りかぶる。
狙いすました一撃は今度こそグリーンタイラントにヒットし、こちらも倒れて動かなくなった。
モニカが大きく肩を上下させ、困惑したようにエアリスの顔を見る。
「えっと……や、やったのかな?」
「はい。モニカさん、良くできました!」
エアリスがモニカの頭を撫でて称賛した。
おそらく、まともに実戦を経験したのは初めてのことだろう。モニカは見事に初戦を勝利で飾ってみせた。
「意外と手先が器用なんだな。この調子で隙あらば攻撃をしろ。別にハズしても構わないが、仲間に当てることだけはないように気をつけろ」
「うん、わかったよ! 頑張るっ!」
敵を倒したことで自信がついたのか、モニカが元気良く返事をした。
事前に決めておいた作戦だが……俺とナギサが前方に出て、手加減をした攻撃でモンスターを弱らせる。
弱ったところを、エアリスの補助魔法を受けたモニカがトドメを刺す。
ウルザはモニカの護衛である。モニカが攻撃を受けないように、『威圧』のスキルで敵を引きつけつつガードする。
『ダンブレ』の世界にはレベルというRPGでおなじみのシステムが存在しない。強さを決めるのはジョブとスキルである。
スキルは何度も使用することで熟練度が上がって強くなっていくが、戦闘系のスキルは敵を倒すことでより上昇しやすくなるのだ。相手にヒットさせるだけでも上がるには上がるのだが、トドメを刺すことでより上昇しやすくなるのである。
「この調子で経験を稼いでいくぞ。道順は……こっちだな」
メーリアから聞いたように、地面に血痕がついていた。時間が経って黒くなっているが……ダンジョンの奥へと続いている。
「道はこっちで間違いなさそうだ。それじゃあ……行こうか」
「ハイッ! 頑張りますっ!」
「むう……退屈ですの。不完全燃焼ですの」
元気良く返事をするモニカと、何もやっていなくて不満そうなウルザ。
ナギサとエアリスも与えられたポジションを守りながら続いてくる。
四人の仲間達を率いて、俺はダンジョンの奥へと進んでいったのであった。
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