第10話 会議は踊る

 アルテリオーレの奈落。

 それは『1』のシナリオ後半に登場するダンジョンであり、いくつかの条件を満たすことによって入口が出現するものだった。

 ダンジョン出現の条件はいくつかあるが……そのうちの一つは『アルテリオーレ防衛戦』が終わっていること。イベントの攻略達成率が70パーセント以上であり、都の防衛に成功していることだった。

 他にも入口を開くためのアイテムの入手であったり、鍵となるキャラクターとの会話イベントであったり、条件はあったのだが……レオンと魔王軍四天王との戦いによって予想外に入口が開いてしまったらしい。


「『奈落』は実のところ、そこまで難易度が高いダンジョンじゃない。あそこは謎解きメインのダンジョンだからな。そこまで強い魔物は出ないんだ」


 俺はゲームの知識を思い返して、そんなことを口にする。

 『奈落』に登場するモンスターの強さはゲーム全体から見て『中の下』レベル。シナリオ後半であれば難なく倒せるような敵だった。

 厄介なのは、そこが謎解きダンジョンであること。各所で出てくる問題を解きながら進んでいくダンジョンなことである。

 選択肢を間違えてしまうとダメージを負ってしまったり、デバフがかかってしまったり……時には面倒なボスモンスターと戦うことになってしまう。


「状況を見た限り楽観はできないが……レオンがまだ生きている可能性はあるはずだ。『奈落』にはレオンを倒せるほどの魔物はほとんどいないし、ダンジョン内に隠れる場所は多いからな。四天王にやられた傷をアイテムで上手いこと治して、やりすごしている可能性はゼロじゃない」


「…………!」


 俺の説明を聞いて、モニカが肩を震わせる。

 兄が生きているかもしれない……そんな希望を前にして、手に持ったグラスを握りしめていた。


「言っておくが、あくまでもゼロじゃないというだけのことだ。捜索はするが期待はするなよ?」


「……わかってる。でも、少しでもお兄ちゃんが無事でいるかもしれないのは嬉しいから」


「モニカさん……」


 モニカの隣に座っているエアリスが、優しく少女の背中を撫でる。

 モニカも年上女性の温かい気遣いに微笑みを浮かべ、大きく頷きを返していた。


「むしゃむしゃ、もりもり」


 そんな柔らかな空気をよそにして、ウルザはホテルのボーイが運んできた軽食をモリモリと食べている。

 うん、まるで空気を読めていないな。というか……この食いっぷりを見ると、軽食じゃなくて本格的な食事を頼んだ方が良さそうだ。


「それで……我が主よ。どのようにして迷宮を攻略するつもりなのだ?」


「どのようにも何もないさ。穴に入る。謎を解く。ダンジョンを攻略する……ただそれだけだ」


 ナギサの問いにあっさりとした口調で答える。

 今回のミッションは実のところ、それほど難しいわけではない。

 『奈落』は高難易度のダンジョンであったが、あくまでも謎解き要素が難しいのだ。

 謎の解き方をすでに知っている俺がいる時点で、もはや攻略は成功しているも同然である。勝ちが確定した作業になっていた。

 難しいことがあるとすれば……何処にいるかもわからないレオンを探さなくてはいけないことである。

 仮にレオンが死んでいるとしても……出来ることならば、遺体くらいは回収しておきたい。


「タダの感傷に過ぎないことだが……一応はクラスメイトだからな。そのくらいはしてやるさ」


「我が主……」


「さて……攻略のパーティー構成だが、これもいつも通りだ。ナギサとウルザが前衛。エアリスが後衛。俺は中央に陣取って臨機応変に動く」


 作戦はいつも通り。特に変わりはない。

 一年以上もこのパーティーで探索しているのだ。先日まで砂漠の姉妹と組んでいた臨時パーティーよりも遥かに動きやすい。


「レオンを見つけられるかどうかは別として、ダンジョンの探索自体は一日で終わらせることができるはずだ。モニカはそれまで宿で留守番をして……」


「あ、あのっ!」


「くれれば良いんだが…………どうした?」


 急に手を挙げたモニカに、俺は眉をひそめた。

 先ほどまでエアリスに慰められていたモニカであったが、今は決意を込めたような毅然とした顔になっている。

 エアリスやナギサもモニカの方を見やった。ウルザでさえもポテトを口に詰めながら新参者の少女を見つめている。


「わ、私もダンジョン攻略に参加させてっ! お兄ちゃんのことを探しに行きたいのっ!」


 一同の視線を受けながら……モニカがそんなふうに宣言した。

 年端もいかない少女からの宣言に、俺達はそろって目を白黒とさせたのである。

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