第82話 最悪の夢、極上の朝
「あ、バスカヴィル様。起きたんですか?」
「……おはよう」
目を覚ますと……俺はベッドの中に寝転がり、隣にいるリューナに頭を抱かれていた。
すぐ目の前には褐色の肌。頬に当たる柔らかな乳房の感触。
美姫の胸の中で目を覚ますという、男の本懐ともいえる極上の目覚めである。
「うなされていたみたいですけど……何か悪い夢でも見ていたのですか?」
「いや……忘れた」
何か夢を見ていたのは覚えているが……内容はまったく覚えていない。
覚えていないが、どことなく腹の立つ夢だったような気がする。腹にムカムカとした感覚が
「まあ、いいさ……どうでもいい。忘れるってことは大した夢じゃなかったんだろうよ」
「あ……」
憂さ晴らしも兼ねて、リューナの胸に顔を埋める。
細い身体がビクンッと跳ねて、俺の頭を抱く腕の力が強くなった。
「昨晩はあんなにしたのに……もう元気になったのですか?」
「若さってのはそういうもんだ。四六時中、女のことしか考えられないのが十代の若造なんだよ」
「可愛がってくださるのなら光栄です……何度でもしてくださいな」
リューナが俺の頭を抱いたまま、掌で髪をかき混ぜてくる。
母親が子供を慈しむような優しい手つきだ。それだけで泥のようにこびりついた夢の残滓が消えていく。
極楽浄土に昇っていくような幸福な感触。夢の中でとんでもなく重要な情報を与えられたような気がするのだが……美女の肌の感触の前には、どうでも良くなってくる。
「もちろん、やらせてもらうが……こっちはどうしたものかな?」
「ムニャムニャ……リューナ……お姉ちゃんがまもってあげるからね……」
「……デカい寝言だな。まったく」
腰に当たるささやかな感触。リューナよりも小ぶりな乳房が押しつけられている。
ベッドの反対隣に眠っていたシャクナが俺に抱き着いてきたのだ。「ムニャムニャ」と現実で聞いたことがない寝言を口にしながら。
「ガキかよ、この女王様は。これが一国の君主の寝姿とは笑えるぜ」
こんなガキっぽい女がマーフェルン王国の女王となって、はたしてやっていけるのだろうか?
「大丈夫ですよ。お姉様は真面目でしっかりしていますし。普通に良い女王になると思いますよ?」
「そうだといいんだが……まあ、議会制も導入されたことだし、問題はないだろう。それにしても……今回はやれやれな長旅だったな」
誰もが忘れかけていたことだが……俺がマーフェルン王国にやってきた当初の目的は、勇者の子孫であるシャクナと接触すること。
レオンとは別に勇者の子孫を仲間にすることで、魔王に対抗することが目的である。
しかし、勇者の子孫であるシャクナ・マーフェルンはこの国の新たな王となってしまい、仲間として連れて帰るどころではなくなってしまった。
「当てが外れたな……まあ、ルージャナーガを倒せたから、無駄足というわけではなかったが」
魔王軍四天王の
ルージャナーガによって村や町が滅ぼされ、失われるはずの命を救うことができた。魔王軍との戦いも有利になるだろう。
「バスカヴィル様?」
物思いにふける俺にリューナが不思議そうな顔になっている。
それに……何よりの収穫として、生け贄として死ぬはずだったリューナを救い出すことができた。
もしも俺がマーフェルン王国に来なければ、彼女は今頃、物言わぬ骸となっていたはず。
「ムニャムニャ……この変態、どこ触ってんのよ……」
そして、俺の背中に抱き着いているシャクナもまた妹を亡くして絶望し、戦乱の果てに命を落としていたことになる。
二人を救い出すことができたのは奇跡のような成果。こうして、美少女姉妹に挟まれてベッドの中でサンドイッチになっているのが最大の報酬といえるだろう。
「悪くない。少しも、ちっとも悪くはなかったな」
「んんっ!」
リューナの身体に抱き着いたまま、両手で滑らかな肌をまさぐる。
せっかくだ。追加報酬をいただくとしよう。
女神に報酬をもらえなかったのだ。その分、姉妹には追加でご褒美をもらわなければやっていられない。
「ん……女神って誰だ?」
ふと頭に疑問が浮かんだが……やはりどうでもいいことだ。夢の中で出会った不愉快な女のことなど忘れてしまおう。
その後、俺は夜も明けたというのに何度となくリューナの身体を求めた。
途中で目を覚ましたシャクナが状況に気がつき、慌ててベッドから抜け出そうとするが……もちろん、逃がしはしない。
魔法で影を操ってベッドに引きずり込み、姉妹丼をたらふく喰わせてもらった。
身体を重ねること三日三晩。
ずっと寝室から出てこなかった俺達にウルザらが不機嫌になり、一悶着、騒動が巻き起こるのは別の話である。
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