番外編 ウルザとレヴィエナの冒険 ③


 マーフェルン王国王都。そこは砂漠を縦断する大河の流域にある城塞都市である。

 砂漠の中心にありながら周囲には肥沃な土壌が広がっており、外壁の外側には小麦や野菜、果物などが生産されていた。

 都の四方を高い城壁で囲まれており、魔物や敵国の侵略を防げるようになっている。城壁の上にはバリスタや投石器が設置されており、飛行型モンスターの侵入に備えて兵士が頭上を見張っていた。


 城門で簡単な審査を終えて、ウルザとレヴィエナは王都の内側へと足を踏み入れた。

 石造りの城門のすぐ内側には広々とした道が伸びている。道の先、遠くに白亜の城が見えた。おそらく、あれがこの国の国王がいる宮殿だろう。

 城門をくぐる際、検問をしていた兵士に砂賊の頭領を引き渡し、レンタルした竜車が砂賊の罠であったことも報告しておく。

 捕らえた賊の持ち物は全て国に所有権があるらしく、砂賊が持っていた武器や竜車、砂竜もすべて城門で没収されてしまった。

 おまけにかなり高額の通行料まで支払わされて、ウルザもレヴィエナも納得のいかない心境となってしまう。


 ともあれ……2人の女性は王都に到着する。

 ゼノンとの待ち合わせ場所。この旅の目的である地にたどり着いたのであった。


「ここが王都ですの……ようやくたどり着いたですの!」


 到着した王都の街並みを見回し、ウルザが鬼棍棒を頭上に掲げた。

 ゼノンと別行動になってから丸1日。「ようやく」というほど長い時間ではなかったものの、ウルザにとっては一日千秋の思いである。

 愛する主人と会えない時間がどうしようもなく焦がれて仕方がなかった。


「ゼノン坊ちゃまは……おそらく、まだ到着していないでしょうね」


 ウルザに続いて町の城門をくぐったレヴィエナがため息混じりに口にした。

 怪鳥ファルコン・ファラオによって連れ攫われたゼノンであったが、飛んでいった方角は王都とは真逆である。

 どれほど早く脱出できたとしても、2人よりも先に王都に到着することは不可能だろう。


「とりあえずは宿を取りましょう。そして……今のうちに坊ちゃまのために情報収集をしておきましょうか」


「情報収集……ですの?」


 ウルザが首を傾げた。

 キョトンとしたあどけない顔。本当にわかっていない表情だった。


「この旅の目的を忘れたんですか? 私達はこの国の導師――ルダナガという人物について調べるために来たんですよ?」


 最近になって、他国の貴族や無法者がスレイヤーズ王国を荒らすようになっている。

 その陰に謎の導師――ルダナガなる人物が暗躍していることを知って、それを調査するために隣国までやって来たのだ。

 ちなみに……2人にはゲームの知識などはないため、魔王軍四天王であるルージャナーガについては知らなかった。


「坊ちゃまが王都に来られるまでに導師とやらについて調べておきましょう。ウルザさんも坊ちゃまのお役に立ちたいですよね?」


「もちろんですの! ご主人様のためなら、ウルザは何だってしますの! 誰だって殺しますし、いくつだって潰しますの!」


「はいはい、何を潰すのかは聞かないでおきますねー。とりあえずは街の様子を見ながら宿を探しましょう。拠点確保です」


 レヴィエナとウルザは連れ立って大通りを歩いていく。

 町の中央にある大通りであったが……意外なほどに人影は少ない。まだ日が高い時間だというのに閑散としていた。

 通りの左右には商店や露店が並んでいるが、そこで売られている商品は驚くほどに少ない。客足も薄く、店主も暗い表情になっている。


「……随分と暗い街ですの。ここは本当にこの国で1番大きな町ですの?」


 大通りを歩きながら、ウルザが怪訝そうにつぶやいた。

 スレイヤーズ王国の王都とは随分と違う。あちらは昼間はいくつもの店が賑わい、夜には酒場や娼館などが開いて別の意味で賑わっている。通りから完全に人の行き来が消えるのは深夜か夜明けくらいのものだった。


「……おそらく、高い通行料が原因でしょう。外から商品が入っておらず、行商人も来なくなっているのです。ひょっとしたら、王都に暮らしている住民にはさらに高い税金がかけられているのかもしれません」


 レヴィエナが推測を口にした。

 侯爵家の使用人である彼女の目から見ても、王都の通行税はかなりの金額だった。あんな大金を支払ってまで品物を運んでくる商人はいないだろう。

 また、通りのあちこちには浮浪者らしき人間が座り込んでおり、中には明らかに衰弱している者もいた。

 砂賊が蔓延はびこっているのも納得である。税金を支払えず、生活に困った国民が盗賊に落ちたのだ。


「……この国の為政者は何をしているのでしょう。このままでは、国そのものが腐り落ちてしまいます」


 マーフェルン王国は明らかに腐敗していた。初めて訪れた人間でもわかるほどに。

 このまま放置しておけば国民の多くが貧困から命を落としてしまう。住む人間がいなくなって緩やかに消え去るか、それよりも先に他国からの侵略や革命が起こって滅亡するか……どちらにしてもマーフェルン王国の命脈は太くはあるまい。

 レヴィエナの説明を聞いて、ウルザはうんうんと頭を抱えるようにする。


「ううん……難しいことはウルザはわかりませんの。それはともかくとして……気がついてますか、レヴィエナさん?」


「……ええ、わかっていますよ。後ろのお客人・・・のことですよね?」


 ウルザの言葉にレヴィエナも頷く。

 城門をくぐってからというもの、背後からついてくる気配を感じていた。


 自分達は尾けられている。それも複数の人間に。


「…………」


「…………」


 ウルザとレヴィエナは顔を合わせて頷き合い、あえて暗い裏通りへと飛び込んだのだった。






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