第50話 朝の風景


 その後、十分な睡眠を取った王女2人が目覚めたタイミングでハディスにも休憩をとってもらい、簡単な朝食を食べてから3日目の攻略を開始した。


 装備を整え、準備万端の格好になったシャクナが右手の拳を天井に突き上げる。


「さあ、『王墓』の探索も今日で3日目よ! 気合を入れていきましょう!」


「おーおー、朝っぱらから随分とテンション高いな。何をハシャイでやがるんだか」


「出たわね、色情魔! 貴方の好きにはさせないんだから!」


「……マジでハイになってるな。頭にピンクの蛆でも湧いたのかよ」


 ビシリと人差し指を突きつけてくるシャクナに、俺は呆れて肩をすくめる。


 シャクナが妙に盛り上がっている理由には何となく心当たりがある。

 これは『ダンジョン・ハイ』と呼ばれるもの。高難度のダンジョンで2日以上も過ごしたことで脳内麻薬がビンビンに吹き出し、テンションがマックスになっているのだろう。

 疲労して落ち込まれるよりはよほど良いが……若干、鬱陶しいのが難点である。


「とても清々しい気分です。今日も1日頑張れそうな気がします!」


 一方で、妹のリューナは何故か晴れ晴れとした表情になっていた。

 父親を妖しげな男に洗脳され、挙句得体のしれない怪物の生け贄にされそうなリューナであったが……まるで悩みなんて1つもないとばかりに爽やかな顔をしている。


「お前もどうした? よほど寝つきが良かったのか?」


「はい! よく覚えていませんけど……すごく素敵な夢を見ていた気がします! 身体も心もスッキリ爽快です!」


「…………」


 いや、昨晩のお前は「あん」とか「いやあ」とか、悩ましい声を上げていたはずだが。

 予知夢を見る能力を持っているとのことだが……夢の中で、知らないうちに調教をされてないか?


「そうなの? 羨ましいわね、私はすっごく不快な夢を見たわ!」


 シャクナが不愉快そうに表情を顰めながら、会話に入ってくる。


「すっごいスケベな最低男にいやらしーいことをされる夢よ! 交互に抱いて姉妹丼とか最低よね! 本当に死ねばいいのに!」


「私は素晴らしい夢でしたよ。敬愛するお姉様と2人で代わりばんこにしていただき、天に昇るほど気持ちが良かったです。ベッドの中で大好きな人達と3人1つになれるだなんて、あんなにも幸せなことがあるのですね」


「おい……お前らの夢、リンクしてないか? 姉妹ってそんな能力もあったりするのか?」


 2人そろって淫夢を見ていたようだが……どうやら、その内容は限りなく近いものだったらしい。どちらもそろって、いやらしいスケベ男に……というよりも、俺に身体を弄ばれていたようである。

 同じ夢を見たくせに感想は真逆らしい。是非とも正夢になることを……いや、ならないことを祈るばかりだ。


 俺はブンブンと首を振って雑念を追い払い、最後のパーティーメンバーに目を向ける。


「ハディスは十分に休めたか? 眠るのは随分と遅かったようだが……」


「ええ、問題ありませぬ」


 実直な神官騎士が短く応える。

 遅くまで見張りをしていたハディスは睡眠時間も少なかったと思うのだが……そんな様子はおくびにも出すことなく、真面目そうな顔をしっかりと引き締めていた。

 さすがは老兵というか……熟練の騎士の経験豊富さを窺わせる立ち居振る舞いである。


「それじゃあ……さっさと行くとしよう。今日の攻略目標は40階層。悪魔の巣窟で夜営するのは御免だからな。何としてでも休憩スペースまでたどり着くぞ!」


「ええ、もちろんよ! ガンガン敵を倒すわ!」


「頑張りましょうね。怪我をしたらすぐに言ってください! どんな怪我でも絶対に治してみせますから!」


 こうして、俺達は『サロモンの王墓』――3日目の攻略を開始した。

 30階層よりもさらに難易度が上がっているダンジョンへと、意気揚々と進んでいったのである。






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・毒の王

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