第49話 2日目の夜

 その日の探索を終えて、今日は休憩スペースで夜を明かすことになった。

 1日で20階層、30階層の連続攻略。強行軍に疲労したシャクナとリューナは、食事を済ませて水で身体を清めるや、すぐに眠りについた。

 休憩スペースに備え付けられたベッドで、褐色肌の美女2人が寄り添うようにして寝息を立てている。


「スー……スー……リューナ、絶対に護るからね……あんなスケベ男には触らせないから……お姉ちゃんが身代わりに……あううっ」


「あんッ……ダメです、変なものを入れちゃいけません。バスカヴィルさまあ……いやあっ」


「……どんな夢だよ。人聞き悪すぎるだろ」


 1つのベッドで眠っている姉妹を横目に、俺は苦々しく表情を引きつらせる。

 仲睦まじい姉妹だったが……はたして、その脳内ではどんな出来事が巻き起こっているのだろうか?

 はっきりと名前を呼んでくるリューナはもちろん、名言こそしていないがシャクナの夢の主役も俺のような気がする。

 彼女達の脳内で俺はとんでもないゲス男であることが確定しているのだろうか。いっそのこと、襲ってしまおうかと自棄になりそうな心境である。


「ハディス、お前も少し休んだらどうだ?」


「…………」


 俺は姉妹から目を逸らし、入口の扉近くに立って見張りをしているハディスに声をかける。

 実直な性格の神官騎士は昨日もあまり休んではおらず、誰に命じられたわけでもないのに警戒に勤めていた。


「お心遣い、かたじけない。しかし、私のことは気にしなくても構いませぬ。王女殿下らが目を覚ましたら休みますので」


「フン……ここは安全地帯だ。魔物は入ってこられない。そこまで用心する必要はないと思うがな」


 俺が探るように言葉をかけるも、ハディスの様子は変わらない。壁際に立って腕を組んだままである。


 そんな真面目腐った態度に心中で溜息を吐く。

 あえて声に出して指摘はしない。しないのだが……俺はハディスの態度にどこか疎外感を覚えていた。

 ハディスが迂闊に眠ろうとしないのは、魔物や導師の追手だけではなく、俺の裏切りをも警戒しているのだろう。


 シャクナとリューナ……マーフェルン姉妹とはだいぶ打ち解けたようだが、考えても見れば、俺が得体のしれない外国人であることに変わりはない。

 俺が実は敵と繋がっている可能性、あるいは邪な感情から王女二人に危害を加える可能性を疑っているのだろう。


 ここまで協力して信用されていないのは哀しいが……ハディスが悪いというわけではない。

 護衛として二人の王女の傍に仕えている騎士が、部外者を簡単に受け入れられないのは仕方がないことだった。


「真面目なことだ……あまり根を詰めないようにすることだ。壁役が先にバテて倒れたら、迷惑するのはそっちの二人だぜ?」


「然り。戦闘に疲れを持ち込まないように気をつけよう。老兵とはいえ、私も熟練の騎士だ。足を引っ張りはせぬよ」


「だったらいいけどな……悪いけど、俺は先に休ませてもらうぜ?」


「ええ、もちろん構いませぬ。ゆっくり休んでくだされ」


「……そうするさ。お休み」


 俺は見張りをしているハディスをそのままに、休憩部屋に備え付けられたベッドで横になった。

 目をつぶって眠りの誘惑に意識を委ねつつ……これまでの冒険と明日以降の予定について確認をする。


 2日間で30階まで到着した。即席パーティーにしては十分な成果と言えるだろう。

 だんだんとて気も強くなっており、罠も厳しくなっている。

 攻略スピードは徐々に落ちていくだろうが……それでも、順調にいけば2日で目標の50階層まで到達することだろう。


 欲を言うのであれば、60階層、70階層の攻略報酬も手に入れておきたいところだが……いくら何でも、シャクナ達にそこまでの苦労を求めることはできない。

 ボスモンスターだけなれば倒せなくもないが、途中の敵や罠まで相手にすることを考えると脱落者なしでそこまでたどり着くのは困難だろう。


 予定は変わらない。

 50階層まで攻略して、そこでダンジョン攻略を引き上げる。

 そして……マーフェルン王国の王都に向かって、別行動をとっている仲間と合流。

 50階層のクリア報酬である『オシリスの王笏』を使って王にかけられた洗脳を解き、導師ルダナガ――ルージャナーガと対決する。


「ふあ……」


 考えているうちに徐々に睡魔が強くなってくる。

 俺は大きなアクビをして、完全に眠りの世界へと落ちて行ったのだった。






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