第40話 クリア報酬
「おつかれ、なかなか悪くなかったぜ」
「バスカヴィル様……」
戦闘終了を見届けて、俺はリューナに荷物から取り出した水嚢を差し出した。
盲目の巫女は困ったように瞳を伏せており、なかなか水嚢を受け取ろうとしない。
「……私は何もやっておりませんよ。悪魔を打ち倒したのはお姉様とハディス様です」
どうやら、リューナは自分があまり活躍していなかったと思っているらしい。
確かに敵にダメージを与えてはいないが……それで『何もしていない』というのは見当違いである。
「おいおい、後方支援だって重要な仕事だろうが。お前は十分に働いたんだから謙遜するなよ」
補助魔法によるステータスの上昇もそうだが、いざとなったら怪我を治してくれる仲間がいるからこそ、前衛が危険を省みずに戦うことができるのだ。
リューナという優れた
「そうよ! 何もしていないっていうのは、こうやって後から偉そうに出てくる男のことを言うんだから!」
「お姉様……」
得意げな顔をしたシャクナが代わりに水嚢を受け取って口を付けた。中の水をゴクゴクと喉を鳴らして飲んで、リューナの口にも押しつける。
「私達は姉妹で仲間なんだから、補い合って助け合うのは当然でしょう? この勝利は私達のものなんだから、自分の価値を下げるようなことを言わないでちょうだい?」
「お姉様……ありがとうございます」
「ええ、ところで……私達の戦いは合格よね? 何もしなかった役立たずさん」
シャクナが「ふふんっ」とドヤ顔を俺に向けてくる。
俺は肩をすくめて、皮肉な笑みを返した。
「ギリギリ、及第点ってところだな。俺だったら1人で10秒もかかってないぜ?」
「相変わらず嫌みな男ね。顔は怖いし、自己中心的で口も悪い。貴方、絶対にモテないでしょう?」
「……モテてるよ。嫌ってほどにな」
シャクナの反撃に顔をひきつらせていると……「ポンッ」と音を立ててボス部屋の中央に宝箱が出現した。
「これは……」
「クリア報酬だ。トラップとかはないから開けてみろよ」
「…………」
シャクナが緊張した面持ちになりながら、宝箱に手をかける。
木製の箱を開いて出てきたのは……小指の先ほどの大きさの『豆』だった。
「へ……これだけ?」
「『グロウシード』か。ハズレではないが、当たりとはとてもいえない。運がなかったようだな」
最初のボス部屋である10階層のクリア報酬は5種類のアイテムの中から、ランダムで選ばれる。『グロウシード』は使用者の全ステータスを微上昇させる効果があった。
全ステータス上昇というと良いアイテムのように聞こえるが、このアイテムは1人1個しか使うことができないため、重ね掛けして大幅に強くなることは不可能。
何度も繰り返して『王墓』に挑戦していると、仲間に使いきれずに大量に在庫が余ってしまうことがあるあるのアイテムだった。
「ま……効果は薄いが、意味がないわけでもないからな。誰でもいいから使っておけよ」
「そう、だったらリューナが……」
「お姉様が使ってくださいな」
姉妹が同時に相手にアイテムの使用を勧める。
「導師に狙われているのはリューナなのよ? ささやかな効果とはいえ、使っておいて損はないでしょう?」
「私は魔力くらいしか戦闘で使用するステータスがありませんから。魔法も近接戦もできるお姉様が使った方が、有用に決まっています!」
言い募るシャクナであったが、リューナも譲らない。『譲る』ことを譲らない。
「俺もリューナの意見に賛成だ。グロウシードの効果は微々たるものだが、前衛も後衛もこなせるシャクナであれば生かせるだろう」
「でも……」
「お前が強くなればリューナを守るのに役立つ。リューナを守りたいのなら、まずは自分が強くなることを考えろよ」
「…………そうね」
シャクナが頷いて、七色の豆を手に取った。
極彩色の豆はとてもではないが食欲を誘われる色ではなかったが……シャクナはそれを意を決したように口に入れた。
「んんっ……!」
シャクナの身体が七色の光に包まれ、褐色肌の身体がピクピクと痙攣した。まるで背中を撫でられているような無駄に色っぽいリアクションである。
「こ、効果が出たのかよくわからないわね。心なしか身体が軽いような気がしなくもないけど……」
「ま、グロウシードの効力は微々たるものだからな。使わないよりはマシという程度に考えておいた方がいい」
俺は肩をすくめて、ボス部屋の奥にある鉄の扉を指差した。
「この先に魔物もトラップもない休憩エリアがある。そこで休んでから、次の階層に進もう」
「そうね……」
「はい、わかりました」
姉妹とハディスを伴って、俺は奥の扉を開いた。
10階層ごとに設置された休憩エリアは、ゲームであればセーブポイントが設置されていた場所である。
もちろん、現実にセーブポイントなど存在しないが……四角い部屋の中央には小さな噴水のようなものがあった。ゲームでお馴染み、体力や魔力を回復させることができる『治癒の泉』である。
「フッ……」
誰もいない安全スペースを確認して、俺は『王墓』に入ってから初めて気の抜けた安堵の溜息を吐いたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます