第11話 覚醒
『ダンブレ』に登場するキャラクターにはそれぞれ
『剣士』や『武闘家』のような戦士職。
『魔術師』や『神官』のような魔法職。
『商人』や『踊り子』、『魔物使い』のような特殊職。
『魔法剣士』や『僧兵』のように複数の職業の特徴を併せ持った
ジョブの種類は100種類以上。
特殊なアイテムの取得やイベント攻略などの条件をクリアしなければ就くことができない隠れジョブも存在しており、プレイヤーにとってジョブの選択はキャラクター育成を楽しませる要素の1つとなっていた。
キャラクターが最初に就いている初期ジョブは、スキルの熟練度を一定以上まで上げることにより上級職へとジョブチェンジすることができる。
例えば、『剣士』だったナギサは【刀術】スキルの熟練度を一定以上まで鍛えることにより、『剣豪』に転職した。
ナギサは東国のサムライだったために【刀術】を最初から覚えていたわけだが……もしもこれが【剣術】スキルだった場合、『
仮に【剣術】ではなく【盾術】を上げていた場合には『
ジョブチェンジをする方法はスキルの上昇や転職用アイテムを使うこと。条件が整うと、頭の中に『神託』の声が聞こえる。
声に従って転職を選ぶとジョブチェンジすることができ、ステータス値が大きく上昇、そのジョブ特有のスキルを覚えることができるのだ。
〇 〇 〇
「主人公が『勇者』になるための条件は、魔王の復活、そして【勇血】スキルを60以上まで上げること……どうやら、すでに条件は満たしているようだな!」
「ウオオオオオオオオオオオッ!」
レオンが咆哮を上げながら、俺に連続攻撃を仕掛けてくる。
黄金の光を身に纏い、次々と斬撃を繰り出してきた。
『天将闘依』の効力により、レオンのステータス値は倍になっている。その動きは先ほどまでとは一線を画していた。
俺は恐るべき速さ、凄まじい圧力で放たれる攻撃を紙一重のところで回避する。
「おいおい。これは、さすがに……」
はっきり言って……かなりヤバい。
元々のスキルやステータスが俺の方が上のため、上手い具合に捌くことができている。
だが……『天将闘依』を纏ったレオンの攻撃は魔族や闇属性の相手に対して特攻が付与されているのだ。
一撃でもまともに喰らえば終わり。
というか……当たり所が悪ければ、そのまま死ぬ。即死する。
「当たれええええエエエエエエエッ!」
「コイツ……頭に血が上って模擬戦だって忘れてないか? ガチで殺す気じゃないよな?」
いくら模擬戦用の剣であるとはいえ、それは金属の塊。立派な鈍器である。
脳天に直撃したら、普通に頭蓋骨が粉砕されてしまうだろう。
「無意識のうちに、エアリスとナギサを奪った腹いせをしてないか!? ヒロインを奪い取った寝取り男を訓練に乗じて殺害しようとしてないか!?」
絶対に違うと言い切れないところが恐ろしい。
まあ、レオンのことだから殺すつもりなどなくて、全力をぶつけても俺だったら大丈夫だと思っているだけだと思うが。
「世界一、嫌な信頼だな! 俺だって頭を割られたら普通に死ぬっての!」
袈裟懸けに振り下ろされた斬撃が胸をかすめる。
ジワリと胸元に熱が走った。直撃は避けたが、危ないところである。
「やれやれ……いくら何でも、このまま殺られるわけにはいかないな。イリュージョン・ゴースト!」
「ッ……!?」
闇魔法によって分身を生み出す。
周囲に出現させた分身は5体。左右に広がり、動き回ってレオンを翻弄する。
「くっ……どれが本物だ!?」
レオンが逃げ回る分身を倒していく。
縦横無尽に走っている分身であったが、やはりレオンのほうが速い。
1体、2体、3体……十数秒ほどで全ての分身が倒されてしまい、残すところは本体である俺だけになってしまう。
「残るは本体は……そこだ!」
レオンは素早く俺の懐に踏み込んで斬りつけようとする。
だが……その時には、俺の準備が終わっていた。
「闇属性上級魔法──ナイトメア・ガーデン!」
「なっ……!?」
俺が渾身の魔法を発動させると、グラウンドを漆黒のドームが包み込んだ。
俺もレオンも、そろってドームの中に取り込まれてしまう。
闇属性上級魔法『ナイトメア・ガーデン』
これは一定範囲内を闇の属性による空間で支配する魔法である。
この空間の範囲内では闇属性の威力が大きく上昇。反対属性である光属性の威力が大きく下降してしまう。
その場所を自分に有利なフィールドに作り変えるという効力がある、非常に強力な魔法であった。
「この魔法は強力な代わりに長い詠唱が必要だからな。分身で時間を稼がせてもらったぞ」
「うっ……身体が!?」
レオンの身体が大きく揺らぎ、地面に片膝をついてしまう。
天将闘依を発動させたレオンは『光の化身』と言ってもよい存在になっている。闇属性の空間に取り込まれたことで大きく動きが制限されていた。
「このまま普通に倒しても問題はなさそうだが……頑張って修行したご褒美だ。特別サービスでこっちの大技も見せてやるよ!」
「何だと……!?」
俺がナイトメア・ガーデンを発動させたのは、レオンを弱体化させるためではない。
本当の目的は……闇の結界によって周囲の空間を覆い、外からの視線を遮ることである。
現在、ナイトメア・ガーデンの内部には俺とレオンの2人が取り込まれていた。他の生徒や審判役の先生はドームの外にいて、内部の様子は見えなくなっている。
「今だったら、誰にも見られることなく大技が使えるな……オーバーリミッツ『冥将獄依』!」
「…………!?」
まるで地獄の蓋が開いたかのように邪悪なオーラが出現して、俺の身体を鎧のように覆っていく。
押さえられていた何かが解き放たれたような感覚。全身に余すところなく力がみなぎっていく。
『冥将獄依』
レオンが使う天将闘依の対になっている大技である。
技の使用中はステータス値が2倍になり、天使や聖人のような神の眷族に対して特攻効果が付与される。
もちろん、特攻の対象には神の使徒である『勇者』も含まれていた。
切り札とも言える大技を発動させた俺の姿を目の当たりにして、レオンが限界まで両目を見開く。
「バスカヴィル、お前はいったい……!」
「心配するな。
「ッ……!」
「ハハハハハハハハハハハッ!」
レオンが息を呑んで戦慄の顔になる。
凍りついたように動きを止めた勇者へと、俺は高笑いをしながら襲いかかった。
〇 〇 〇
戦いが終わり、ナイトメア・ガーデンが解除される。漆黒のドームがゆっくりと消滅していき、周囲の景色が元通りになっていく。
驚きや困惑の表情を浮かべたクラスメイトや教員の顔が露わになった。
ドームが消えた後に残っているのは、剣を鞘に収めて立つ俺の姿。
そして……地面に倒れたレオンの姿である。
「レオン!」
真っ先に動き出したのはレオンの幼馴染みのシエルである。
遅れて、メーリアやルーフィーも倒れた仲間の下へと駆け寄っていく。
「心配するな。それほど傷は深くない。ちゃんと魔法や薬で治せる程度に調整したからな」
「バスカ、ヴィル……!」
シエルに抱き起こされたレオンが弱々しく声を漏らす。
全身を負傷して満身創痍になりながら、搾りだすように声を発する。
「1つだけ、教えてくれ……お前のジョブは何なんだ? 昔の僕と同じ『魔法剣士』じゃなかったのか……?」
「フッ……」
俺は苦笑して、レオンに背中を向けた。
そのままウルザのところに足を踏み出しながら、レオンの質問に答えてやる。
「悪いが、俺もとっくにクラスチェンジをしているよ……俺のジョブは『
「ダーク、ロード……?」
1度も聞いたことがないであろうジョブの名前を、レオンが呆然と反復する。
当然だろう。俺だってそんなジョブをゲームで聞いたことがない。10回以上も周回プレイをして、有料追加シナリオまでクリアしたが、そんなジョブは登場しなかった。
ゼノンの初期ジョブは『魔法剣士』。
クラスチェンジをしたとしても、『邪剣士』や『奴隷調教師』などといったジョブにしか転職できなかったはずである。
それなのに、現在の俺は『夜王』という未知のジョブに就いていた。
きっかけになったのは、父親であるガロンドルフを倒して『バスカヴィルの魔犬』を継承したこと。
国王にバスカヴィル侯爵家と『魔犬』の役割を継承することを伝えた途端、頭の中に『神託』が流れてきて『夜王』への転職の道が開かれたのである。
実際に転職してみてわかったことだが、『夜王』はどうやら『勇者』の対になる職業らしい。
この職業になって、勇者であるレオンが使っている特技を闇バージョンにした技を身に着けることができた。
『1』の主人公であるレオンと、『2』の主人公であるゼノン。この2人は本当に光と影。太陽と月のように対極に位置する存在なのだ。
「言っておくが……ブレイブ。魔王は俺よりも強い。そして、おそらくではあるが光属性を弱体させる『ナイトメア・ガーデン』の魔法も使えるはずだ」
「ッ……!」
「レオン、お前は強くなったよ。その努力、研鑽……心から称賛に値する。今のお前だったら、かつて敗北した魔王軍四天王シンヤ・クシナダとだってまともに戦うことができるだろう。だけど……魔王にはまだ届かない。魔王を倒したかったら、もっともっと精進しろよ」
レオンであれば、きっと今回の敗北をきっかけにもっと成長してくれるだろう。
息を呑むレオンに言いたいことだけ伝えて、ウルザ達が待っている場外へと戻っていった。
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