第10話 ゼノン VS レオン


「さて……それじゃあ、次は僕達の番かな? 用意はいいかい、バスカヴィル?」


 ナギサとルーフィーの戦いが終わり、グラウンドの真ん中に立ったレオンが宣言する。


「今度こそ、君に勝たせてもらうよ。地べたを舐める覚悟はできているかい?」


「やる気満々じゃねえか。男からそんな熱烈に口説かれたら、嬉しすぎて鳥肌が立っちまうぜ」


 レオンに遅れて、俺もグラウンドへと進んでいく。

 模擬戦用の剣を右手に、レオンと真っ向から相対する。


「修行の成果とやらを見せてもらおうか? 期待外れに終わらないと良いんだがな」


「退屈はさせないと約束するよ。僕だって、勝ち目のない戦いを挑んでいるわけじゃあないさ」


 レオンの言葉や態度には自信がみなぎっている。

 魔王復活から1ヵ月。どんな修行をしてきたかは知らないが……よほど俺に勝てるという強い確信があって、模擬戦を挑んできたのだろう。


「ブレイブ、頑張れー!」


「負けるな! やっちまえ!」


「レオンくん、しっかりねー!」


 いつも以上に気合の入った様子のレオンに、周囲にいるクラスメイトが応援の声を張り上げる。

 悲しいかな、声援の大部分はレオンに対するものである。俺に対する応援は……


「ご主人様、頑張って殺るですのー!」


「ゼノン様、頑張ってくださいー!」


「我が主よ、勝利を信じているぞ!」


 ……まあ、あるよな。

 俺と肉体関係がある3人だったら。


「バスカヴィルー。適当に頑張れよー」


「ウルザちゃんをガッカリさせたらダメだからねー!」


 ついでに、ジャンとアリサも俺に向かってヒラヒラと手を振っていた。

 入学当初、クラスメイトから腫れ物に触れるように扱われていた時のことを思い出すと、随分と味方が増えたものである。


「双方ともに準備は良いようだな。それでは……試合開始!」


 ジャガート先生が右手を上げて、戦いの開始を宣言する。

 試合開始の合図と同時に、俺とレオンが動き出した。


「闇魔法──シャドウエッジ!」


「光魔法──シャインエッジ!」


 両者の手から放たれた魔法が正面から衝突した。黒と白の2つの刃がぶつかり合い、衝撃波を巻き起こしながら弾ける。


「ハアッ!」


 レオンが裂帛の気合と共に地面を蹴った。

 魔法による牽制。そこから生じた隙に一気に距離を詰めて、横薙ぎの斬撃を放ってくる。


「ふん……反応は悪くないな」


 跳躍して宙を舞い、斬撃を回避する。

 そのまま勢いに乗り、空中で身体をひねって回転しながら剣で斬りつけた。


「危なっ……!」


 レオンは姿勢を低くして俺の攻撃を躱して……姿勢を低くした状態から一気に跳んだ。


「ハアアアアアアアアアアアッ!」


 身体のバネを使い、勢いよく斜め下から刺突を放ってきた。

 回避からの流れるような反撃。この反応速度はさすがは主人公。驚嘆したくなるようなポテンシャルである。


 やはりレオンは強い。

 才能やセンスだけならば、間違いなく俺を超えていた。


「いけええええええええええっ!」


「とはいえ……このまま殺られる俺じゃねえよ!」


 俺は空中を足場にして、さらに高みへと身体を躍らせる。

 レオンが放った刺突はわずかに俺に届くことなく、空を突くことになった。


【体術】スキルによる空中移動アクション──『天歩』。

 空中に構築した魔力の足場による2段階ジャンプにより、すんでのところでレオンの攻撃から逃れたのである。


「くっ……届かないか!」


「はい、残念。かーらーのー……シャドウジャベリン!」


「グウッ!?」


 そこから、闇属性の中級魔法による攻撃。

 無理な体勢で刺突を放ったことで回避が間に合わず、レオンは頭上から放たれた漆黒の槍をまともに喰らってしまった。

 魔法を受けたレオンが吹き飛ばされ、グラウンドを転がっていく。


「ッ……!」


 そのまま気を失って勝負あり……と言いたいところだが、レオンは受け身をとってすぐに起き上がった。

 瞳には燃えるような強い闘志が宿っており、まだ戦意は衰えていないことがわかる。


「まだまだ! この程度で僕は負けない!」


「フン……なかなか魅せるじゃねえか。ちょっとだけ見直したぞ」


 俺の闇魔法が直撃したように見えたが、レオンは直前で光魔法を放って攻撃を相殺していた。

 完全に衝撃を消しきることまでは出来なかったようだが、あのまま詰みになることだけは避けたようである。


「魔物との戦いだけじゃなくて、対人戦の訓練も積んだようだな? 山賊や盗賊を相手に経験を積んできたか?」


「ああ、期末試験のときに戦ったあの剣士のように、人間であっても魔王軍に加担している奴はいるからな。今度はあの時みたいな無様な姿はさらさないさ」


「結構。それじゃあ……ここからが第2ラウンドというところか?」


 俺が地面に着地して剣を構えると、レオンは口元に好戦的な笑みを浮かべた。


「ああ……そろそろ本気を出させてもらう! いくぞ、バスカヴィル!」


「…………!」


 レオンの身体が黄金の光に包まれた。

 まるで某・有名マンガに登場する戦闘民族がスーパーな感じにパワーアップしているようである。


「オーバーリミッツ……『天将闘依』か!」


 黄金の光に包まれたレオンの姿に、俺は唇をつり上げて唸る。


「そうか……どうやら、ようやくそこに至ったようだな。自分の意思で勇者の力をコントロールできるようになったか」


『天将闘依』はゲームにおいてレオンだけが持っているスキル──【勇血】の熟練度を60以上まで上昇させることで修得できる技である。

 この能力を発動している間は全てのステータス値が2倍に上昇して、さらに魔族や闇属性に対するダメージが倍加する特攻効果が生じるのだ。


「そして、【勇血】スキルが60を超えたということは、クラスチェンジの条件が整ったことになる……!」


 即ち、それはレオンのジョブが『魔法剣士ルーンナイト』から上級職にクラスチェンジしたことを意味している。レオンの自信の根拠はそこにあったのか。


「とうとう『勇者ブレイバー』になったか……レオン・ブレイブ!」


「さあ……僕の本気を受けてみろ、ゼノン・バスカヴィル!」


『魔法剣士』改め『勇者』──レオン・ブレイブが黄金の光を身に纏い、まっすぐに斬りかかってくる。

 俺は牙を剥いて笑い、迫りくる主人公ヒーローを迎え撃った。


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