第7話 僧兵の戦い方
2人ずつペアになった生徒が次々と模擬戦を行っていく。
開始前に担当教師であるジャガートから言われたセリフが響いているのか、彼らの動きはどこかぎこちない。
模擬戦が終わるたびに、ジャガートが生徒の悪かった部分を指摘していく。
それは生徒想いの教員からの温かなアドバイスだったのだが……強面のせいでまるで説教されているような空気になっており、欠点を指摘された生徒はそろって肩を落として落ち込んでいる。
他の生徒の戦いを見学しながら待っていると、ナギサとルーフィーの順番が回ってきた。
校庭の中央に設置された円形のフィールドに2人の少女が向かい合って入っていく。
ナギサの武器は片刃の剣。ルーフィーの武器は両手に着けた金属の手甲である。
3メートルほどの距離をとって向かい合いながら、ナギサが目を細めて口を開く。
「
「何のことかわかりませんよおーだ。私が習ったのは『僧兵』の神聖格闘術だからねえ」
相変わらず間延びした声で、ルーフィーはぼんやりと言う。
ルーフィーは代々続く『僧兵』の家系の出身だった。
僧兵とは教会や神殿などの警備をする兵士のことであり、治癒魔法や援護魔法を使いながら、近接格闘もできることが特徴のジョブである。
「ご主人様、どっちが勝つと思いますの?」
隣で見学しているウルザが手を引いてくる。
この学園の生徒ではないウルザであったが、何故か学校指定の体操服を着ていた。
「さてな……普通に考えれば、ナギサが勝つと言いたいところだが」
ナギサが生粋の戦闘職であるのに対して、ルーフィーは半分僧侶、半分戦士という中途半端なジョブについていた。
まともに戦闘をすればナギサが勝つと考えるのが自然である。
「ですが……ゼノン様。ルーフィーさんの補助魔法はかなりの腕前ですよ。能力を向上させたうえで戦えば、勝敗はわからないのではないでしょうか?」
同じく、俺の隣で戦いを見学していたエアリスがそんなふうに補足する。
僧兵一族の出身であるルーフィーと、枢機卿の娘であるエアリスの間には色々と複雑な関係があったりする。
決して険悪な関係というわけではないが……お互いに思うところがあり、距離をとっている部分があるのだ。
「そうだな。裏を返せば、補助魔法を使うよりも先に仕留めてしまえば、確実にナギサが勝つと断言できるのだが……」
「それでは……始め!」
そうこう会話をしているうちに、戦いの開始を告げるゴングが鳴った。
戦いが始まるや、両手の拳を構えたルーフィーが魔法を発動させる。
「ラビットフット……ストレングスアップ……ガードアップ……」
次々と補助魔法を自分にかけていくルーフィーであったが、ナギサは動かない。
剣を手にさげた状態で、ルーフィーのステータスが強化されていくのを黙って見守っている。
「やっぱり、そうするよな。戦闘狂のナギサらしい」
俺は深々と嘆息した。
予想通り、ナギサはあえてルーフィーが補助魔法を使うのを見逃している。
余裕をかましてハンデを与えているのか、それとも、強い相手と戦うためにわざと強化を見逃しているのか。
「ナギサの性格からして、十中八九、後者だろうな。まったく……舐めプで負けたらどうするつもりなんだか」
「敵を舐めて負けちゃったら、思いっきり笑ってやりますの。プククッ、ですの」
ウルザが唇を尖らせて小馬鹿にするような顔になる。
一方で、エアリスはどこか心配そうな表情になっていた。
「ナギサさん……ルーフィーさん……」
2人の名前を呼ばうエアリスの顔には迷うような色が浮かんでいる。
俺は唇を噛みしめたエアリスの背中をバシリと叩く。
「きゃっ!」
「そんな辛気臭い顔をするなよ。ただの模擬戦。力比べみたいなものだ。どちらを応援すればいいのか迷っているのなら、両方の勝利を願ってやれ」
「ゼノン様……」
「お前がアストグロウと古馴染みなのは知っている。だが……別にあっちを応援したところで、ナギサはいちいち腹を立てるほど小さい人間じゃない。どんと構えておけよ」
「そうですね……ゼノン様の言う通りです」
エアリスは暗い表情を引っ込めて、深く頷いた。
「どっちが勝っても、ちゃんと怪我人は私が治療します。それが私にできる精一杯ですから!」
「む……」
エアリスが俺の腕を取って抱き着くようにする。
家では『性女』と化しているエアリスであったが、授業中にこんなふうにスキンシップをとってくるのは珍しいことだった。
体操服に包まれた胸に挟まれて、腕から幸福な感触が伝わってくる。
俺はニコニコと笑っているエアリスから目を背けて、ポツリとつぶやく。
「……敵を応援しても怒らないだろうが、自分が戦っている最中にイチャついてたら怒るだろうな、ナギサは」
模擬戦に視線を戻すと、補助魔法をかけ終えたルーフィーが左右の手甲を打ち合わせてガチンガチンと音を鳴らしている。
どうやら、戦いの準備が整ったようだ。
ナギサもそれを察して、片刃の剣をしっかりと構えて切っ先をルーフィーに向けた。
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