第72話 憂いの夜と期末テスト
再開された学園生活は拍子抜けするほど順調に進んでいった。
謹慎させられていたため座学の授業には苦労させられたが、ゼノンの
レオンとはいまだに気まずい関係が続いており、会話をすることはなかった。
ただし、レオンの目に俺への敵意は見られず、先日の決闘を引きずっている様子はなさそうだ。
放課後はパーティーメンバー2人とダンジョンに潜っているらしく、真面目に鍛練をしていると信じたいところである。
むしろ……大変だったのは学園ではなく、自宅での生活のほうである。
エアリスとナギサが本格的にバスカヴィル家の屋敷に住みついてきて、空き部屋を自室にして生活用品や衣類などの荷物まで運び込んできた。
そうやって部屋を占領しておきながら、眠るときは必ずと言っていいほど俺の部屋で寝るのだ。
「すう……すう……」
「んっ……はあっ……」
「ご主人様……むにゃむにゃ……」
「……眠れるわけねえだろ。こんな状況で」
己のベッドで眠る美女と美少女。悩ましく寝乱れる彼女達の姿に、俺は慢性的な寝不足になってしまった。
幸運なことがあるとすれば、バスカヴィル家の当主である父親が帰ってくる様子がないことだろうか。
どこに泊まっているのかは知ったことではないが、ガロンドルフ・バスカヴィルは入学式の直後に折檻をさして以来、いっこうに屋敷に顔を出さなかった。
「ま……そっちの方がいいけどな。こんな有様、親に見せられるかよ」
いかにガロンドルフがろくでもない毒親であったとしても、息子が複数人の女子を部屋に入れてハーレム状態になっているのを見れば、何かしらのアクションを起こすことだろう。
できることなら、父親を倒すその日が来るまで顔を合わせたくはないものである。
「それまでの辛抱……なんだがな」
「すう……我が師よ……そこは触ってはダメだ……」
「んあっ……ゼノンさまあ……そこ、気持ち良いですう……」
「ご主人様……ご主人様のフランクフルトも食べたいですの……」
「…………」
父親を倒すまでヒロインに手を出すまいと己に禁欲を課しているが……こんな悩ましい寝言を夜ごと聞かされれば、その信念も揺らいでしまう。
俺の理性は限りなく限界に近付いており、ちょっと油断したら色香に負けてルパンダイブを決めてしまいそうだった。
「あはあ……お坊ちゃま……もっと、もっとおっぱいを吸ってくださいませ……」
「……お前もか、レヴィエナ」
ウルザ、エアリス、ナギサに加えて、メイド服からネグリジェに着替えたレヴィエナもまた、当たり前のように俺のベッドで眠っていた。
はだけたネグリジェからは豊満なバストが露わになっており、ちょっと覗き込めば先端の突起が窺えそうである。
「お前ら、全員覚えておけよ……親父を倒したら、絶対にものすっごいセックスしてやるからな……!」
俺は秘かに誓って、悶々とした夜を過ごすのであった。
〇 〇 〇
それでも、何とか女性達に手を出すことなく期末テストの初日を迎えた。
「それでは……これより1年生最初の期末テストを開始します」
テスト開始の時間となった。
担任教師であるワンコ先生が壇上に立って、生徒に向けて宣言する。
「事前に説明しましたが、テストは座学と実技の2つに分けて行われます。最終的な成績は、これらの点数に内申点を加えてテスト後に発表されます。わかっていると思いますが……不正を行えばその時点で点数没収となり、試験会場から退室していただきます。くれぐれも不正が疑われるような怪しい行動はしないように!」
ワンコ先生はメガネをキラリと光らせて、教鞭で黒板を叩いた。
「テストの結果次第では、下位のクラスに移動させられることもあります。Aクラスに踏みとどまりたいと願うのであれば、心してかかるように! それでは……テスト開始!」
テスト開始のベルが教室に鳴り響き、とうとう期末試験が開始された。
試験の初めは座学の試験。授業で習った各科目について、2日間に分けてペーパーテストが実施される。
「ふむ……」
裏になっていた答案用紙を表にひっくり返すと、予想していた以上に難しそうな問題が目の前に現れる。
流石はスレイヤーズ王国屈指のエリート学校である。
ゼノンの身体に憑依したのは入学後のため、入学試験の記憶はないが……目の前のテストが非常に難解なものであることは理解できた。
こうしてテストを受けてみると、やはり謹慎期間の遅れを痛感させられる。
学年次席――優秀なゼノンの頭脳であれば何とかなるかと思っていたが、少し甘く見ていたかもしれない。
それでも、懸命に脳みそをひねって答えを書き込んでいく。
数学は転生する前に日本で習った内容と同じ。特に問題はない。
ネックになるのは暗記科目。この世界の歴史などについての問題だ。
テスト前に詰められるだけ頭に入れてきたが……いくつか記憶から抜け落ちている部分があった。
2日間かけて筆記試験が終わってみれば――全体の8割以上は正答できたと断言できる。
この調子ならばクラス落ちはないと思うが、成績トップ争いはちょっと厳しいかもしれない。
「となれば……実技で稼ぐしかないな。ダンジョン探索で勝負だ」
そして――テスト3日目。
待ちに待った、実技試験の日がやって来たのである。
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