第69話 倒れた者と迎える者
「ちょ……レオンに何をしているのよ!」
倒れたレオンに回復薬をかけていると、買い出しに行っていた女性陣が戻ってきた。
地面に倒れているレオンを見るや、幼馴染みヒロインであるシエルが慌てた様子で駆けよってくる。
シエルは地面に膝をついて、気を失っているレオンを抱き起こした。
レオンはまだ気を失っているが、回復薬をかけたおかげでケガは跡形もなく消えている。
目立った外傷がないことを確認して安堵の息をつくシエルであったが、すぐに俺にキッと鋭い視線を向けてきた。
「レオンに何をしたのよ!? 返答次第では許さないんだからね!!」
「そんなに殺気立つなよ。同意の上で手合わせをしただけだ」
俺は肩をすくめてシエルに背を向け、戻ってきたウルザとナギサを出迎える。
「よう、おかえり」
「はいですの、ご主人様。ご命令通りにランゴーフルーツジュースを買ってきましたの」
「ああ、ご苦労だったな」
「えへへへ、ですの」
白い髪を撫でてやると、ウルザがはにかんだ笑みを浮かべる。
「ナギサも悪かったな。子守りを任せちまったみたいで」
「構わないとも……それで我が師よ、満足のいく戦いはできたかな?」
「まあまあ、ってところだな……これで変われないようなら、俺がアイツにしてやれることはもうないだろうよ」
レオンを叩きのめして、自分の無力さを思い知らせるという目的は達成できた。
仮にも世界を救う勇者になる男だ。きっと悔しさをバネに奮起して、さらなる成長を見せてくれるだろう。
そのまま魔王を倒してくれるのならば重畳。誰もが望むハッピーエンドだ。
「それじゃあな、シエル・ウラヌス。彼氏が起きたらよろしく伝えてくれ」
「っ……!」
シエルが敵意を込めた目で睨みつけてくる。
どうやら、今回のことで完全に敵として認定されてしまったようだ。
「……まあ、別にいいがね」
謂れもない敵意を向けられるのは気持ちが良いことではないが……ヒロイン三巨頭のうち、すでにエアリスとナギサの2人が俺の側についているのだ。
せめてシエルくらいは、レオンの傍にいてもらわなくては困る。嫌われているくらいがちょうどいいのかもしれない。
「週明けには、俺も謹慎が終わる。次は学園で顔を合わせることになるだろう。リベンジをする気があるのなら、今度の期末テストで相手になってやるよ」
「覚えてなさいよ……どうせ卑怯な手を使ってレオンを倒したんだろうけど……レオンがその気になったら、貴方なんてイチコロだからね!」
「……それくらい強くなってくれると、俺の苦労も減るんだがな。せいぜい期待していよう」
俺はぞんざいに手を振ってシエルに別れを告げ、さっさと公園を後にする。
色々と予想外の事態はあったものの、『わらしべ長者』イベントは無事に完遂。
休日デートも楽しむことができたことだし、有意義な休日だったと言えるだろう。
西日を背中に受けながら――右にウルザ、左にナギサを引き連れて、俺はバスカヴィル家の屋敷へと帰って行った。
〇 〇 〇
「……おかえりなさい。デートは楽しかったですか?」
「うわ……」
屋敷に戻ってきた俺達は、家の門扉の前に立っている女と遭遇した。
ランプの薄暗い明りの下に幽鬼のように佇んでいたのは、金色の長い髪を背中に垂らしたドレス姿の美女である。
美しい相貌から一切の感情を消している女は、口に髪を一房くわえており、爬虫類のような冷たい眼差しで3人並んだ俺達を見つめている。
「…………置いてけぼりにして悪かったな。エアリス」
俺はかつてない恐怖に顔を引きつらせながら、なんとか謝罪の言葉を絞り出す。
どうやら――我らが愛すべき聖女エアリス・セントレアは、俺達がデートをしている裏でヤンデレと化してしまったようである。
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