第67話 努力と才能
「ハアッ!」
「フンッ!」
レオンが上段に構えた剣で斬りつけてきた。
バックステップで攻撃を躱しながら、横薙ぎの斬撃で反撃をする。
「くっ、重い……!」
俺の斬撃を剣で受け止めて、レオンが表情を歪める。
どうやら身体能力だけ比べれば、俺に軍配が上がるようだ。身体強化スキルの熟練度を上げておいた甲斐があった。
「どうした? 随分と弱々しいじゃないか!」
「舐めるな、よっ!」
俺の剣を弾いて距離をとったレオンが、腰に剣を構える。鉄製の剣に青いエフェクトが宿っていく。
剣術スキルによる武技――『斬空』。ゲームではお馴染みといってもいい、斬撃を飛ばすという技である。
「斬り裂けッ!」
青い斬撃が俺に向けて飛ばされる。
まっすぐ突き進んでくる刃は、まともに喰らってしまえばダメージを受けることは避けられないだろう。
「ま……喰らってやる義理はないけどな」
俺もまた剣を薙ぎ、斬撃を飛ばす。
剣術スキルを持っているのはこっちも同じ。レオンが放った青い斬撃と、俺が放った赤い斬撃が真っ向から衝突する。
一瞬だけ均衡した2つの斬撃であったが――攻め勝ったのは俺の斬撃だった。
青い斬撃を蹴散らした俺の斬撃は、わずかに勢いを緩めてレオンに向けて突き進む。
しかし――
「む……?」
そこにレオンの姿はない。
気配を探り……俺は頭上を見上げる。
見上げた先には、宙高くジャンプをして、剣を高々と振りかぶったレオンの姿があった。
「受けて見ろ……パワースラッシュ!」
「ほお……悪くないじゃないか」
スキルの熟練度を比べれば、間違いなく俺のほうが上だと断言できる。ゲームの周回によって最短、最速でスキルを成長させてきたのだから当然だ。
しかし、やはりレオンは主人公。潜在能力は天性と言っても過言ではなかった。
間接攻撃である『斬空』を囮にして宙に跳び、威力の高い剣技『パワースラッシュ』で攻撃をする――戦いの中で成長しているようにすら感じるバトルセンスは、俺には持ちえないものだった。
「だけど……甘いよな!」
「っ……!」
『体術』スキルによるアクション――『天歩』。空中で高速移動をして、剣を振り上げるレオンの懐へと一瞬で飛び込んだ。
もしも5年後、10年後に戦えば、俺はレオンに一矢報いることすらできずに敗北するかもしれない。
知識や経験を抜きに、才能という絶望的な要因を比べれば、俺はレオンの足元にも及ばないのだから。
だが――それでも断言できる。今のレオンに敗北することはあり得ない。
100回戦おうと、1000回戦おうと、俺は必ずレオンに勝利することだろう。
「フッ!」
「カハッ……!」
刃がついていない剣の腹でレオンの胴体を殴りつける。
大技を繰り出そうとしていたレオンは回避することも敵わない。身体を『く』の字に折り曲げて姿勢を崩し、そのまま背中から地面に叩きつけられた。
俺はきちんと両脚で着地して、転がるレオンに嘲弄をぶつける。
「どうした、学年主席。随分と反応が鈍いじゃないか」
「くっ……!」
レオンは悔しそうに呻きながら、それでも立ち上がった。
どうやら、咄嗟に受け身をとってダメージを最小限に抑えたようである。
本当に、憎たらしくなるようなセンスだった。
「どうしてこんな一方的に……バスカヴィル、お前はどうやってそんな力を……?」
「どうして……? 努力をしていた人間が強くなるのは自然なことだ」
俺は嘲りの笑みを浮かべたまま、淡々と答える。
「俺が先に進んだのではない。お前が歩みを止めただけだ。周りの人間に合わせてペースを落とし、ゴールに向かって駆けることをやめただけ。我武者羅に走り続けてきた俺に追いつけないのは道理だろうが」
「……俺が努力していないっていうのか?」
「それがこの結果だ。違うのかよ」
「…………」
悔しそうに表情を歪め、レオンは黙り込む。
どうやらぐうの音も出ないようだが、俺はなおも言葉の刃で斬りつける。
「レオン・ブレイブ――どうやら、お前がナギサに見捨てられたのは、方向性や性格の不一致なんかじゃない。お前が弱いから捨てられただけみたいだな」
「…………」
「お前は『優しさ』や『協調性』などという聞こえの良い言葉で己を塗り固め、怠慢を正当化して努力をやめた。かつて魔王を封印したという祖先を目指すのをやめて、惰弱な有象無象でいることを甘んじた。そんなことだから、ナギサはお前を見限ったんだ。エアリスだってお前と歩む未来があったかもしれないのに、俺を選んだ」
おそらく――レオン・ブレイブという男が優しく、正義感が強いことは間違いない。
だが、優しいだけで誰かを救うことができるのは平和な世界だけのこと。
魔物と魔王の脅威にさらされているこの世界では、優しいだけの男など何の役にも立たない。
周囲を振り切り、全身から血が滲むような努力を続けた先にある『勇者』という名の英雄。それこそが、レオンが求められている役割なのだから。
「いい加減に目を覚ませ。英雄になりたいのなら、もっと必死になりやがれ。今の弱っちいお前には誰も守れない。誰もが、お前の周りから離れていく」
「っ……!」
「そんな醜態をさらしていると……」
俺はレオンを見下ろして、挑発的に中指を立てた。
唇を歪めて尖った牙を剥き、傲然と言い放つ。
「お前の幼馴染――シエル・ウラヌスも、俺が寝取っちまうぞ?」
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