第14話 ジャイアント・キリング
「キシャアアアアアアアアアッ!」
「フッ!」
ガーゴイルが宙を舞って、俺めがけて爪を振り下ろしてくる。鋭い爪の一撃をバックステップで躱してカウンターの斬撃を見舞う。
ガーゴイルの胴体へと正確に吸い込まれた剣先であったが、固いものにぶつかったような音と共に弾かれる。
「ギャッギャッ! ムダムダムダムダッ!」
「はあ……やっぱりかよ。鬱陶しい!」
ガーゴイルの身体は岩石のように固い鱗で覆われており、並の攻撃ではダメージが通らずに弾かれてしまう。
ガーゴイルの強さは、中盤に遭遇するモンスターと同じくらいのレベルである。レオンと仲間達は覚醒した勇者の血の力によって奇跡的に撃退したのであって、まともに戦えば勝てる相手ではない。
そして、それは俺もまた同様。初期装備であるこんなナマクラの剣では、傷一つ付けられなかった。
「シャドウエッジ!」
「ギャッ!?」
再び飛んできた影の斬撃を喰らい、ガーゴイルが短い悲鳴を上げた。
これもゲームと同じ。ガーゴイルは物理防御こそ高いものの、魔法耐性は低い。下級魔法でも多少のダメージは与えられるようである。
「とはいえ……小技で削るのも面倒だな……」
現在の俺に使うことができるのは闇属性の下級魔法のみ。これでガーゴイルを倒すには、何十発とぶつけなければいけないだろう。
もしも俺に仲間がいるのであれば、盾役のタンクが相手を引き付けて、後衛が魔法で少しずつ削っていくことができるのだが、残念ながら俺はソロプレイ中。頼れる仲間など誰もいない。
ガーゴイルと戦っていたクラスメイト……ジャンは後ろで仲間の治療を行っているため、そちらからの援護もあてにはできない。
「となると……一撃必殺のクリティカルで一気に仕留めるしかないな」
「ヨクモッ! コロス、コロス!」
「む……!」
ガーゴイルが背中の翼を大きく広げる。俺は次に放たれる攻撃を予想して、バックステップで距離をとった。
次の瞬間、翼から手裏剣のような羽が無数に飛ばされてきて広範囲に突き刺さる。もう少し逃げるのが遅ければ、全身ハリネズミになっていたに違いない。
チラリと背後を一瞥すると、ジャンとその仲間達も無事なようだ。距離が離れていたため、攻撃の射程範囲外だったようである。
「悪いがその攻撃は知っている! 嫌というほど見たからな!」
「ナアッ!?」
「そして……お前の弱点も知っている!」
範囲攻撃を避けられたガーゴイルがその場で固フリーズする。大技を繰り出したことによって硬直が生じたのだ。
俺はその隙に相手の懐へと飛び込んだ。このまま剣で斬りつけても、先ほどのように鱗で弾かれてしまうに違いない。
だが……それでも俺は躊躇うことなく剣先を突き出した。
狙うは一点。ガーゴイルの弱点部位である。
「フッ!」
「グギャッアアアアアアッ!」
ガーゴイルが断末魔の悲鳴を上げた。
俺が繰り出した刺突が、ガーゴイルの顎の下に突き刺さって首を貫通する。
『ダンブレ』に登場する敵キャラには全て弱点部位が存在しており、そこを攻撃するとクリティカル扱いになるのだ。
ガーゴイルの場合は顎の下部分だけが石の鱗に覆われておらず、その部位が弱点になっていたのである。
「ギ……ガッ……」
「勇者にやられた腹いせに弱い者いじめをして、それすらも失敗して格下の相手に殺される。さぞや屈辱だろうな、イベントボス」
「コ、ノ……ニンゲン……!」
「ヘルフレア!」
俺の攻撃はまだ終わらない。
現在、使うことができる最大威力の魔法を剣を通して発動させる。突き刺した傷口から漆黒の炎が溢れ出して、ガーゴイルの肉体を内側から焼いていく。
「このゲームには様々な
「ガアアアアアアアアッ!?」
「そして、【魔法剣士】のジョブにつくことができるキャラクターは2人だけ。主人公であるレオンと…………ゼノン・バスカヴィル。俺だけだ!」
勇者と魔王を除けば最強。
光の魔法剣士であるレオンの対極、闇の魔法剣士であるゼノン・バスカヴィルが、こんな初期ボスごときに破れるわけがない。
「グオ……ヤメッ……ギイイイイイイイイィ……」
漆黒の炎に包まれたガーゴイルはジタバタと両手・両翼を振って暴れていたが、その抵抗はあまりにも弱々しい。しばらくすると力なく倒れて、全身が炎に包まれる。
「ギッ……」
ピクピクと痙攣を繰り返していたガーゴイルであったが、やがて動かなくなった。
その身体が粒子状に砕けて、ドロップアイテムの魔石だけを残して空気に溶けて消えていく。
「この世界に来て初めてまともな戦闘をしたな。俺の勝利だ」
勝利宣言と共に剣をクルリと回転させて、決めポーズをとる。
初めてのダンジョンで格上のイベントボスを完全攻略。異世界での新生活の門出にふさわしい完璧な戦果であった。
イベントモンスターであるガーゴイルを倒したことが、シナリオにどう影響を与えるかはわからない。
だが……今は素直にこの勝利を喜ぶとしよう。
死ぬはずだった命を、確実に救うことができたのだから。
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