第9話 諸悪の根源
それから、どれだけ時間が経ったのだろうか。
目を覚ますと、俺は自室のベッドの上に横たわっていた。
身体には毛布がかけられており、ベッドの横に置かれた椅子でレヴィエナがうつらうつらと居眠りをしている。
どうやら枕元で看病をしてくれていたようだ。疲れた様子で眠っている。
「……鬼畜寝取り野郎にはもったいない忠臣だよな。何でこんな良い娘がゼノンのようなクズに仕えているんだか」
黒い髪を掻き上げながらベッドから上半身を起こす。
窓の方に目を向けると、すでに外は真っ暗になっている。時計を確認すると、どうやらすでに深夜を回っているようだ。
レヴィエナが飲ませてくれたポーションのおかげで身体のダメージは消えている。
しかし、前世を含めても受けたことがないであろう虐待と拷問に、まるで身体の中心に杭が刺さっているような幻痛を感じた。
まさかゼノンの父親――ガロンドルフ・バスカヴィルが息子に対してあんなにも残虐で苛烈なことをする人間であるとは知らなかった。
ゲーム内でゼノンが好き勝手にやっていたので、てっきり息子を甘やかして奔放にさせているのだとばかり思っていたのだが。
「だが……これで理解できた。確信したよ。どうして、ゼノンがクズになってしまったのかを」
俺は服の胸元を掴んで握り締め、奥歯を噛みしめた。
もしもゲームの制作スタッフを除いて、ゼノンが道を誤らせる原因を作った人間がいるとすれば、あの男しかない。
「ガロンドルフ・バスカヴィル……! お前のせいでゼノンは狂っちまったんだな!」
おそらく、ゼノンは日常的に父親からの虐待を受けていたのだろう。
それが積み重なった結果として精神の均衡を欠いてしまい、レオンを貶めてヒロインを寝取るという暴虐につながったのだ。
レオン・ブレイブは勇者の子孫という選ばれた血筋に生まれており、多くのヒロインに囲まれて愛情を向けられていた。学年主席として成績の上でもゼノンの上に立っている。
対して、ゼノンはバスカヴィル家という呪われた家に生まれたことで周囲からは忌み嫌われている。父親から愛情を与えられず、虐待まで受けているゼノンにとって、レオンは狂おしいほどに妬ましい相手であったに違いない。
おまけに……レオンは魔王を倒し、英雄として人々からもてはやされる立場になったのだ。自分が持っていないもの、喉から手が出るほど求めている全てを所有しているレオンに激しい嫉妬と憎悪を抱いたに違いない。
その結果として、ゼノンはレオンのヒロインを寝取るという行動に出たのだ。
「決めたよ。この世界での当分の目標ができたな……魔王よりも先に倒さなくてはいけない人間がいるようだ」
俺は決然と頷く。
これまでは突如としてゲームの世界に転生したことに戸惑い、漠然と平穏な生活が送りたいとだけ考えていたが……確固たる目的が生まれた。
「ガロンドルフを、親父を倒す……! 俺がこの世界で平穏を手にするためには、あの男は存在してはならない不倶戴天の敵だ……!」
俺は強い決意を込めて、その言葉を口にする。
魔王を倒すとか。世界を救うとか。そんな大それた偉業を成し遂げるよりも、その目標は俺にとって重大なものであるように感じられた。
俺が前世でどうして命を落とし、ゲームの世界に転生することになったのかはわからない。思い出せない
だが……生まれ変わった以上は、自由にこの世界を謳歌して生きてやる。
そのためになら、制作スタッフが定めたシナリオも、悪の総帥である父親だって否定してやろうじゃないか。
「ふあっ……お坊ちゃまあああああああああっ!」
「うぐおっ……レヴィエナ……!?」
第2の人生の目標を決めた俺であったが、どうやら独り言が大きすぎたようである。
それからすぐに目を覚ましたレヴィエナに抱き着かれて、その抱擁のあまりの強さに窒息してしまい、再び気を失うことになった。
気絶した俺を見てレヴィエナがますます恐慌に陥ったのは、説明するまでもないことである。
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