早春の墓地

あけぼのの光を頬に浴びてなおもまどろむ者は

夢に古い墓地を見たならば涙をこぼ

眠りの帳の彼方に育つ月桂樹を養うため


おお、灰色の墓石たる私は贈り物

尊敬と、賛美と、限りない哀悼とを添えて捧げられたもの

刻まれているのは四つ、あの陶酔的な愛に満ちた名と

誕生した日付、つまり緑鮮やかなる八月

冷え切った三月の、生命絶えた日のこと

そしてかの詩人が紡いだ言葉を、たった一行


次元の如何なる門を隔てしものかも定かならざる異界を

彼の筆はデルフォイの巫女のごとく告げ

かお持たぬ全知識の主もまた

詩人をこよなく愛したが故に

定命のものに明かすべからざる秘密を

その耳元で囁いたことも数度ではない


しかし、の無貌の者は暗き地よりの使者でもあれば

冷気で織り成された指で人の子の頬に触れ

病める者の色淡い夢を死の眠りへとすり替え

見えざる壁の彼方へと拉し去った


私は後の世において刻まれたものではあるが

これら全てを我が事として思い出す

失われし遠方の友を数多の人々が惜しみ

誇り高き甥御のために叔母上が嘆いた日のことを


湾曲した時間は流れ

死の早春は実り多き夏へとその貌を変え

詩人の歩んだ道には多くが続き

同郷の、そして異国の読み手が彼に栄冠を捧げたが

月桂樹が再び芽吹くことは未だなく

全知識の主の住まう黒瑪瑙の宮においてのみ

言葉は永久とこしえに、加えて健やかに茂る……


そして捧げ物たる私は早春の曙に磨かれつつ

此方こなたにおいて大いなる眠りを守るものなり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る