第8話 契約

 フェリト達5人は癒しの水辺で少し休んでいた。鳥族の子はまだ目を開けることなく、水辺に浸かっていた。エケルはフェリトの隣で疲れを癒し、ディールは兄貴と今後の話をしていた。フェリトは癒しの水辺に足を伸ばしながら、〈癒しの豪雨〉も発動させ、皆の、特に鳥族の子の傷を癒そうとしていた。

「この子、目を覚まさないね。」

『そう…だね…。話、したいな。』

「フェリトの能力とこの水辺の効果で、傷は癒えても精神部分は簡単に癒えるわけねぇからな。そんな魔法や能力あったら神様見てぇだしな」

『神…様…』

「…っ。ウ…」

 フェリト達が話してると、鳥族の子が小さく声を出した。4人とも鳥族の子に視線を集めた。鳥族の子は数回瞬きをし、上体を少し起こし、警戒の目を4人に向けていた。しかし、羽で飛んで逃げようとする仕草は見せなかった。

「フェリト!目覚ましたよ!」

『うん…』

 エケルは少し怖いのか、フェリトの後ろに隠れながら鳥族の子を観ていた。フェリトは自分のローブを脱ぎ、鳥族の子に渡す為、手を伸ばした。

『何か着た方が…いいよ…』

「……。」

『…。』

 鳥族の子は下半身はズボンの様なものを履いているが、先程暴走していたせいでボロボロな状態で所々足がみえている。服は肩に2層ローブの様なものをつけているが、それもボロボロな為、みすぼらしい姿ではある。

 鳥族の子はフェリトを睨みつけていた。その2人の空気に耐えきれなかったのが、エケルだ。

「2人とも何か話そうよ…」

「そうだぜ?特にフェリトお前はコイツと話したかったんだろ?」

『…まぁ…ね。』

「…何。」

『…名前は?』

「…ハルク」

『そう…』

「…君達は?」

『僕はフェリト。』

「ミーはエケル!」

「俺はディールだ。」

「俺は族長のディーダだ、よろしくな」

『これ…着て。』

「…わかった。」

 そう言うとやっと鳥族の子「ハルク」はフェリトからローブを受け取った。そして立ち上がりローブを被った。フェリトの身長で少し足が見える程の長さのローブの為、ハルクには大きいサイズだった。それを見たフェリトは立ち上がり、ハルクに近づき、ローブの裾を爪で切り裂き短くした。

「フェリトお前、ゴツイ身体してんな。今までローブ着てたから気づかなかったけどよ」

『…そう…だね。』

「でもフェリトは優しいよ!ミーの大切な親だもん♪」

「…親。」

 小さく呟いたハルクは少し恨みの籠った表情をしていた。エケルは自分の発言に後悔した様子だったが、フェリトが頭をトントンすると少し落ち着いた様子だった。

『親…殺されたの?』

「お前、直球過ぎるだろ!」

「…俺は…造られた。人間の血流れてる…でも人間が嫌いだ。」

『そう…僕と同じか。人間の血は流れてないけどね。』

「人間の血が流れてない奴が同じ…だと?」

 そう言うとハルクは飛び上がりフェリトの胸を押し倒し、フェリトの上にのしかかった。その目はフェリトをしっかり捉え、鳥のように鋭い目付きで睨みつけていた。

「フェリ…ちょっと!」

 エケルが駆け寄ろうとしたのをディールは片手で抱き上げ止めた。

「エケルの坊ちゃんや、見てろ。」

「で、でも…」

 エケルが不安そうに2人を観ている中、押し倒されているフェリトのコアは特に光を発すること無く、黒いままであった。

「俺は人間に大切な人を殺された…なのにその人間と同じ血が流れてる現実!実験され続け、助けてくれた人を殺された…全て人間が…人間は悪だ…それなのに同じ血が流れてると考えただけで気持ちが悪い!それとお前が一緒だと?ふざけるな…俺は…」

『僕の事も憎いか?』

「…あぁ。力で押し返せるくせに、その行為を見せない…余裕を見せつけられてるのが憎い……」

 そうハルクは声を掠れた声で発した。フェリトはそれを静かに、温かみの感じさせない目で見つめていた。

『なら、何故僕を殴らない?殴る事くらい出来るだろ?』

「…俺にもわからない…憎いはずなのに…その目を…やめろっ…」

『はぁ…』

「そのため息はn…」

 ハルクが話してる途中でフェリトは下からハルクを抱き寄せた。フェリトの身体は毛皮で覆われている為ハルクは温かみを感じていた。

「温かい…」

『僕はハルク、君に恨まれても憎まれても僕は君を、離さない。ハルクの闇を僕が呪いで晴らす。』

「…その言葉に嘘は無い…な?」

『契約でも結ぼうか?呪いの契約…とでも言うものを…』

「けい…やく…。内容は…?」

『ハルク、君が死ぬまで僕への依存。その鎖は憎しみ…それでいい。そして憎しみの対象者からの温もりの提供…。契約違反は僕からの罰。だが、決して主従関係では無い。もし付け加えて欲しいことがあるなら聞き入れるよ。どうする?』

 フェリトの目は変わらず温かみを感じさせない目だったが、目の奥には覚悟がみえていた。ハルクはその目から視線を離せないで居た。そして、

「依存…嫌な響き…温もり…嫌いじゃない…」

『今も僕から離れない…でもハルクから憎悪も感じる。君が求めているモノを僕が提供する…さぁ…どうする…?』

「…契約を…結ぶ。」

 その言葉を待っていたかのように、言葉を聴いたフェリトは見た事もない、悪魔の様な笑いを浮かべ、全身から真黒い影を出し、コアをドス黒い色に発光させながら、ハルクを包み込んだ。

『『契約…成立ダ…』』

「ッ!?ヤメッ」

「フェリトォォーーー!!!」

 フェリトの聞いたことも無い様な、暗く低く絶望に引きずり込む様な声にエケルは、ディールの腕の中で叫んでいた。エケルの悲鳴の様な声に一瞬フェリトの視線がエケルに向けられた気がしたが、直ぐに影にフェリトとハルクが飲み込まれてしまい、エケルは泣き声をあげることしか出来なかった。

 エケル達3人の視線の先には真黒い塊が音もなく蠢いているだけだった。そして、数十秒蠢いたそれは、ゆっくりと影がフェリトの身体に戻っていき、立ち姿のフェリトとハルクがそこには居た。

 2人の姿に大きな変化は無い、だが確実に変化はあった。それは、ハルクの首に黒い輪の様な模様がついていた。フェリトは特に変わった姿は見られなかったが、少し息が荒い様子がみえた。

「フェリトおめぇ!エケルの坊ちゃんが居るのになんて事してんだァ?エケルの事は考えてねぇのかよ?」

「フェリトォ…大丈夫…?」

『…ごめん。』

 フェリトは苦しそうに、申し訳なさそうにエケルに謝った。エケルはどうしていいのかわからなかった。だから頷く事しか出来なかった。

『血塗れた鱗に戻ろう…』

「待て。お前みてぇな危ねぇやつ集落に連れて行くことは出来ねぇ。前までの行動は目を伏せることできたが、今の行動は見過ごせねぇ!仲間を危険にするかもしれないやつは今すぐ立ち去りやがれ!」

『…そう。エケルはどうする?』

「え?」

『僕の事怖いよね。ディール達と集落で暮らす道も1つの選択肢だよ。』

 その目は先程の目と違い、寂しさと申し訳なさを秘めていた。エケルはフェリトのこんな顔に戸惑いと苦しさを感じていた。

「ミーは…さっきのフェリトは怖かった。でもミーはフェリトと…ハルクと一緒に居たい!!」

 エケルの言葉にフェリトよりもハルクが驚きを隠せないでいた。まさか自分の名前が出る思わなかったのだろう。

『…今より怖い僕が居るかもしれない…それでも良いの?』

「ミーはフェリトの事、マァマァだから…グス…一緒に…居たいよ…ダメ…グス……かな…?」

 エケルは涙を堪えられずに、大粒の涙を流しながら必死に自分の思いをフェリトに伝えた。ハルクはその姿にこれが親子の姿なのかと考えさせられていた。

『エケルがついてくるなら、僕は受け止めるよ…僕の子だから。』

 フェリトが言い終えると、今度はフェリトとエケルを冷たさを感じさせる黄色い光が包み込んだ。それはハルクの時とは違い、数秒で光は消え、2人の尻尾の根元に黄色い輪の様な模様が現れた。

「エケルそれは呪いだぞ?お前ら3人はお互いを呪いで縛るとか…ありえねぇ…普通じゃねぇ…」

『普通?僕達は生まれてきた時から普通じゃない。今更異常を積み重ねた所で、何とも思わないよ。』

「俺も…何とも。」

「ミーはフェリトとの繋がり出来て嬉しい♪フェリトありがとう!」

『…うん。エケル、ハルク。行こうか。ディール、ディーダ、世話になった。』

 そう言い、フェリト達3人は血塗れた鱗とは別の方向に向かい歩き始めた。これから見たことの無い新天地に足を踏み入れる3人は悲しみ、不安と期待、憎悪をそれぞれ抱えながら進んでいくのであった。


    第8章  [完]

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汚れきった世界で生まれたこと オオカミ @DendokuTOKAGE

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