第7話 奪還

 フェリト達は集落を出る前に装備を整えた。整えたと言っても、ディールが胸当てや剣の手入れ等をする事くらいしかない。

 フェリトはまだ不明な〈能力〉がある為、万全とは言えないが、肉体と運動神経等でなんとかなると直感が働いていた。

 エケルは〈石眼〉と〈同調〉くらいしか〈能力〉は発動していないが、エケルも不明な〈能力〉がある為、戦いの中で目覚めるとフェリトとエケルは思っていた。

 ディールは多少の魔法と剣術、肉体能力でエケル以上フェリト以下の戦闘能力といった所だろう。

「フェリトとエケルは何か装備つけないのか?」

『僕は…要らないかな』

「ミーはまだ戦闘の前線には出ないと思うから…」

「前線に出ないなら尚更必要だろ?フェリトは大丈夫だと俺も思うが、エケルは何か探してやるよ」

 そう言うと、ディールは装備等が乱雑に置かれた箱達をあさり始めた。しばらくすると、エネルの身体に合いそうな頭と胴体の装備が出てきた。

「み、ミーはそんなにまだ力ないよ?」

「大丈夫だ。俺達が脱皮の際に出る鱗で作った鎧だ。重さもそんなに重くないし、動きやすいからいっぺん装着してみろよ!」

「き、着てみて判断するね」

「当たり前だ。嫌なら嫌で言ってくれた方が俺もスッキリするぜ!」

 そう言うと、エケルはディールに着替えさせられるように着替えていた。フェリトはそれを黙って見ていた。頭と胴体に鱗の鎧を着た状態のエケルは、腕を曲げ伸ばししたり、軽く跳ねてみたり軽く身体を動かし、

「フェリト!これ!すごい馴染むよ!」

『そっか…合うなら良かったね…。』

「うん!」

「気に入った様で良かったぜ!俺も準備できたし、フェリトよぉ、エケルよぉ、行こうぜ!」

「うん!行こう!」

『…そうだね。』

「まぁ俺は嗅覚とか感知能力は持ち合わせてないからフェリトに頼らざるおえないんだがな」

『あの鳥族の気配は…向こうからするよ。』

 そういい集落の出口の方を指さした。正確には…

「フェリト…そっちって…」

『…うん。』

「うぅ…ミーあまり行きたくないな…」

「2人ともどうしたんだ?」

『行けばわかる。』

「フェリト肩車して…ミーやっぱりまだ怖い…」

「エケルが怖がるってどんな所なんだよ」

 ディールが2人が嫌がってるのを不思議そうにしながら、3人は集落を出発した。

 集落を出て、フェリト達はディールと出会った癒しの水辺を抜けた。

『ここの湖水辺は…傷を癒すの?』

「そうだ。戦場と集落の間にあるから、戻る時は傷を癒してから集落に戻るぜ。」

『そうなんだ…』

「それってどんな傷でも癒せるの?」

「腕切断とかは無理だがな、それでも打撲や切り傷なら大丈夫だな。」

「へーすごいね!」

 そんな話をしながらフェリト達は森の中を歩き続けた。そして目的の場所に着いた。それは…

「やっぱりここだったんだね…ミーがわがまま言ってなかったら…」

『それは結果論だよ…でも…』

 そう言うフェリトのコアはほんのり赤く発光していた。エケルはちらっとフェリトの顔を上から覗くと、あまり変わらない表情かもしれないけど、少し苦しそうってエケルは感じた。

「この研究所はなんだ?もしかしてお前ら2人の生まれた場所か?」

『…そう…だね。僕が作られた場所。』

「ミーは…作られたのかな…多分生まれた場所かな?でもあまりいい思い出は無いかな。」

『でも人間は殺したはず…でも匂いがする…』

「人間の臭いはするな…」

『他にもある。薬品、動物、血…とかね…』

「やっぱり燃やしておくべき…」

『エケル。』

「こ、後悔しても仕方ないのはわかってるよ…でも」

「エケルよ、俺が口出すのは違うと思うが、生まれた場所残しておきたいのは変な考えじゃないから、自分を責めることはしなくていいと思うぜ?」

「ディールも…ありがとう…」

「それで、鳥族もここに居るのか?」

『…うん。ここに集落と同じ憎しみが、ある。』

「ならここからは気を引き締めてだな。」

 フェリトはエケルを肩から降ろし、胸の前で抱いた。エケルはコアを思わず見ていた。すると少しずつ色、発光が収まっていくのにみとれていた。

『…見られると胸の奥が…ムズムズする…のかな…』

「ミーは綺麗だと思うな♪それに、フェリトの気持ちがコアで少しわかるから!」

『そっか…』

「お前ら本当に親子みてぇだな」

「親子…うん!フェリトはミーのマァマァだよ!」

『エケル。』

「ご、ごめんなさい」

「なんだフェリト、ママって言われるのが嫌なのか?」

『好きじゃない…かな…』

「まぁ、考え方はそれぞれだからな。」

『いつまでもここに居ても仕方ない。入ろう…』

 フェリトがそう言うと、胸の辺りに居るエケルから、息を飲む音が聞こえた。フェリトはチラッとエケルを見ると、目が合った。エケルは何ともない様子を見せようと、笑ってみせた。ディールは腕を回して、楽しそうな雰囲気を放っていた。

 フェリトが少し壊れた、入口の扉を半場無理やりこじ開けると、警告音がすぐに鳴り響いた。それと同時にエケルのフェリトを掴む手に力が入った。

 フェリトとディールは身構えたが、数秒待っても中から生物が姿を表すことは無かった。

「なんだ?もぬけの殻…ってわけでもねぇもんな?…ん?カメラか?監視はしてるって訳だろうな。」

『小癪だな。』

「フェリトお前…そんな物騒な声も出せるんだな。」

 フェリトはディールの声を無視しながら中へ進んで行った。エケルは少し震えてる様子だが、周囲の様子をしっかり見ている余裕はまだあるみたいだ。

『エケル、苦しくない?』

「少し…かな…でも奥の方に黒い何かがある気がする…その人の元には行きたくない…かも…」

『そうか…でも、僕は行く…嫌だったらディールと外で待ってて?』

「俺もかよ!」

「でもミーも慣れないと…何時までもフェリトに迷惑かけていられない…から…。」

『迷惑…とは思ってないと思うけど…』

「俺は兄貴を取り戻してからじゃねぇとフェリト、その話は飲めないぜ?」

『エケルは頑張るって…言ってるから…その心配は要らない…』

「そうか、だが、エケルよ、無理すんなよ」

「ディールありがとう」

『あそこ…扉開いてる…それに…』

「あそこに黒い何かが…」

『2つ…居る…』

「2つ!?兄貴か!?」

『僕はディールのお兄さんの事知らないから…』

「だ、だよな…すまねぇ…」

『行ってみよう…』

 そう言い3人は研究所の最深部に向かって行った。そして廊下を進み、最深部、最後の扉の前に3人は立った。少しというかかなりエケルは苦しそうな表情をし、呼吸も荒い呼吸をしていた。

『エケル…?』

「だ、大丈夫…ミーは強くなりたい…から…」

『うん…』

「フェリトそれだけか?もっと労いの言葉とかねぇのかよ」

『僕は…そんな言葉を知らない。』

「ちっ…」

「ディール、ミーは大丈夫…だよ」

 そう言いエケルは苦しそうな顔の中笑ってみせた。フェリトのコアはさっきより薄赤黒く発光していた。

(フェリトもエケルもお互いの事大事にしろよ。そんなんで生きていける程自然は甘くねぇぞ)

 ディールはそう思ったが口に出すのはやめた。そして、フェリトは扉を乱雑に開けた。

 中は中央に玉座の様に人間2人が座れそうな立派な椅子に1人の男性が座っていた。その男はラフな格好をし、顔は遠くにいるフェリト達にも、笑っているのが見える程表情を見せつけていた。その玉座の左右に並ぶ様に、3つの列が出来ていた。

 1列目は操られているであろう、ガタイのいい生物達。

 2列目はこちらも操られているだろう、人間くらいの大きさの生物達。

 3列目は、前列を使役しているであろう、魔法使い達。

 フェリト達が中に進むと、魔法使い達は不敵な笑みをしながら「くすくす」と笑い声を小さくあげていた。更には入口にも、待っていたとばかりに、戻る事が出来ないように、剣や槍を持った武装した人間達がぞろぞろ集まっていた。

「やぁやぁ、私は君達を待っていたよ」

 そう中央に座っている、男が笑いながらフェリト達に声をかけた。

「俺の兄貴を返してもらおうか?」

「君の兄貴?あぁ、そいつの事か。」

 そう言い、左側の1列目の赤い鱗のリザードマンを指さした。

「このリザードマンは私達の物だよ?私の命令1つで君達を殺す事もできるんだよ」

「兄貴は俺達の家族だ!てめぇらの…もの扱いする奴の下にいていい兄貴じゃねぇんだよォ!!!!」

 そう言いディールは玉座に向かって飛び出した。すると、

「やれ。」

 男の一言と同時に赤い鱗のリザードマンは開眼し、ディールの前に立ちはだかり、ディールの一撃を男に当たらないように防いだ。

「兄貴!目を覚ませ!」

「ふん、そんな言葉で私達の魔法が解けるわけないでしょ。魔法士達、貴方達は適当にそのバジリスクとそれを抱いてるそれを片付けなさい」

「「「はい!」」」

 返事と共に、左右の3列目の魔法使い達は身構え、皆口々に呪文を発していた。それと同時に、左右の2列目の生物達は開眼し、唸り声を上げ、フェリトとエケルに襲いかかってきた。

 エケルは苦しそうに声を出していた。フェリトはエケルを床にそっと降ろし、保護の魔法をエケルにかけた。

〈絶対空間〉

「フェリト…ごめん…」

『少しずつ…慣れていけばいい…と思うよ』

 エケルの目には涙が浮かんでいた。フェリトの目にはそれが見えていて、胸が苦しいと感じた。フェリトのコアは先程より、より濃く、深く赤黒く発光していた。フェリトはローブをエケルの傍に置き、殺意を解放した。

 するとフェリトに襲いかかろうとしていた生物達は、一瞬にして身震いし、弱々しい声を発した。魔法使い達も一瞬にして体験したことの無い悪寒を感じていた。

 ディールもディールと対峙している族長も一瞬目線がフェリトに向いた。2人のリザードマンは感じたことの無い殺意に身体の鱗が逆立つのを感じる程に…

 エケルもフェリトの怒りを感じ、何も出来ない自分を憐れみ、どうしていいのかわからないほどの苦しみに呑まれていた。

 フェリトの強烈な殺意によって、魔法使い達に使役されている生物達の魔法が解けた。だがまだ使役されている生物達は、フェリトに襲いかかってきた。

 長い鋭い爪や、鋭い牙、青い炎等四方から飛び交ってきたが、フェリトはそれを、爪や牙は腕や顎を鷲掴みし、粉砕した。もちろん血飛沫や砕けた骨をを添えて。更に、その死体を炎や水にぶん投げ、防いでいた。魔法使い達からも様々な魔法が飛んできていたが、フェリトも地面を盛り上げ、防ぎ時には魔法を〈魔反射鏡〉ではね返す等、確実に魔法使い達を減らしていた。それと共に、使役されていた生物達も魔法が解け、攻撃の数が減っていた。

「貴方達何をしているの!1列目の奴らを使ってもいいからその怪力野郎を潰しなさい!」

「「「は、はい…」」」

 玉座の男に命令された魔法使い達はオーガや大狼に命令を与えた。流石にオーガ達はフェリトの殺意に少し気圧されるも、魔法を解くまでにはいかず、フェリトに襲いかかってきた。

 最初にフェリトの元に着いた大狼は大きな口を開けフェリトを喰らおうとしてきたが、フェリトが口に向け、〈地獄炎〉を放ち、大狼は体内から燃え悶えていた。それを見た3匹の大狼は三角形のポジションをとり、フェリトに一斉に飛びかかる角度を変えて襲ってきた。正面の大狼に近づき、首元をフェリトは食らいついた。短い悲鳴を上げ、正面の1匹を殺した。その1匹を振り回し左後ろ大狼にぶん投げた。その2匹は弾丸の様な速度で魔法使い達を巻き込み壁にぶつかり、幾つかの死体の山が直線上に出来上がった。最後の1匹はフェリトのトカゲの様な鱗の尻尾に噛み付いた。フェリトは尻尾をぶん回し壁に尻尾ごと叩き付けた。大狼は尻尾形が残る程に身体が変形し、フェリトの尻尾は血で塗れていた。

 更に近くにいたオーガを爪を伸ばし、肩から腰まで切り裂いた。そのままオーガやトロールを血祭りにあげていた。

「な、なんなのよアイツは…!う、後ろの兵士達も!」

 玉座の男が入口の兵士達を見ると全員石化していた。

「え!なんで石化してるのよ!あのバジリスクか!」

 皆フェリトの暴君に目が行っていた。それは後ろに控えていた兵士達も同じであった。その隙にエケルは苦しい中〈絶対領域〉をこっそり抜け出し、兵士達を全力で石化させていた。

『コロス…オマエハ…』

 フェリトの目線はしっかりと玉座の男を見ていた。コアだけじゃなく、目の色も真っ赤に染まっていた。

「こいつは使いたくなかったけど!鳥族のこいつは!行きなさい!あいつを殺しなさい!」

 男がそう言うと、入口の方から黒い気配がとてつもない速さで、エケルが石化させた兵士達を壊しながら入ってきた。それと同時に、フェリトの胸ぐらを掴み壁に勢いよく突き放した。

 鳥族の子はフェリトよりも2回りくらい身体の大きさは違ったが、勢いに乗った一撃をフェリトはガード出来なく、勢いよく壁にぶつかった。

「フェリト!」

『…大丈夫。』

 鳥族の一撃で少し理性を取り戻したフェリトは、

『…やっと会えた。』

 そう呟いた。フェリトが集落で感じていた通り、鳥族の子は深い憎しみに呑み込まれていた。そして苦しそうに一声、鳥のような甲高い声を発した。

「さっさとそいつらを殺しなさい!私の命令は絶対よ!」

 そう言うと男は鳥族の子に精神魔法を放った。周りの生き残っていた魔法使い達も同様に精神魔法を鳥族の子に放った。数発は鳥族の動きに間に合わず、外れたが、数が多く、半分以上は精神魔法をくらっていた。

 鳥族の子は男の傍に降り立った。フェリトの予想通り、子供である事には間違いないだろうと。だが、足は鳥族の立派な鉤爪が並んでおり、鱗がぎっしりと並んでいた。手は、人間の様であるが、指先は爪の様に鋭く、背中からは一対の羽が少し黒味を帯びながらはえていた。

「やっと服従したのね…鳥族の、子供のくせに手間がかかるわ…」

スパッ…。ゴドッ。

「…え?」

 鳥族の子は素早く玉座の男の首を鋭い手で刎ねた。男は首から血を噴出し、目を見開きながら口をパクパクさせ、死んだ。

「コロス…ミナ、ゴロシダ。」

 そう言い鳥族の子は、精神魔法をされている生物達と精神魔法を使っている魔法使い達を次々と殺して行った。フェリトはエケルの元に戻り、再度〈絶対領域〉をエケルに掛けてあげた。

「フェリトは!一緒にいてよ!」

『僕は…あの子を…多分…救いたい…と思う。』

「ミーはフェリトが傷つく姿を…出来ればみたくない…」

『僕は、そんなに弱く…見えるの?』

「うぅ…そうじゃない…フェリトは強いよ…」

『僕を信じて?』

「…うん」

 そう言うとフェリトは、暴走している鳥族の子に〈狼の加護〉を強めに発動させた。

「ぅゔゔニ、ニゲア゙…」

『理性…少し戻った…なら!』

 フェリトは鳥族の子に近づき、尻尾で叩き付けた。勢いよく地面に墜ちた鳥族の子の上にまたがり、もう一度〈狼の加護〉を両手で発動させた。ほんのりと赤い光を放ったそれは鳥族の子を包み、またがっているフェリトを払いのけようと手足を使って居るが、体格差がある為フェリトを払う事は難しい。フェリトは更に尻尾で足を抑え、大の字になっている鳥族の子を、両手で抱きしめた。

「…エ?」「え?」

 鳥族の子とエケルの声が重なった。フェリトもどうして、抱きしめているのか、わからなかった。それでも鳥族の子の理性を取り戻すのには十分過ぎるほどの効果はあった。

 鳥族の子の目は青く、爪も少し鋭さが無くなり、フェリトとエケルが感じる黒い気配は薄まっているのを2人は感じていた。鳥族の子はフェリトの腕の中でそっと目を閉じ、小さく呼吸を始めた。エケルが安全だと思いフェリトに近づいてきた。

「えぇっと…寝てるの?」

『多分…そう…だね。』

 フェリトはそっと鳥族の子を抱きしめ、立ち上がった。エケルが羨ましそうに見ていている目と目が合った。その為フェリトは尻尾を使い、エケルを肩に乗せた。エケルは嬉しそうにフェリトの首にしがみついた。


 一方ディールは、精神魔法を使っていた魔法使い達が鳥族の子に殺されて行った為、兄貴の自我が戻りつつあるのを確認していた。

「兄貴!俺だディールだ!」

「うぅ、デ、ディール…」

「今目ェさまさせてやるぜ!」

 そう言うと、ディールは兄貴の顔を1発拳でぶん殴った。その勢いは止まらず、兄貴の身体は数メートル飛んだ。

 それでディールの兄貴のリザードマンの自我は完全に元に戻った。

「ディールすまねぇ…俺が精神魔法喰らうなんてな…」

「戻ったんだな!良かったぜ…」

 そう言うと力なくディールはその場に座り込んでしまった。

「すまなかったな…俺は…俺たちはもっと強くならないとって目標が出来たな…」

「兄貴!俺は誰にも負けないリザードマンになってやるぜ!」

 そう言って拳をぶつけ合う2人のリザードマンの姿をフェリト達はみまもっていた。

 気がつけば鳥族の子とフェリトの暴れっぷりにより部屋は血塗れになっていた。もっと言うと肉塊があちこちに…フェリト達は気にしなかったが、まだ数人生き残っていた魔法使い達や兵士達は怯え、武器を逃げ出し、研究所を出ようと逃げ回っていた。だが、フェリトがそんなに優しいはずがない。エケルと鳥族の子を両肩に乗せながら、研究所の入口に集まっている人間達に迫っていた。

『君達に…生きる資格はない。』

 フェリトのコアは光すら発していたいなかった。それは単純に、人間が虫を払う程度の事なのだろう。あちこちから悲鳴が、啜り泣く声が聞こえていたが、フェリトには関係ない。エケルを肩から降ろし、鳥族の子を乗せてる方の手で脇に抱えた。空いた片手を少し噛み切り流血させた。

「ふぇ、フェリト!?」

『大丈夫。〈血の刃〉』

 そう言うとフェリトから流れていた黒い血は、フェリト達の目の前いっぱいに、10cm程の刃の形となった。それはフェリトが指差すと、一斉に人間達に襲いかかった。それは血を血で洗う。そんな光景だった。

 エケルはちょっとフェリトが怖いと思った。これが、惨殺が普通の光景になる自分が怖いと、フェリトの手が他人の血で染まるのかと思うと…良い気分にはならなかった。

 生きてる人間が居なくなった時、ディールとその兄貴が後ろから2人で肩を支えながら歩いて来た。

「フェリトよ、ちょっとやり過ぎじゃねぇか?エケルの坊ちゃんも怖がってるぜ?」

『エケル…が?』

 そう言い脇に抱えているエケルを見つめた。エケルは恥ずかしそうに目を逸らした。

『エケル…こわ…い?…よね…』

「…す、少しかな…でもフェリトには変わりないから、ちょっと怖いけど、絶対に嫌いじゃない!」

『…嫌いじゃない…か。』

 エケルはフェリトの言葉を聞き肩に登っていたが足を滑らせ、落ちかけた。がフェリトが、それを空いている手で支え肩に乗せた。エケルは「えへへ」と笑ってみせた。フェリトはそれを見つめていた。少し恥ずかしそうに。

 5人が研究所を出ると、朝日が登っていた。フェリトは

(生まれた日と同じ景色…かな)

 そう思っていた。そして5人は途中で癒しの水辺で傷を癒しながら、血塗れた鱗へ戻っていくのであった。

 癒しの水辺で傷を癒した鳥族の子は、道中も目を覚ますことなく、フェリトの肩に担がれて、血塗れた鱗へと向かって行った。

 それをエケルは少し羨ましそうに見つめていた。でもエケルもフェリトの肩には乗っていたので、フェリトはエケルの嫉妬心には気づかなかった。



    第7章    [完]

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る