第34話 魔窟の黒前

 



 おかしい。この高校は何かがおかしい。

 そんな事を考えながら、俺はそんなおかしい高校の練習に参加しようとしている。


「ワクワクするなぁ」

「他の高校の人が居るってなんか新鮮」

「よろしくお願いしますねっ?」


 にも関わらず、この歓迎ムードはやっぱりおかしい。練習内容もその方法も、他校には知られたくはない。それがなはず。


「じゃあ始めるぞーまずはランニングー」

「「はーい」」


 やっぱりこの黒前高校は、


「ついて来いよ? 鳳瞭学園のスタメンさんよ?」

「馬鹿言ってんじゃねぇよ。ばっちりついて行くってのっ!」


 ピー!


 何かがおかし…………って、


「うおっ! ランニングだろ?」

「と言うよりこれは……ダッシュ?」


 速くねっ!



 全くもって想定外。想像以上のランニング(ダッシュ)から始まった練習。そのスピードには驚きを隠せなかった。

 ただ、時間的には短い。難なくこなすと、次はストレッチとフットワーク。

 その種類も、ほとんど知っている物で、特段苦労はしなかった。


 ただ、黒前高校の練習は……ここからが本番だった。


「じゃあ33秒ダッシュ行くぞ?」


 33秒ダッシュか……ひたすら体育館を行き来する地味で疲れる練習だ。しかも……男子1列女子1列? これは……必然的に休める時間も33秒だけ? これは意外ときつそうだ……


 ピッ


 まぁ全力ダッシュが基本だけど、正直そこは己との戦いでもある。手を抜こうとすれば抜けるけど……見た限り全員が本気? 

 これは負けてられないな!!


「きっつー!」

「なかなかやるな2人共」


 これは結構キツイ。全力で、休める時間が少ない。けど、黒前の人達は……


「次行きましょう」


 疲れた様子も見えてない? これも……


「じゃあ次行くぞ? スクエアパスだ」


 えっ? もう? まだ1分も休憩……


「ボール4つ」


 しかもボール4つ? まてまて、だいたい33秒ダッシュの後は軽い休憩があるもんじゃ? しかもボール4つって、これも休憩できる時間が……


 ピッ


 少ないだろっ!


 はぁ……はぁ……マジか? マジか?


「なぁ、本当にこんな練習毎日……」

「すいません。静かにしてください」


「えっ?」

「練習に……集中したいんで」


 なんだ……突然? いや? 練習が始まってから、変な雰囲気は感じていた。けどまるで……練習前とは別人? しかも……よく見るとこの人だけじゃない。全員が無言で……表情は……険しい。

 疲れなのかもしれないけど……違う? 全員が異常な位……集中している?


 その考えは、当たっていた。

 黒前高校の練習メニュー。それ自体は俺達も取り入れているモノと変わりはない。ただ、決定的に違う事がある。それは、練習メニュー間の圧倒的移行スピードと、部員全員の集中力。


 普通、練習の合間は移動も含めて少し時間がある。それは自然出来た休憩時間だ。そしてダッシュ等で出来る待ち時間。それすらも黒前高校は殆どない。つまり……体を休める時間がない。

 さらに、全員が集中する事で目の前の練習に身が入る。密度と練度を考え、部活自体の時間を短くする。


 これが、黒前高校の練習。


 もちろん休憩時間はある。ただ、それで体が休まるかと言えばそうもいかない。逆に言えば、それに体が慣れたら……そう思うと、インハイでも走り続けていた黒前の秘密が垣間見える。


 少ないインターバルで最高の疲労回復。

 その体作りを皆がしている。


 そして1対1の練習。これも結構長い。

 確かに1対1はオフェンスの基本だ。ただ、この練習だけで1時間だぞ? しかも待ってる間、各々がハンドリングやパスの練習をしている。空き時間を有効活用? そこまで無駄な時間を作らない事が徹底されているのか?


 しかも全員が気を抜いてない。


「はぁ……はぁ……」


 本当に、さっきまで騒いでたのと同じ人か? 

 でもまぁ……負ける気はない。


 レッグスル―を連続で、そして体のフェイントを1度入れる。


「はっ!」


 今だ、重心がズレた。逆サイドにカットイン……


「くっ……」


 と見せかけて、クロスオーバーで逆サイドに切り込む!


「なっ……」


 よっし。ただ、全員が本気でやって本気で悔しがってる。

 これが黒前……正直舐めてた。

 歓迎ムードなんてこれっぽちもないな? 


 むしろ……ついて来いと誘っている。




「じゃあ次、5対5! そうだな……俺が良いって言うまで、チーム変えてずっとやろうか?」


「「はい」」


 ずっと? マジか?


「おいおいビビってんのか?」

「何がだよっ! 余裕だっつうの」

「だな」


「そんな事言ってぇ、足は大丈夫か? 海真プルプルしてんぞ?」

「はぁ? してねえだろ? まぁ見てな? 目に物を見せてやんよ」


 5対5、試合形式の練習か。


「おい湯真、本気で来いよ? 俺達はいつでもマジだからよ? 作戦とか出し惜しみしない。対策されても、それを更に超えるのが……黒前だからよ」


 対策を越えていくか……確かに、この集中力と体力があれば出来るのかもしれないな。でも……


「楽しみだな。だったら俺達は更に超えられないような対策をするだけだ。それが……」

「ふっ、その通り……」


「「鳳瞭だからなっ!」」


 練習でも負けられないのは俺達も何だよっ!





「ふぇぇ痛い痛いー、同じ人間なのになんでそんなに体が柔らかいんですかぁぁ」

「慣れだよ慣れっ」

「そうそう、慣れだよ?」


 って、なんかこっちでは女子部員さんに柔軟体操教えてるんだけど大丈夫なのかしら? 監督さんは、


「柔軟は大事だから、もし良かったら鬼の指導よろしくね?」


 なんて言ってたけど……


「うぅー」

「ヤバイヤバイ裂けるー」

「イケるイケるっ!」


 凜桜のお陰で一応楽しそうな雰囲気……


「ギャー無理無理!」

「無理だと言ってる内はまだイケるんですよっ!」



 ……みたいだし、いっか?



「「助けて恋桜さぁぁぁぁん」」



 はははっ……



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