第30話 宮原の系譜




「こんにちわー」


 徐に扉を開けると、そこには見慣れた玄関……いや? ロビーが広がっている。


「正直、内装の記憶なかったけど……凄いねっ」

「さすが……気品に溢れてる」


 見慣れているとはいえ、その風貌は由緒ある日本旅館のそれに間違いはないと思う。しかも床がピカピカなのはいつ見ても心地が良い。


「はーい。まぁ、いらっしゃい湯真? 海真?」


 なんてしみじみ考えていると、奥から現れた人の影。約1年ぶりの姿は……変わりない様だ。


「お世話になります」

「久しぶりー、ばあ……」


 キッ!!


 はっ! 馬鹿、海真! その呼び方は禁句だっ!


「いっいや、ともえさん」

「良く来たねぇ。あら? もしかして後ろの美人さん達は……」


「あっ、こんにちわ。月城凜桜と言います」

「私は恋桜です。あの、甘える形で来てしまいましたが、どうぞ宜しくお願いします」

「あらっ、さすがツッキーと恋ちゃんの子どもさんね? 礼儀がバッチリで……可愛いっ! ちょっと良いかしら?」


「えっ?」

「はうっ」

「んー、やっぱり若い子は良いわぁ」


 いや、いきなり抱き付いてる? あの普通は俺達にやるもんじゃないんですかね? でもまぁ、その容姿っも相俟ってなぜか絵になってるんですけどね? しかもツッキー呼び?


「じゃあ、お部屋に案内するわね? 真白ましろさーん」

「はーい」


 1人は固まり、1人は顔を赤らめる月城姉妹を尻目に、今度は真正面のお風呂場からこちらへ来る人。

 ハッキリ言って、この人も……全然変わらない。


「お部屋に案内してもらえるかしら?」

「はいっ! 久しぶりだね? 湯真君に海真君。また大きくなったぁ?」

「そうっすか?」

「真白さんもお変わりなく」


「ふふっ、相変わらず対極的ねぇ。あら? もしかしてその2人は?」

「あっ、月城姉妹ですよ?」

「やっぱりかぁ? 似てるねぁ」


 ……おいおい、いつまでそんな格好なんだよ2人共。とりあえず……


「おーい。凜桜、恋桜? 部屋行くぞ?」




 階段を上り、廊下を突き進む。

 大体俺達が泊まる部屋は、2階の端ってのが定番。そして今日はその隣に1部屋。凜桜と恋桜が泊まる部屋が用意されているはず。

 前を歩く真白さんもそれは慣れっこだと思う。その行く先は、まさに2階の奥の方だった。


「ねぇ湯真?」

「なんだ? 恋桜?」


 そんな中、やっと我に返ったのか恋桜が話し掛けて来た。


「私達、状況が分からない。まず、お出迎えしてくれた人は誰? そして目の前を歩く人は誰? 確かここは湯真ママの実家だよね? 2人共湯真ママの姉妹の方?」

「確かに……そうとしか考えられないんだよねっ」


 姉妹ねぇ……まぁ分からなくもない。けど、ここはちょっと脅かしてみるか?


「いや? 入り口で出迎えてくれたのは俺達の婆ちゃんだ。なっ、海真?」

「……あぁそうだ」


 おっ? 海真の奴も、なんとなく察したか?


「うっ、嘘つかないでよ」

「そうそう。あの若さでお婆ちゃんは盛り過ぎだってばっ」


「いやいやマジだって。その証拠に、お前ら抱き締められただろ?」

「あれでなぁ……若い人のエキス吸い取ってんだよっ」


「「えっ……」」


「ふふっ」


 その時だった、ついに目の前を歩く真白さんが堪え切れずに笑いを零した。まぁ後ろでまるで変なやり取りをしてたら、笑いたくもなるだろう。


「えっ? まって? 笑ってるんですけどっ?」

「真白さん、すいません」

「ううん。ごめんね? 余りに面白くて我慢できなかったわ」


「ちょっ、これって……」

「はい、お部屋付きました。お部屋は2部屋あるから、お互い好きな方使ってね? それじゃ、晩御飯になったら呼びに来ますから?」

「はい、ありがとうございました」

「真白さん、ありがとー」


「「どう言う事なのー!?」」




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




「えっ、本当にお婆ちゃん?」


 荷物を置いた俺達の部屋に凜桜と恋桜が雪崩れ込み、早速さっきの出来事に対しての尋問が始まる。

 ここまでくると、もう本当の事を言っても良いかもしれない。焦る2人の顔も見た事だしね?


「あぁ、そうだ。あの人は俺達の婆ちゃん。宮原みやはらともえさんだ」

「ちなみにお婆ちゃんって禁句だからな? 若さ保つ為に徹底した名前呼びをお願いされてる」

「……えっ? じゃあ昔私達が来た時に相手してくれた人? 嘘? 記憶の中の姿と……」

「うんうんっ! 全然変わって無い。ヤバくないっ!?」


 そういえば確かにここ数年姿変わってないな? 元々若く見えてたし……他の人からして見ると想像以上の出来事なのかもしれない。


「まぁ、宮原の家の系統はそんな感じなのかもな?」

「そっか……だって真白さんだっけ? あの人も美人だもんね?」

「真白さんはお嫁に来た人だぞっ?」


「「はっ!?」」


 そうそう、部屋まで案内してくれたのは宮原みやはら真白ましろさん。伯父さん……母さんのお兄さんのお嫁さんだ。つまり正確には宮原家の系統には当てはまらないはずなんだけど……


「嘘でしょ? じゃあなんであんなに綺麗なの?」

「いや……分からんけど。ちなみに長男は俺達の1個上だぞ?」


「なにそれ? あり得ないんですけど……」

「あれじゃないっ? 温泉の効力じゃないっ? でしょでしょ?」


 うおっ……一気に圧力がっ! 目がマジなんですけど!?


「でもっ、真白さん達だけじゃないんだよな? 宮原家はキャラが濃いというかさっ」

「だな? 特にさっき言った……」


 バタン!


「よぉ! 海真・湯真! 遠路はるば……」


 ん? 噂をすればなんとやらか? 来……


「うごっ」


 それは一瞬だった。部屋の扉が開いたかと思うと、ドヤ顔で何かを話し始めた誰か。だが、その姿は瞬く間に、どこかに行ってしまった。


 そして、そこにひょっこり現れたのは……


「ほっ……ほっ……本物の東京ガールですか? 生粋の東京ガールなのですか?」


 目をキラキラさせ、顔を真っ赤にし、鼻息が荒い……


「えっ? ねぇ湯真?」

「かっ、海真?」


「おっ……おっ……」



「お姉さまぁぁぁぁ!」



 やべぇ女だった。



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