第31話 いとこ達




 はぁ……なんという騒々しさだろう。


「いいか? ウィンターカップでは絶対勝つからな? 大体インハイの時は――――――」


 何故かドヤ顔で、俺達に何やら大きな声を上げている犬の様な男。いや、指差すんじゃねえよ。

 片や、


「是非是非、お姉さまと呼ばせて下さいー!!」

「ちょっ、ちょっと」

「まってまってー!」


 完全にロックオンした様に、凜桜と恋桜を追いかけ回す猿の様な女。いや、部屋で走り回るんじゃないよ。ドタバタうるさいだろ?


 そんな光景が、1つ部屋の中で起こっているとは……まさにこれが地獄絵図というものだろうか。


 けど、だからといって少々酷いな? 


「海真?」

「ん? 了解」


 さすが、察したか? それじゃあ……


「ていっ!」

「いってぇ」


 いいぞ海真。じゃあこっちは走ってる奴が近付いてきた……今だ! デコピン!


「あいたぁぁ」


 ……ふぅ。これで少しは静かになったな?


「てっ、てめぇ海真! いきなりチョップとは良い度胸だな」

「くぅ……脳天に響くデコピン……久しぶりの感覚だよ……湯真!」


「いやいや、ちょっと落ち着かせようと思ってなっ」

「手加減はしたぞ? それに海真の言う通りだ。ちょっと落ち着け。それに挨拶もまだだろ?」


 ったく、俺達は良いけど、凜桜と恋桜はほぼ初対面だろうよ。


「そりゃ……そうだけどよ」

「はいはい。じゃあ座った座った。まずは自己紹介と行こうぜっ?」


「……だな? じゃあ俺は……」

「座ってから話せよっ!」


 挨拶をするのに、ここまで時間が掛かるとは……なんて思いつつも、やっと落ち着きを取り戻した犬と猿。ようやく腰を下ろして、しみじみと顔を見合わせた。


「はい、じゃあ透白からでいいんじゃないか?」

「俺か? 分かった。えっと、俺の名前は宮原みやはら透白とうし海真達のいとこで1つ年上だ。よろしく」


 宮原透白。

 俺の母さんのお兄さんである……透也とうやさんと、さっき荷物を運んでくれた真白さんの子どもで長男。

 まぁ年も近いし、結構仲は良い。てか、仲が良くないとあんなやり取りできないだろ?

 それに、同じバスケットボールプレイヤーとして……ライバルでもある。まぁ、さっきは恐らく、前に行われたインターハイの事で熱くなってたと思う。なんてったって決勝は透白が居る黒前高校だったから、色々と募る思いがあるんだろう。


「あっ、そう言えばコートの中で湯真達と話してましたよね?」

「そう……いえばっ!」

「げっ? 見られてた? なんかそう言われるとハズいな」


 性格的には良い意味真っすぐで、悪い意味融通が利かないけど……普段は普通に良い奴だと思う。

 そして次、


「うぅ……おでこがヒリヒリ。初めましてぇ、宮原みやはら花那かなと言いますぅ」


 宮原花那。

 透白の妹で今年中学生になったばかり。真白さん達の次女だ。

 まぁとにかく明るい。初花とはかなり馬が合って、2人揃うとずっと一緒に居る位だ。そんな相方の到着が遅くなってしょんぼりしてるかと思えば……どうやらターゲットは違うらしい。

 確かに東京という場所に興味と憧れを持っていたのは知っている。初花にもかなりガッツリ聞いてたしさ? そんな中、東京の高校生が来たとなると……第2のバイブル状態なんだろうな? 勢い余ってお姉さまとか何とか言ってたな? 本当の姉さんに怒られるなよ?


 まぁ、本来はちゃんと礼儀正しくて挨拶も出来る。ただちょっと……興奮した時がアレなだけだと思う。


「ちょっと湯真? デコピンはやり過ぎでしょ?」

「そうだよっ!? 痛かったよねっ?」

「はっ! いっ、痛かったですぅ」


 ……おい? ちょっと落ち着いた姿見せたと思ったら、何だこの変わり様。もしかしてお前ら、妹居ないからってお姉さま呼びにデレデレし出したんじゃないんだろうな?


 そんな嫌な予感を感じながらも、とりあえず挨拶を終えた俺達。なんと言うか、変な空気だったのは最初だけで……気が付けば凜桜と恋桜も交えて、何気ない話も出来る様になっていた。


 すっかり仲良くなったな? てか、凜桜と恋桜に関してはもはやデレデレ。


「えっ! 今はそれが流行ってるんですか!?」

「うんうんっ」

「そうだよ? 多分初ちゃんに聞いても、そうだって言うから」


「うわぁ……メッ、メモメモ」

「なんか初ちゃんと違った可愛さだわっ!」

「うん。分かる……分かるよ」


 まぁ、ぱっと見子ザルみたいな可愛さはあるからな? 行動もだけど。まぁ、さっそく仲良くなってくれて良かったよ。

 んで? こっちは……


「いや、だからさ? 1対1なら負けないって」

「んな事言ってもなぁ。透白とはポジション違うからマッチアップしないだろって。相手は絶対聖明なんだよ」


「くっ、聖明か……五分五分なんだよなぁ。てか、聖明居なきゃお前達なんて……」

「おっ? それは聞き捨てならないぞ? 俺だって1対1は負ける気しないぞ?」


 はぁ……結局バスケ談義か?

 けど、透白はああやって言うだけあって、バスケは上手い。身長も俺達より少しデカいし、聖明と同じオールラウンダーだ。キャプテンシーもあるし、その腕前は認めざるを得ない。


「じゃあ今から白黒つけようか? 庭にゴールもある事だし!」

「いいねぇ、望むところだっ!」


 おいおい、もうちょっとゆっくりしようぜ? 会うのはそうでもないけど、折角久しぶりに宮原旅館に来たんだからさ?


「お姉さま達? 一緒にお風呂でもどうでしょう? 露天風呂は最高ですよぉ」

「あっ、なんか覚えてるかもっ! 景色凄かった気がするっ」

「温泉かぁ。いいねぇ? 足伸ばしてゆっくりと」


 こっ、こっちは真逆の観光気分!? いやまぁ、有りだけどさ? 有りだけど……


「ぜってぇ負けねぇぞ?」

「俺だって負ける気しないねっ!」


「昔から美白の湯としても有名なんですよぉ?」

「……凜桜?」

「……恋桜?」


「「早く案内してもらえる!? 花那ちゃん!」」



 はぁ……おかしいな? 俺だけか?


 もはや結構……



 疲れ気味なんですけど?



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