第28話 少数精鋭




「きゃあ! 凜桜ちゃん! 久しぶりー」

「きゃー希乃さーん!」


「ちょっと恋桜ちゃんもー!」

「ん! きっ、希乃さん! おっ、押し付けないでぇ、ちっ、窒息しちゃう!」


「希乃さん、変わらずで何よりです」

「そんな恋ちゃんだってぇ、ますます女の魅力が増してぇ! このこのー」


「はっ! 彼は廉二君!? 最後に見たのは赤ちゃんだったよねぇ! なんて触り心地の良い頭っ!」

「えっ、あ……へへへっ」


 月城家のリビングに木霊する、ハイテンションな声。まるで海外ドラマ特有のホームパーティーでも見ている様な光景を、俺達はただただ見ていた。


 同等のテンションで迎える凜桜。

 首に手を回され、山脈に顔をうずめている恋桜。

 まるで女子会の様な雰囲気の恋桜ママ。

 ひたすら坊主頭を撫でられ、ニヤニヤしている廉二。


 1人加わっただけで、ここまで変わるのかと思わざるを得ない。まぁ久しぶりの再会ともなれば当然なのかも。

 ただ……少し恋桜を羨ましく思ったのは内緒だ。


「なぁ湯真」

「ねぇ湯真兄?」


「「あの人は誰?」」


 しかしながらそんなパーティー状態の月城家を目の前に、置いてけぼりの住人も居る。何を隠そう居候組の雨宮家の面々だ。

 事前にある程度の情報があった俺とは違い、2人にとってはまさに、


 なんだあのロリ巨乳は……


 そんな感じだと思う。一緒にここへ来た俺にその疑問を投げかけるのは当然だ。


「あぁ、あの人は日南希乃さん。凜桜パパのとこで働いてる整体師さんらしい」

「せっ、整体師? 見た事なくね?」

「わっ、私も……」


「今まで海外で勉強してたらしい。一時帰国もしてたみたいだけど、俺達と会わないのも無理ないだろ」

「海外で勉強? 凄い人なのか……まぁ1度見たらそうそう忘れられない見た目だよな」

「……ゴホン」


 おい初花。お前顔怖いぞ? ……はっ! バカ! 廉二、鼻の下伸び過ぎだろ! いやまぁ、同じ男として気持ちは分かるけど……


「まぁ、そんで晴れて今日帰って来たそうだ。俺も偶然会ってさ? 色々と診てもらったよ」

「……っ! 色々と……」

「診てもらったぁ? 湯真兄っ!!」


 なっ、なんで怒ってんだよ!


「なんだよ! マッサージとか」

「「マッ、マッサージ!?」」


 あぁもう、誰かこの2人どうにかしてくれぇ……


 そんな事を切に願いながら、なんとか誤解を解くために説明をしていると、


「あっ! もしかして君! 湯真君のお兄ちゃん!?」


 その渦中の人が、今度はこちらへ近付いて来た。

 こっ、このタイミングで? ……いや? これはむしろありがたいのでは? そのテンションの赴くままにこの2人を黙らせてくれないですかね?


「えっ……はい……」

「名前は何かな?」


「雨宮……海真です」

「おぉ、海君から一文字貰ったんだね? 湯真君と揃って良い名前だなぁ」


「えっ、海君? なんで父さんの名前を?」

「あぁ、希乃さんは父さん達の先輩にあたるんだよ。それに見知った仲だって」


「「えぇ!?」」


「うんうん。整体師やってるから、海真君も疲労回復、部位の怪我でお困りなら下のオフィスに来てね?」

「はっ、はい……」


 手を握られ、焦った様子の海真。しかしながらその視線の先を俺は見逃さない。その身長差が織り成す罠。同情するぞ海真? 下を向いたらそこに崇高なる山脈の谷間があるんだもんな。けどな? 


 ……はっ! この殺気…………ヤバいって、そろそろやめとけ。こっち見てるぞ? 負のオーラ全開で恋桜が見てるぞ? てか、希乃さん? あなたも……


「そんで……君は! もう分かるよ?」

「えっ? えっ?」


 空気読んでくれましたか。あれ以上は、色々とヤバくなりそうだった。うん、なぜか俺がやられそうな雰囲気でしたもん。


「お名前教えてくれるっ?」

「うっ、初花です……」


「きゃぁー! だよねだよね? もう湯花ちゃんそっくりだもん! 可愛いー」

「んっ! うむむー! んー!」


 ……これは逆に今度は初花との身長差で……凄いな。


「えっと、希乃さん? マジでそろそろ初花の空気が……」

「えっ? あっ! ごめんごめんつい可愛くてっ。大丈夫だった? 初花ちゃん」

「ぷっは……だっ、だいじょうぶれふ」


 顔赤いけど大丈夫か? でも……


「久しぶりの日本はいいなぁー」


 今後は色々と、楽しくなりそうだ。


「あっ! 凜桜ちゃん、恋桜ちゃん! 一緒にお風呂入ろうよー! 揃いも揃って色んなとこ成長してるみたいだしー?」

「ちょっ、希乃さん!?」

「だっ、ダメですって!」


 ……いや? 騒がしくなるの間違いかも……


「良いではないかー、良いではないかー」


 しれない?




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




「はぁ……なんか疲れた」


 すっかり日も暮れた屋上。

 晩御飯を終え、1人体幹トレーニングに勤しむ俺の横で、ため息交じりに零す恋桜。まるで嵐の様に登場し、嵐の様に去っていた希乃さん。その存在を知っている恋桜でさえ、その久しぶりのテンションには付いて行けない様子だった。


 まぁ俺から見ると、何が疲れただよ。一緒にお風呂入って……そんな思いが溢れそうだったけど、とりあえず今は喉元で留めておこう。


「すげぇテンションだったな?」

「ははっ、昔からあんな感じだったけど、久しぶりに直面するとヤバかった」


「そんな感じには見えなかったけどな?」

「そう? なんかねーパパの職場の人って、少数精鋭で皆腕は超一流なんだけど……キャラが濃い人がねぇ……」


「ん? そんな居なくね? 栄養士さんとか、1階のスタジオのインストラクターの人とかさ?」

「ははっ、群を抜いてるんだよねぇ。独身貴族3人衆が」


 どっ、独身貴族……3人衆……? なんだよそれ! 悪役の言い方じゃね? てか誰だし!


「いやいやそりゃ言い過ぎだろ?」

「そうとも言えないよ? まずサポートトレーナー烏真からすま三月みつき!」


 三月……はっ!!! 海外で活躍する選手の為に、凜桜パパとの橋渡し的な業務を担ってる人だよな?

 滅多に会った事ないけど確かに……って、あの人結婚してないの!?


「次にさっき猛威を振るった、日南希乃!」


 あぁ、それは何と言うか……わかるね? 本業の方は凄いってわかるけど。


「妹の詩乃しのさんはそうでもないんだけどね……独身貴族だけど」


 ……ん? 妹? 妹いるの? 


「妹?」

「そうそう。2人共パパのところで働いてるんだ。しかもお医者さんね? もうそろそろ希乃さん同様、海外から戻って来るんじゃないかな」


「いっ、医者? なに? 凜桜パパのところって、専属の整体師だけじゃなくて医者も居んの!?」

「うん。そうだよ?」


 マジか? 想像以上だぞ?


「そんで最後が……私達の叔母さん」


 あぁ……この人は結構見覚えあるぞ? 恋桜ママの双子の妹さんだよな? 


「えっと……りんさんだっけ?」

「そうそう。まさに独身貴族のドンと言っても過言じゃない」


 確か凜桜と恋桜の名前は、その姉妹の名前から取ったんだよな? その話は印象に残ってる。でも……


「でも、見た感じお淑やかな感じじゃ……」

「まぁそれもそうなんだけどね……度が過ぎるところもあるって言うか……」


 度が過ぎる? 一体どういう意味なんだ?


「まぁ楽しい事には変わりないんだけど……」

「それは……」


「でっ、でもね! 湯真!」


 うおっ! 何だよ急に!


「確かに希乃さんの大きなアレには勝てないよ!? でもね? 私も凜桜も……」


「結構立派なんだからね!?」



「えっ?」



 ……えっ? 恋桜? ねぇ恋桜さん?


 いきなり何変な事……


「なっ、なによっ! 本当の事だもん!」



 言い出すんじゃないよっ!!



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