第23話 勝負の日
ここで試合をするのは何度目だろう。
いや、バスケの試合をするのはこれで何度目だろう。
四方八方から聞こえる声援と、ベンチから放たれる鼓舞。
何度も経験した、独特の雰囲気。
もちろん苦しい展開だってあったけど、それらを繰り返す度にまた1つ上手くなれた気がした。
そして今日も……
スパッ
例外じゃない。
よっし! 3本目!
「ナイシュー湯真!」
「おうっ」
昨日に引き続き、自分でも分かる位に体がキレてる。指先の感覚もいつにも増して研ぎ澄まされてるし……これも凜桜との約束のおかげかな?
最高の晴天に恵まれた今日この頃。
少し前に父さん達の試合を見に来た時とはその姿が変わっているけど、ここ
AブロックとBブロックに分かれる今大会で、都大会を優勝で飾った俺達鳳瞭学園はAブロック。
そして只今……
「さぁ皆。一本集中して止めようか?」
「了解!」
「任せろ」
大会2日目、準決勝の最中だ。
……さて、相手のポイントガードはどうする? 抜くか? それだけはさせない。ん?
「湯真! 右!」
右にスクリーン? 相手チームの誰かが俺の邪魔をして、その隙に抜こうって魂胆か。 まぁ、1対1のマンツーマンに対しては定石の攻め。
だったら……
「海真」
「はいよ」
別に無理してずっとお前のディフェンスはしなくてもいい。邪魔されたなら……
「ナイススイッチ」
守る奴を変えれば良いだけ。
海真が相手のポイントガードのディフェンス。
俺は邪魔された奴をそのままディフェンス。
これで元通り。
このサポートは、監督の指示の下徹底されている。ちょっとやそっとの揺さぶりじゃ崩せないぞ?
「もっ、もっと動け」
結局、攻めきれずパスか? ……ところがどっこい、海真からのプレッシャーを受けながらのパス。それを淡々と狙ってる天才が居るんだよな……
「ちっ! 島田……えっ!?」
パシッ!
やっぱりな? パス出す相手が絞れたら、あいつの餌食にされるよ。
「よっと」
天才オールラウンダー下平聖明のな?
スパッ
「ナイシュー聖明!」
「ナイスディフェンス海真!」
皆の調子は悪くない。
俺の調子も、体育祭で我が緑組が圧倒的優勝を果たした後から鰻上り。
これはイケる、イケるぞ?
『とにかく優勝したら、ちゃんと俺が活躍して完勝したら。だからその……もしそれを達成できたらで良い。2人で……出掛けてくれないか?』
『……うんっ! 良いよ?』
凜桜と2人でデート出来るぞぉぉ!
スパッ!
よっしゃ! 今日4本目のスリーポイント!!
「「「ナイシュー! ナイシュー! 雨宮湯真ー!」」」
はぁ……やっぱ良いな? チア部の応援があるって……って! あれは……凜桜?
くっ、やっぱ普段とは違う……
「「「ゴーゴー鳳瞭」」」
ユニフォーム姿最高かよっ!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
―――それで? 湯真? どこ行くの?―――
まずは映画だな? 話題のホラーがあるからそれで決定。いくら好きだって言っても驚きポイントでもしかすれば……
―――キャッ! ごっ、ごめん湯真! 思わず服掴んじゃった―――
これだ! この展開。願ったり叶ったりだ。そして畳み掛けるっ!
―――全然良いって。それより……どうせならこっちの方が良いんじゃないか?―――
思い切って手を握って……
―――はっ……うん……―――
キッ、キター! これだこれだ! いいぞいい……
「うぉい! 湯真! 聞いてんのか!?」
「はっ!? なんだよっ」
人が折角大事なシミュレーションをしているというのに、その邪魔をしてきたのは空気の読めない男昴。
くっ、目の前に浮かんだ凜桜の顔が一瞬にして消え去ったかと思うと、急に出て来たのがお前の顔だぞ? ハッピータイムを返せ!
「なにって……」
「はぁ……」
「おいおい! なんで溜息ついてんだよ! 逆だよな? むしろさっきから話し掛けてんのにシカトされてる俺がつきたいんですけど? そりゃ盛大にドデカイ溜息つきたいんですけど!?」
「はいはい」
はぁ……もう浮かんでこない。実物も今は……居ないし? 折角良い所だったんだけどなぁ……
「くぅ! おい海真! お前んとこの弟ムカつくんですけどー」
「ははっ、湯真の事だ。どうせ次の試合のシミュレーションでもしてたんだろ?」
違うぞ海真。ある意味試合より重要かもしれない。かなり重大な事だぞ? それをコイツ……
「そうだぞ。今ので消えた。良い作戦が消えた。この責任は重いぞ昴」
「はっ、はぁ!? おっ、俺のせい!? 滅茶苦茶重要な事言おうとしてたのに!?」
正直、話なんて全然聞いてなかった。でもこいつの重大は8割の確率でどうでも良い事……
「まぁまぁ、それに関しては俺も気になる」
「だろだろ?」
なはずなんだけど? 海真が興味を持つって事はそれなりの事か? 仕方ない、聞いてやるか。
「じゃあどうぞ? 話して? はい話して?」
「なんだよ湯真! 俺なんか悪い事したか!?」
……したね? どちらかと言うと過去最大級の空気の読めなさだったね? でももう良いさ。俺もまだ試合あるってのに、ちょっと浮かれてたかもしれないし。
「まぁ、その辺は後々支払って貰うとして……」
「えぇ!? 支払うって、その言い方怖っ! 俺なんもしてないぞ?」
「ったく、湯真の冗談に決まってるだろ? んで? 何なんだ?」
「冗談じゃないけど。それで? 何だ?」
「なんだよこの双子! ったく、お前達の間で話すもんじゃねぇな? ……まぁ今に始まった事じゃねぇから良いか。 ……ゴホン結構真面目な話だ。特にスタメン確保してるお前等には知っておいて欲しい」
真面目ねぇ? けど……顔つき変わったな? 本当に真剣って事か?
「ん? 分かった」
「おっ、気になるねぇ」
「俺達の次の相手。まぁ決勝の相手だな? 神奈川のセントリカル学院だ」
セントリカル学院……ここ十数年で力をつけて来たトコだな? 関東大会にも常連だし、全国大会でも名前は見る。
「神奈川でも5本の指に入る強豪だよな」
「けどさ? 県大会では確か2位だろ?」
「あぁ……県大会はな? でもまぁ、とりあえず見ておくかなって思ってさ? お前らクールダウンと昼食べてる時、試合見てたんだ」
おっ? マジか? 意外と昴ってこういうトコあるよな? 変に物知り。それがバスケだけならまだ良いんだけど、要らぬところまでなんだよな……っとそれで?
「「なるほど?」」
「気になる選手が居た。ベンチに座ってた外国人なんだけどな?」
外国人? そういえば数年前からアメリカから監督連れて来てるよな? その伝手か?
「外国人ねぇ。でも今更珍しくもないだろ? こっちにもココやん居るし」
「どこでも1人は居るイメージだな? でも昴。それでもお前が気になったって事は、存在だけじゃないんだろ?」
「あぁ、ベンチには居るけど1試合も出てない」
試合に出てない? それって単純に1年でまだ慣れてないか、実力的な部分あっての事じゃないのか?
ちなみにココやんってのは、留学生のスティーブン・ココロロの事。俺達と同じ2年で、明るい奴だから皆にそう呼ばれてる。
「まだ下手なだけじゃね? 期待されてたらドンドン出させるっしょ?」
「確かに。少なくとも経験はさせとく気がするけどな?」
「けどなぁ……身長は恐らくココやんと同じ位なんだけど、ガタイが良いんだよ。なんか気になってな?」
ガタイねぇ……でも意外と動けなかったりする事もある。正直、プレーを見てみないと何とも言えない。
ただ……
「なるほど。でも、そいつは試合出てないんだろ? 県大会は?」
「さっき神奈川の
「清生って県大会優勝したとこだよな? Bブロックの決勝にも残ってるぞ?」
ん? 期待されてるなら県大会の1回戦辺りで出して、試合慣れさせるもんだけどな? やっぱまだ慣れてないか、そこまでプレーが出来上がってないんじゃないか?
「でもまぁ、警戒するに越した事はないだろ? この事聖明には言ったのか?」
「いや? さっき監督と話してたから……終わったら伝えようと思ってた」
「心配しすぎじゃね? とにかく、いつも通りの力を出し切れば大丈夫だろっ!」
ったく、これだから陽キャは……って言いたいところだけど、今日に限って言えばその流れに乗らせてもらう。だってな? こっちには……
凜桜とのデートが懸かってるんでなっ!
「とにかく油断だけはしない様に、全力だな」
「当たり前だ。この流れだと、お前ら2人はスタメンなんだし……頼むぞ?」
「お前も準備しとけよぉ? 昴? ミスったら怒られっからな?」
「うっ、うるせぇよっ」
とりあえず、負ける訳には行かない。
「大丈夫だ。俺達が試合決めてやるから」
「おっ? 珍しく自信満々だな湯真」
「なんかムカつくんですけどー」
てか、なんだか負ける気はしない。
それに凜桜達の目の前だぞ? しかも応援ありだぞ?
絶対に活躍して、圧勝して……
「まぁとりあえず……やってやろう。インターハイ制覇の前座。都大会制覇、そして関東制覇」
「おうよっ!」
「……だな?」
凜桜にアピールしてやるっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます