第22話 月城凜桜の高揚
私は今、物凄く動揺している。
だってまさか、こんなところで……湯真と会うなんてっ!!!
「あっ……」
しっ、しまった! 思わず声がっ!
「りっ、凜桜?」
はぁぁぁ準備もしてないのに! 緊張する……一気に顔が熱くなる! だだっ、ダメよ? 凜桜! 落ち着いて落ち着いて……
「湯真!」
よっし! 無難に答えれた! 怪しくはないよね? キョドってるって思われてないよね? ふぅ。でもここは、あえてこっちのペースに持って行った方が良いよね? うん。
てか、そもそも湯真はなんで校舎の中に?
「とっ、湯真なんで校舎の中に?」
「ん? いやいやそれはこっちのセリフだよ。もう少しでリレー始まるだろ?」
えぇ! まさかの質問返し? しかも……そうだよね? 気になるよね? むむむ……とりあえず本当の事を言うべきっ。
「えっ? そうなんだけど……ちょっと気になってね?」
「気になる?」
「うん。ほら、学年対抗リレーで恋桜転んじゃったじゃない? それで心配だから様子見に行こうと思ったんだけど、リレー見てる中にも居ないし、テントにも居なかったから。」
そうそう、恋桜リレーで転んだの見て心配になったんだよ。それで湯真は?
「それで保健室に居るのかなって思ったんだけど……湯真はどうして? もしかして……」
「ん? あぁ、一応付き添いで保健室連れて行ってたんだ。なんか捻挫してるっぽかったし」
つっ、つっ……連れて行った!? 湯真が!? くぅぅ! なんて……なんて……羨ましいっ!
付き添ってたって事だよね? なになに? まさかおんぶとか? おんぶ!?
……はっ! 落ち着け凜桜! 落ち着いて!
「えぇ! 捻挫? マジかぁ」
「まぁ様子を見る限り軽い感じだったよ?」
かっ、軽め? てことはおんぶはしてないかな? 肩とか? えっ? ボディタッチ? タッチしたの?
……どっちにしても羨ましいよぉぉ。
「くっ、癖にならなきゃ良いけど……これからチア部が活躍する季節到来するしね。でもさすが湯真、ありがとっ」
うぅ……でもお礼はしないと。私情はともあれ、保健室へ連れて行ってくれたのはチア部としても、姉としても嬉しい限り。
そもそも……負傷に気付いて、さっと連れて行ってくれるなんて……湯真優しいなぁ。本当に優しい。クールなのにそういうところは見えてて、飾らずにしてくれるのが素敵。
「全然だって。それにしてもリレー見に行かなくて良いのか?」
ほらっ! しかも私の事まで考えてくれてる!
「まだ選手紹介だから大丈夫でしょっ。各色が逆転するには何位になって何点必要とか、最後の種目だけあってちゃんと説明するしね?」
「あぁ、後は出場全選手の紹介だな?」
「うんうん。テンション上がっちゃうよね?」
本音だよ。まさに今この状況が嬉しくてテンションが上がってます。
「まぁ俺はそんな場に居たくはないけどな?」
「そう? 湯真は足速いから大丈夫だってっ!」
走ってる姿、格好良かったよぉぉ!
「いやいや、てか凜桜こそヤバかっただろ? 4人抜きだろ? 目立ってた」
「たまたまだよ?」
はぁぁ、褒められた? 褒められた? ヤバい爆発しそう! こっ、ここはちょっと強気で行っても良いんじゃない?
「にしては、凄過ぎだけどな?」
「だったら、湯真はアンカーで1位で……格好良かったよ?」
「あっ、ありがと」
言っちゃった! 口にしちゃった! でも……うん、良い感じじゃない? 嫌がってはない……はず。
むしろありがとう!? お礼?
うぅ……やったぁ! 嬉しいよぉ……ん? もしかしてこれはチャンス? もっともっと話が出来るチャンス!?
そそっ、そうだ! 2人きりで話出来る事なんて滅多になかったんだ。だったら、何かもっと話題を……湯真に関する話題…………あっ! あれだ!
「ふふっ。そう言えばそろそろ湯真達関東大会だよね?」
「あぁ、そうだな」
「私達も応援行くからさ? 頑張ってよぉ?」
「けっ、怪我しない程度にな?」
そうだ。もうそろそろ関東大会。準決勝から私達チア部も応援に行くんだ。でも確かに怪我はダメだよね? けど……
「もう……応援の予定は準決勝からだからね? 負けちゃダメよっ」
絶対に行きたいから、負けちゃダメ。それにチアの衣装……見せたいんだもん。
「だな。頑張る……よ。あっ、凜桜……ちょっと良いか?」
頑張ってね? っと、どうかしたのかな?
「ん? なになに?」
「えっと、こんな事、今言うのもあれなんだけどさ? ちょっとお願いがあって……」
「えっ!? 湯真が私にお願い? 珍しいっ! どしたの?」
「……えっと……」
お願い? 湯真からのお願い!? ……なになに? 珍しくない? いや、もう……湯真のお願いならなんでも聞いちゃうよ? うんうん!
「あのさ? 遊びに行かないか?」
……っ!! あそ……びに……? 嘘……はっ! 危ない危ない! 勘違いするところだった。4人でって事よね?
「遊びに? いつかな? 恋桜達にも聞いて……」
「いや、2人で……」
「ふっ、2人?」
あれ? 聞き間違いじゃないよね? 2人って言った? 2人? 私と……湯真だよね? だよね? ほっ、ほっ、本当!?
「いやっ、ちょっとな? でもあれだ。もし、関東大会で優勝できたらで良い」
そんなの関係なく、全然OKだよっ! でも、湯真から誘われるなんて……もしかして2人には内緒にしたい事とか? そういう物を買いに行きたいのかな?
「えっと……優勝? もしかして2人には内緒にしたい事情があるとか……?」
なっ、なるほど。その内容が不透明だけど、2人で出掛けられる事実に変わりはないよ! それだけで私は……
「そっ、そんな感じ! でもさ、とにかく優勝したら、ちゃんと俺が活躍して完勝したら。だからその……もしそれを達成できたらで良い。2人で……」
「出掛けないか?」
ズッキューン!!!
ぐはぁぁ! 撃たれたっ! 撃ち抜かれた!
ハートを狙い撃ちされたぁぁ。なっ、なんて破壊力! 物凄い衝撃に体が震えそう。頭が真っ白。ただ、この高揚感は幸せに他ならないぃ!
ヤバいヤバい。なんか呼吸困難になりそう。でも、ちゃんと返事! 返事しないと。そんなのモチロン……
「……うんっ! 良いよ?」
良いに決まってるじゃん!
「えっ? 良いのか?」
「うん! 湯真から行こうって言う位なら、それなりの理由がありそうだし……全然良いよ?」
それ抜きで全然嬉しいし、むしろこっちから土下座してでもお願いしたいよ。実際に恥ずかしくて自分から言える勇気ないけど。
「本当か? ありがとう。じゃあ、圧勝しないと」
「うん! 私も恋桜も、一生懸命応援するね?」
死ぬ物狂いで応援しますっ! なんなら願掛けもしちゃうよ?
「本当か? じゃあ任せた」
頑張って! 湯真!
「ふふっ、頑張ってね? 湯真っ!」
「あぁ」
そんなこんなで、最高の約束を交わした私達。そんな中、校庭に向かう湯真の背中を見続けた私は、過去最高潮の高揚感に包まれていた。
ふふふっ! やったぁ!
保健室へ向かう足取りも、それはそれは軽く……まるで飛んでしまったかの様に、気が付けば扉の前へ立っていた。
やった。やった。めちゃくちゃ嬉しい。はっ! でもこの事は恋桜には言わない様に……
その時だった、扉の先から誰かの話し声が聞こえて来た。
―――やっぱりダメだよ? ひおちゃん? お尻タッチはダメだよ近かったんだよ?―――
―――んー、でも意図してそんな事はしないと思うよ?―――
えっ? この声、恋桜と日織先生? しかもお尻? タッチ? ままっ、まさか……湯真……恋桜のお尻を触ったの?
―――でも腰は明らかに……―――
こっ、腰!? そこもタッチ?
……なんて……なんて……
なんて羨ましいの!? 恋桜!
もうっ! 湯真も湯真だよ! そんなに触りたいなら、私の触ってよぉぉ!
言ってくれたら、どこもかしこも……
好きなだけ触らせるのにぃぃぃ!!
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