第18話 いざ行かん、決戦の場へ

 



 ≪それでは2年生による学年対抗リレーを行います≫


 ついに来てしまった憂鬱な時間。他のところに比べると、


「緑頑張れー」

「力むなよー」


 3年生からは真の応援と言って代物が聞こえてくるだけマシなのか? ……いや? それより……


「緑行けぇ!」

「絶対1位だぞ!?」

「気合いだぁ!」


 なんで逆にクラスメイト達の方から怒号の様な物が聞こえてくるんですかね?


「1年が1位だったんだぞ?」

「続け続けぇ!」


 くっそ。緑組1年が圧倒的差で1位をもぎ取ってしまったおかげで、俺達のハードル上がってんじゃねぇか。あぁ、3年生の皆さん。その優しさは罪だよ。余計に1、2年がやる気になってますよ? もはや同級生からプレッシャー受けてますよ? 


 はぁ……とりあえず、陸上部の2人が差を付けてくれるのを願うだけだな。頼むぞ……緑組2年生!


 ≪それでは位置について、よーい……≫


 パン!


 1走は庄野さん。おぉ、スタート良い! 好位置で3位に付けてる。

 そのまま行って……2走は秋山か。野球部で盗塁が上手いとの噂だから速いはずだけど……良いぞ? 1人抜いて2位か。


 次は木下さん。去年も同じクラスで走ってくれた経験者。ただ前を走るのは確か陸上部の子だった気が……いや? なかなかの走りっぷりで現状維持。

 そして、九頭。行け、ラグビー……って後ろの奴フォームからして陸上部じゃねぇか!? 誰だ? あっ! 去年同じクラスだった佐々木だ。何だよあいつ、なんか去年よりイキイキしてんじゃねぇか。物凄いスピードで……まぁ抜かれても仕方ない。


 5走の佐藤さん……追い越せはしなかったけど、ぴったりついてる。それにしても1位から4位までそんなに差がないなぁ。


 っと、そろそろ俺の出番も近付いてきた。そんな中、男子3人目は梶元! なんとしてでも抜け! 1人でも良いから抜き去れって言いたいけど、おそらくこのまま変わらずかな? まぁ最低限の仕事は果たした。


 まぁ次は恋桜だし……1人は抜くだろ? なんかあいつ昔から足速かったんだよな? てか姉妹揃ってな? なのにずっとチア部で、勿体ないと思うんだけど……まぁ今はそんなの関係ないか。

 とにかく、頼んだっ!


 3位でバトンを貰って……良いぞ! 流石素モード! お姉さんらしさは微塵もない!


「月城さん速いなぁ」

「あの性格で足が速いって……なんかギャップがあって良いよなぁ」

「見ろよ! 2位の奴も速いけど、それにすら追い付いて……このままごぼう抜きか?」


 ……なんだよ。全部良い方向に行くよな? あぁズルいズル……って、あっ!


 それは一瞬だった。軽快に飛ばし、2位の子と団子状態で1位を抜き去ろうとした時、多分誰かと足がぶつかった。一番端に居た恋桜はバランスを崩し、外へと放り出される形になってしまった。

 万事休す……ところが、


「嘘だろ?」


 恋桜はまるで受け身を取るかの様に体を丸めると、くるっと横に一回転。体勢を立て直し、即座に戦線へ復帰を果たした。


 その姿はまさに忍者を彷彿とさせるほどの軽やかさ。周りの奴らが、


「「すげぇ」」


 なんて言うのも、分かる気がする。

 俺だって驚いたわ。運動神経も良いけど、ここまでとは……しかも? それから? 4位の奴抜かして3位まで戻った? ……有り得ないだろ? 


 なんて半ば唖然としていると、目の前から仕事終わりの目立ちたがり屋がやって来た。白い体操着に付いた土を見る限り、バランスを崩したのは見間違いではなさそうだ。


「お疲れ。体大丈夫か?」

「ごめーん! 足引っかかってバランス崩しちゃったよ」


「いやいや、それにしては見事なリカバリーだぞ?」

「ははっ、なんか体が勝手に反応しちゃってさ?」


「すげぇよ」

「でも結局順位上げれなかったよ。湯真キツくさせちゃった」


 まぁそれはそうだけど、仕方ない。


「まっ、気にすんな。槻木さんと伊藤が何とかするだろ? そう来れば……」



「うおっ! なんだあの子! 早くも6位から2人抜いた!」

「あれは……7組の月城さんじゃん」

「姉妹揃ってやべぇのか!?」



「お前の姉がこれ以上驚異的な追い上げしなければな?」

「ははっ……重ね重ねすいませんねぇ」


 ったく、マジで姉妹揃ってどうなってんだよ。マジで何かしらのスポーツやった方が良いって。


「でも、頼んだよ? 湯真」

「怪我しない程度にな?」


「ふふっ、後ろで見てるね?」

「はいよ」


 っと、じゃあ俺もボチボチ準備運動でも……ん? 

 横を通り過ぎる恋桜。ただ、その姿に、いつもと違う違和感を感じた。確証はない。ただの勘なのかもしれないし、見間違いなのかもしれない。それでも、その後ろ姿は……


 なんか重心が偏ってる?


 そんな気がしてならなかった。

 あいつ平気そうな顔してたけど、もしかしてどっか怪我してるんじゃないか? ……終わったら問いただしてみるか。

 とりあえず、今は……


 ≪ここで1位は緑組に! そして女子の最後の選手へバトンが……渡ったぁ!≫


 目の前の事に集中。


 さすが伊藤。ちゃんと順位上げてくれた。そして槻木さんは2位との差を広げてくれてる。

 それでも油断したら確実に抜かれる。特に……同じアンカーの海真。凜桜の活躍から順位を上げてる水色組は脅威だ。


 落ち着け……落ち着け……そうだ思い出せ! 去年、アンカーを任された時に貰った言葉。恋桜に言われて、家に足を運んでメモまで取った体験談。


 この鳳瞭学園の卒業生で、このリレーのアンカー経験者。そして現在有名スポーツトレーナーとして名を轟かせている……凜桜パパこと月城蓮さんのありがたいアドバイスをっ!


「雨宮君! お願い!」

「……任せろ!」


 よしっ、バトンパスは完璧。

 あとは焦らず……体を燃やして心はクールに! 


 確か凜桜パパが言うには、全速力で走れるのは40メートル位が限界。つまり最初から飛ばせば絶対にバテる。つまりペース配分がめちゃくちゃ大事! 


 とりあえず最初の50で8割…………


 そこから7割に落として…………


 残り100から9割! 


 くっ! やっぱ足に来る! 200メートルはやっぱり長い。でも負けるなよ? 去年の自分に負けるなんて最低最悪だからな?


 残り50で全速力だぞ? 行くぞ? 行くぞ? ラストだぞ!?


 気合を入れて……


 突き進め!



 パンパン!



 ≪ゴール! さて白熱しました、2年生による学年対抗リレー! 優勝は……≫




 ≪緑組です!≫



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