第19話 女心は勉強不足
「1位だー」
「これで総合優勝に近付いたな?」
テントに響く歓喜と安堵の声。
周りを見渡せば、さっきまで殺気立っていた連中が嘘の様な笑顔を浮かべている。
その落差に何とも言えないものを感じつつも……
「お疲れー」
「ナイスナイス」
直に浴びる労いの言葉は……やっぱり心地が良い。
まぁ、それと同時に1位になれなかったらどんな事になっていたんだろうか? なんて一瞬ゾワッとしたけど。
「伊藤ナイスー!」
「皆速かったって!」
「槻木さんナイスー」
「バトンミスんなくて良かったぁ」
もはやどうでも良いか? 体育祭最大の役目を無事務め上げたんだし……しばらくは気を抜かせてもらおう。
そんなこんなで見事1位を勝ち取った我が2年1組。クラス内の雰囲気も、いつも以上にパリピ具合が急上昇。そして、
「うぉぉ! 3年も勝ったぞ!?」
「総大将と副将、揃いも揃ってはえぇ」
俺達に続く様に、緑組の3年2組が1位でゴール。結果、綱引き・玉入れ・リレーの3種の全てで緑組が9勝という、かつてない戦績を収めた。
こうなると、もはや祭り騒ぎ。
それと同時に、期待は体育祭の花形でありクライマックスの種目でもある色別対抗リレーに注がれた。
≪それでは最後の種目です。色別対抗リレーを行います≫
「やべぇ! 行こうぜ!」
「行こう行こう」
うおっ、一斉にテントから出て行ったぞ?
それもそのはず、最後の色別対抗リレーは特別にトラックギリギリまで近付く事が許される。圧倒的な応援量に、それを間近で感じられる走者達。
その光景はまさに……鳳瞭学園体育祭のクライマックスとして相応しい舞台。
そんな中俺は……
やべぇ、乗り遅れたんだけど?
見事その流れに置いて行かれていた。
一瞬か? 一瞬だぞ? ちょっと水分補給なんてしてる間に、皆居なくなりやがった。もはやテントに居るのは……あっ、恋桜と
「皆速いねぇ……私達も行こうか?」
「私、ちょっとお水飲んでから行こうかな? マコちゃん先行ってて?」
「分かったー」
水分補給? なんだなんだ? 運悪く取り残された俺と、余裕綽々で水分補給をする恋桜ってか? 正直に言ったら絶対イジられるから、黙ってよう。
「はぁー、ふぅー」
ん? 深呼吸? 何の為に……
「……っつ!」
椅子に手突っ張って……って、まさか?
その瞬間、脳裏に過ったのはあのリレーでの転倒。そして、後ろ姿を目にした時に抱いた些細な違和感。あの重心の傾きの理由が……分かった気がした。
終わった時は、普通の顔してたけどあいつやっぱ……どこか痛めてんじゃねぇか? ったく、どうせこの良い雰囲気を、自分が怪我したって事で少しでも冷ましたくなかったんだろな。それしか浮かばないね?
どれどれ……
「ほれ、恋桜」
「えっ!? 湯真? なっ、なんで?」
「良いから手握れ。どっか痛めてんだろ?」
「そんな事……」
はいはい。じゃあ手握って引っ張り上げるぞ?
「よっ」
「いったぁ!」
「悪い。でも、やっぱ痛めてんじゃねぇか」
「ははっ……バレたか……」
「どこ?」
「右足首。たぶん捻ったかな?」
右足首? 一回転して体勢整える時に踏ん張った瞬間か? そりゃあんだけピタッと止まったら受ける衝撃も半端なかっただろうな? それを隠すか……昔から根性あるんだよな? こいつは。
「とりあえず、保健室行くぞ?」
「良いって……暫く黙っとけば良くなるよ」
「何言ってんだ? 捻挫だとしたらちゃんと処置しないと癖になるんだよ。部活に影響するだろ?」
「いやぁ……そうだけど……」
そうだけどって……この知識はお前のパパさんから聞いたんだぞ? 娘のお前が知らないはずないだろ。自覚を持ちなさいよ?
「だったら行くぞ?」
「はーい」
それに怪我してるの見過ごしてたとなっちゃ、個人的に煮え切らないんでな? それに凜桜にダメな男認定されそうなんだよ。その為にも……連れて行ってやるよ。
「んで? 歩けるのは歩けるのか?」
「どうかな……っ!」
「踏み込むとやっぱ痛むか……じゃあ、肩貸してやる」
「えっ……えぇ!?」
「何してんだよ、あぁ届かないのか? よっと、ほれ? これぐらい屈めば楽だろ?」
「って、違ぁう! 肩って……肩って……」
ん? なんだこいつ? 肩貸すだけだと不服だってのか? ……はっ!
「じゃああれか? おんぶか?」
「おおっ、おんぶ!? 何言ってんの! 目立つって!」
いや、でもそっちの方が楽じゃね? 一体何を求めてるのか理解出来ねぇぞ? おかしいな? 恋桜の考えてる事なら大体分かるんだけど……うーん……考えろ?
足が痛い。保健室に行く。肩は不服……おんぶは目立つ。自分が目立つのは嫌だ=……逆に俺を目立たせたい? 辱めたいっ!?
……そういう事か。はぁ……なるほどな? 気にくわないけど、これも間接的に俺が凜桜に嫌われない為の試練だ。
にしても、逆に俺が目立って恥ずかしくなるってどんな……あっ! これか? これなのか?
……仕方ないかっ!
「分かった分かった。何も言うな……あれだろ? お姫様抱っこだろ?」
「はっ、はいぃぃ!?」
「やった事ねぇけど、仕方ない。ほれ」
「ちょちょちょっと! 何言ってんの! いつぞやの言葉そのままお返しするよっ!」
えぇ? 違うのか? なんだなんだ? てか、ここまで分からないなんて……むしろお前本当に恋桜か?
「ん? じゃあ一体……」
「もう! 分かったから、肩貸して?」
「肩? でもさっき……」
「いいからっ! 貸してちょうだい? いや、貸してください湯真さん!」
「……変な奴だな?」
「うっ、うるさい」
結局肩って……最初焦ってたのは何だったんだよ?
全くもって理解不能だな?
……って、恋桜の気持ちが理解出来なくて、凜桜の気持ちを理解なんて出来る訳なくないか? そう考えると? 俺の力不足!?
なるほど……なるほどな……分かった。
女の子の気持ちを完全に理解するには、
まだまだ勉強不足って事かぁ……
「よっと」
「っ!! どこ触ってんのよぉ!」
「いっ、いってぇ!」
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