第17話 やる気スイッチON

 



 ここ、名門鳳瞭学園の生徒会長。

 その肩書だけを見ると、冷酷冷淡。もしくは表は優しく、裏ではトンデモナイ素顔……なんて姿を想像しがちかも知れない。


 だが安心して欲しい。ここに居る生徒会長はこの見た目通りで間違いない。隣にいるのが完璧美少年なら、彼女は完璧美少女といったところだろう。


 何も勝手なイメージで決めつけている訳じゃない。その証拠に……


「あっ、さっちゃん! 聖明さんも!」


 俺だけじゃなく、人を見る目だけはある恋桜がここまで親しいのだから、ほぼほぼそうだと思う。

 てか、後輩でさっちゃんなんて呼んでるのお前と凜桜位だけどな。現3年でも数人しか居ないぞ?


「体調? まぁ可もなく不可もなくってところかな?」


 なんて言いながら、俺も呼び捨てで呼んでいるのはご愛敬。これにもちゃんとした理由はある。

 このブロンド完璧美少女こと桐生院采彩との付き合いは、凜恋姉妹との次に長いんだ。

 元々、恋桜達のご両親と采彩のご両親が知り合いで、小さい頃から交流があった。そこに俺達も混ざる様になり……まぁ結局のところ小さい頃から知っている仲って訳。

 勿論一緒に遊ぶ事が多かったけど、家が離れてるから一緒に居た時間となると凜恋姉妹に軍配が上がる。


 しかし1つ年上とは言え……その容姿・性格は完璧と言わざるを得ない。まずやっぱりそのブロンドヘア。お婆ちゃんが外国の方で、お母さんも同じ髪色。それを引き継いだとは言え……まず目立つ。

 それでいて、恋桜達よりも身長は高くスラっとした体形。モデルも何度か引き受けた事があるらしい。


 極めつけはその性格。欠点が見当たらない気がする。

 簡単に言うと、凜桜と恋桜(猫かぶりモード)を足して2で掛けた感じ。しっかりしていて、何でも出来る。それでいて親しみやすい雰囲気だから、先輩・同級生・後輩。誰からも慕われる。まさに完璧美少女。


 俺達から見ると、その余りにも飛び抜けた姿のおかげで……もはや親戚の優しいお姉ちゃんってイメージがこびり付いて離れないんだけどね?


 まぁ、そんなこんなで今年見事同じチームになった俺達2年1組と、采彩達3年2組。

 このくじ結果が、俺達に更なる追い風をもたらした。何でかは分かるだろ?


 この2人は3年2組の学級委員長と副委員長でもある。つまり采彩は緑組のトップ。

 普通なら、そのトップの威厳の為に下級生たちは馬車馬の様に必死になる。そうしないと何されるか分からないからね?

 しかし、この2人は違う。てか、1度だけ各色同士で1~3年が集まる時間があるんだけど……そこでの一言はこうだった。


『えーと、とりあえず皆楽しもうっ! 笑って楽しんで良い思い出にしよっ?』


 この時点で、ザワザワしだしたよね? 


『あっ、後は怪我だけはしないようにね? じゃあ……楽しむの第一でがんばろ―!』


 このとどめの一言で男子はイチコロ、女子は陶酔。

 結果として、1、2年のやる気スイッチが押される事となった。


 おかげさまで、


 ≪第1回戦は緑組の勝ちです≫


「あっ、れっちゃん達のクラス勝ったよ!?」

「しかも開始5秒で……流石だなぁ」


「まぁ当然」

「優勝が目的ですもの?」


 俺と恋桜は楽させてもらってますけどね?


「本当に頼りになるねぇ、2人共っ!」

「はははっ」

「ふふふっ」



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 なんて半ば冗談気味に言ってたのに……


 ≪……という事で2年生による綱引きは男女共に緑組が1位です!≫


 マジで1位になりやがったぞ? しかも男女共に!


「おい恋桜?」

「なんだい湯真?」


「こいつは……」

「うん。かなりの想像以上だよ」


 体育祭における点数配分は、短距離走といった個人戦よりも団体戦の方がその差が激しい。よって、玉入れや綱引きといった競技でいかに1位を獲得できるかが、総合優勝の肝になる。

 そして、今2年の綱引きを終えた時点で……


 1位緑組(3年2組、2年1組、1年3組)

 2位水色(3年1組、2年7組、1年5組)

 3位赤組(3年4組、2年6組、1年4組)

 4位橙組(3年6組、2年3組、1年6組)

 5位黄組(3年3組、2年2組、1年1組)

 6位青組(3年5組、2年4組、1年7組)

 7位紫組(3年7組、2年5組、1年2組)


 なんと1位。しかも何が恐ろしいって、玉入れから2年の綱引きまで……全ての団体種目の1位を全て緑組が取っているという事実。


 どこのチームでも恐怖と威圧でやる気を漲らせているだろう。てか、ほぼほぼと言っても良い。そんな中、俺達緑組は明らかに違う。


 怪我なく頑張ろう。笑みを浮かべながらそう口にした、緑組総大将の采彩。

 何かあったら、遠慮なく言ってね? 爽やかな風を巻き起こす、緑組副将の聖明。


 2人の口からは優勝なんて1度も出てない。なのに……いや? だからこそなのかもしれない。

 逆に優勝させようぜって雰囲気が自然と蔓延した。


「こりゃリレーも手抜けないな?」

「だねぇ……楽になったと思いきや、結果的に自分達にプレッシャー掛かっちゃった」


「まぁ、ちゃんと走るけどさ?」

「あっ、そう言えばアンカー湯真だからね?」


 ……はぁ!? 


「おいおい、初耳だぞ?」

「だって陸上部はアンカー禁止だって知ってるでしょ?」


「そりゃ知ってるけど、メンバー表ではアンカー九頭だったろ?」

「あぁ、あれって単なるメンバー表だよ? 提出する時に順番を明記するんだし」


 なん……だと……? そんなの知らんぞ? 大体去年……はっ! 去年もメンバー表提出したのお前だったな? あの時はメンバー決めた手前、申し訳ないから一番下に名前書いてアンカーやったけど……あの順番で決定じゃないのか!? て事は……


「お前……図ったな? 去年も意図して俺をアンカーにしやがったな?」

「そんな事ないよー! 実際記録的には湯真2番なんだし」


「馬鹿っ、そりゃ50メートルだからだろ? 大体アンカーは200メートルだって知ってんだろ」

「まぁまぁ、湯真なら大丈夫でしょ?」


 なっ、どこをどう考えて大丈夫なんだよ! くそっ、上手い具合にやられたな? ……ん? 待てよ? 

 という事は、お前はちゃんと女子のトリを務めるんだろうな?


「お前……じゃあ学級委員長としてお前は女子の最後なんだろ?」

「えっ? 違うよ? だって記録だと、きのちゃんが2位だもん。私は4番目」


 木下さんを盾にしやがったなっ! きっ、きたねぇ!


「……汚い奴だ」

「ちゃんと記録に基づいた順番だもの」


 なんて口にしながら、腹の立つ様にほくそ笑む恋桜。まさか身内に敵がいるとは思いもしなかった。


「くっ、とにかく……ちゃんとやれよ? 1位でバトン渡さなきゃ無理だからなっ!」

「分かってるってぇ」


 かぁぁぁ! その顔腹立つ! 

 でもまぁ、この状況でアンカーとなると下手な事は出来ない。采彩達はともかく、その他同じクラス+1年達からの視線が怖くなる。


 はぁ……


 走りたくねぇぇ!



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る