第16話 幕開けはブロンドヘア

 



 できれば雨でも降ってくれたら……なんて思っていたものの、生憎の晴天に恵まれた今日この頃。


「こらぁ! 1年! 真面目にやれ」

「全力を尽くせ!」


 あれ? デジャブ? なんて思う位に、去年と全く同じ光景がそこには広がっていた。


「赤組行けぇ!」

「負けるなぁ」

「根性見せろ青!」

「ビリになったらどうなるか分かってますね?」


 うお……合戦の最中にでも居るんだろうか? 物凄い応援、怒号、脅迫。


「2年! 声出てねぇぞ!?」

「もっと応援しろぉ!」


 それに、今年は1年より2年への風当たりが強いのは気のせいだろうか? 自分達のクラスに向けられてないとはいえ……やっぱりこの雰囲気には慣れる気がしない。


 でもまぁとりあえず……


 ≪続きまして、2年生綱引きを行います≫


「綱引きー頑張れー」

「ちょっと湯真? 気持ちこもってないんじゃない?」


 人が精一杯のエールを送っているというのに、横に居る猫かぶり女は酷いもんだ。


「俺の渾身の応援が響かないとは……お主もしや人ではないな?」

「誰が猫かぶりよっ!」


「そこまで言ってねぇよ!」

「心の声がダダ漏れなのよっ」


 我が2年1組のテントに響き渡るいつも通りの会話。クラスごとにテントが分かれているとはいえ、隣には違うクラスの人達が居る中で、そんな姿を見せても良いのか? そんな疑問はあるかもしれない。


 だが、安心してくれ。今から行われる種目は綱引き。基本的に全員参加だが、控えの意味も込めて2名だけはメンバーから外れている。

 俺と恋桜はその2人。つまり、このテントには俺達しか居ない。しかも両隣に居た他クラスの控え達はなにやら準備があるとかで慌ただしく何処かに行った。つまりは……よほど大きな声を出さない限り大丈夫なのだ。


「ちょっと? 心の声だけじゃなくて、ボソボソ小声も聞こえてるよ?」

「気のせいだ。気にするな」


「まぁそういう事にしとくよ。それにしても、色分けされる前にリレーとかのメンバー決めといて良かったね?」

「まぁな? 俺達も色々学んだからな?」


 本来なら、各学年の委員長・副委員長が集まる生徒会が体育祭前に行われる。そこで正式に色分けが行われ、どの色になるのか決まる訳だが……俺達はその色が決まる前に既にリレーメンバーらを決めた。

 もちろんそれには理由がある。


 この体育祭は3年生からの圧が相当だ。しかも部活の先輩から受けるプレッシャーは半端ない。

 もし同じ色に、同じ部活の先輩が居たらどうなるか。そう……出場辞退。


 不甲斐ない成績で、何を言われるか……その恐怖のおかげで、去年はリレーに出たくないって人達で溢れ返った。

 結局俺達が出るって事で何とか気持ちを突き動かしたけど、本番でもめちゃくちゃ固さが見られたな? 実力の半分も出せない。なんとも最悪なものだった。


 だからこそ、今回は先手必勝。50メートル走の記録を武器に早々に決めた訳だ。


「あんな殺伐とした雰囲気だけは、もう勘弁だよねぇ」

「だな?」


 まっ、上手くいって今のところは満足だけどな? ……ん? あっ、そう言えば……


「でもな? 俺達まで出るのには疑問が残るけどな?」

「んー?」


「準備も万端だったんだし、状況も去年とは違うんだからさ? 学級委員長と副だからって俺達は良かったんじゃね?」

「いやいや、何言ってんの?」


「何って……」

「帰ったらまとめたリスト見直しなよ? 男子は伊藤の次に速いの湯真だよ? ……てか分かった。さりげなく自慢か? そうだろ? 嫌だねぇ」


 ん? 伊藤の次俺? ……まてまて? ちゃんとリストは……はっ! どうせ出なくても良いだろって思って、最初から……俺と恋桜除外してたっ! 


「エッ? ソレハホントウデスカ?」

「芝居下手かよ! 本当だって、私もなぜか3番目だったし……」


「いや、おまえは速いの知ってるけど……って3番目? 陸上やった方がいんじゃね?」

「自分が一番びっくりしてんのっ!」


 マジか? てか俺2番って……あぁそうか? 50メートルという超短距離だからか? くっ! もし来年もこの立場になったら念入りに注意せねばなるまいな。

 って言っても……正直去年程のプレッシャーはないな? メンバー決めもそうだけど、思いのほかリーダーである3年生が当たりと言えば当たりな気がする。


「マジか? でもまぁ、それはともかく肝心な3年のくじ運が良かったんじゃないか?」

「それは有り得る。なんて言うか……大分楽だよね? それに、報告した時の皆の表情は忘れられないよ?」


「確かに、皆ホッとしてたもんな?」

「うんうん、だって……」



「あっ、2人共控えなの?」



 その時だった、何気ない会話の中に流れ込む……イケメン特融の爽やかボイス。

 それはもはや聞き覚えがあると言っても過言じゃない。


 とはいえ、いきなりの事に反射的に体は動き出す。

 俺と恋桜はまるで鏡のように同じタイミングで後ろを振り向いた。すると……そこには……


「奇遇だね?」


 悠然と立ち尽くす2人の姿があった。

 その1人は、早速イケメンボイスをお見舞いする完璧美少年。

 そしてもう1人は……顔に視線を向けた途端、一瞬でピントが合う程の際立った存在。


 さらさらのブロンドロングヘアーに、パッチリ二重に長いまつげ。スラッとしたモデル体型と、口元のホクロがその艶やかさを醸し出すとともに、


「れっちゃん、湯真ー! 体調はどうかな?」


 時折見せる無邪気な笑顔は破壊力抜群。


 その名は……桐生院きりゅういん采彩さあや

 我らと同じ緑組に属する、3年2組の学級委員長で、更に鳳瞭学園新聞部部長。そして、


 現生徒会……



 会長様っ!



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