第15話 嵐の前の騒がしさ




「じゃあ次に学年対抗リレーのメンバー決めるね?」


 ザワザワザワ


「おい、お前やれよ」

「嫌だって!」

「陸上部の奴は確定だろ?」


「絶対嫌だよぉ」

「私も私も」

「無理ぃ」


 ザワザワザワザワ


 ホームルームの最中に発せられた恋桜の言葉に、その騒がしさが増すとある日の午後。

 その騒々しさは、いつもの奴らを軽く超えていた。


 まぁ、こうなるのは当たり前。むしろ想像通りとでも言おう。

 その種目は、特に運動系の部活に所属してる奴なら誰だってそんな反応を見せるに決まってる。


 鳳瞭学園体育祭。

 1~3年の7組。全21組がくじ引きで決まった、赤・橙・黄・緑・水色・青・紫の7色に分かれて戦う事から、別名レインボーウォーと名のついた伝統的行事。毎年その盛り上がりはすさまじい。

 同学年の争いっていうのもあるけど、その凄まじさの原因は……圧倒的に3年生。是が非でも優勝を目指す意地と意地とのぶつかり合いは、正直巻き込まないでくれと土下座してお願いしたい位だ。


 あぁ……蘇る去年の光景。


『こらぁ! 1年! 真面目にやれ』

『全力を尽くせ!』


 おぉ、怖っ……1年から見たら3年なんて結構な目上でかなり恐縮しちゃう存在。しかも同じ色のチームなのに激励(脅迫)を受けたら死に物狂いにもなるわ。


 しかも部活動に入っている人なら、それプラス部活の先輩からの圧力も加わるから更に半端ないプレッシャーだと思う。幸いバスケ部は結構そんなに言われなかったけどさ? 他の部は結構ヤバかったよ。


 つまり、学年対抗リレーなんて配点が多い種目に参加したとなると、必然的に先輩達からの目も厳しくなる。

 それがこのザワザワの原因だ。


「もう……困ったわねぇ? 2人共? どうしましょ?」

「こうなる予感はしてましたけど……相当ですねぇ?」


 確かに、こうなる事は予想が付いた。

 去年は去年でだーれも何も言わなかったもんな。


「まぁ、予想通りって事で。とりあえずあれ見せたらいんじゃないか? 恋桜?」

「この調子じゃ立候補する人も居なそうだし……そだね」

「あれって?」


「まぁ、それは聞いてからのお楽しみって事で……はいはい、ちょっといいかな皆ー?」


 落ち着く事を知らない教室。そんな中、恋桜の声が響き渡る。すると、察したかのように静まり返るパリピ達。


 絶対俺が声出してもこうはならないよな?

 なんて思いつつも、奴らの視線は教壇に立つ恋桜。一瞬で決まるかどうか、それは委員長に委ねられた。


「えっとね? 皆の気持ちはよく分かるよ? でもクラスとしては出ないといけないし、出ない方が色々マズいと思うの……」


 ウンウン


 おぉ、それぞれ頷いてるぞ? 上手いな?


「だからね? 純粋に足が速い人でどうかな? っていうのが私の……私と副委員長の意見なんだ?」


「足の速い?」

「まぁそれなら……」

「でも、正確に誰が速いかは分からなくね?」


 ふふっ、その通りだ。良い疑問を持ってくれたよ。ただ、俺達は紛いなりにも去年この地獄の様な時間を経験した委員長と副委員長。あらかじめ準備はしていたのさっ!


「そこでなんだけど、私と湯真で……事前に一覧を作りました。参考にしたのは、4月にやった体力測定の50メートル走。その結果を葵先生から借りて、上位を割り出しました」


 ザワザワザワザワ


「あっ、それで記録見たいって言ってたのね?」

「はい。それを俺と恋桜でまとめたんです」


 そう、これが俺達の秘策。

 クラス皆が納得出来る答えは、純粋に速い人が走る事。だが、それを自己申告に任せると誤魔化す人も居るだろう。だから確固たる記録を元に割り出す。まぁ体力測定に関しては各々が部活のトップレベルって事もあって、一種の勝負って認識。ガチのガチでやってたから信憑性は高い。


「それじゃあ、上位の人達を発表しますね?」


 こうして発表された50メートル走上位陣。

 男子は秋山、梶元、九頭、伊藤。

 女子は庄野しょうのさん、木下きのしたさん、佐藤さん、槻木つきのきさん。

 特に陸上部の伊藤と槻木さんは専門が短距離って事もあって期待十分だ。


「えぇー」

「無理だ」

「あの日はたまたま調子が良かっただけ……」


 って、来たぞ? 選ばれし者による最後のあがき。どうするんだ?

 何気なく恋桜の方を見ると、何とも自信に溢れた笑みを浮かべている。そして俺に頷くと、皆というか主に男子の方を見て……


「ねぇ? 足が速いって凄く素敵だと思うんだ? だから……皆の格好良い所、私達に見せてくれないかな?」


「「「「……うぉぉ! 頑張ります!」」」」


 すげぇ……声のトーンがいつにもまして猫かぶり……そして見事に男達のやる気を引き出しやがった。

 恐るべし月城恋桜。


「いやだなぁ」

「緊張しちゃうよぉ?」

「有り得ないんだけどぉ」


 こっちもかよ女性陣!? どうする恋桜? お色気は通じ……はっ!

 何気なく恋桜の方を見ると、ガッツリこちらを見つめている。そして不敵な笑みを浮かべたかと思うと、何度も何度も小刻みに頷く。


 まさか……俺にやれと? お前と同じ事をやれと?

 そんな俺の心中を察したのか、一際大きく頷く恋桜。

 マジか? ってか、俺にそんな力はないぞ? ……って言っても許すわけないか。ダメだったらフォローしろよ? 絶対だぞ? ……ふぅ。


「なぁ、学年……ひいては総合優勝する為にはリレーは重要。皆で気持ち良く祝賀会なんかも良いよね? だから……力を貸してくれないか?」


 やばい……自分で言っといてなんだけど顔が熱くなってきた。ってかどうだ!?


「「「「……私達に……任せてっ!!」」」」


 ……はぁ良かった。とりあえず生き恥は晒さずにすんだよ。とりあえず問題解決……


「あれ? 月城さん? リレーのメンバーってじゃなかった?」


 ん? 10……確かに先生の言う通りだ。そう言えばメンバーまとめて上から選ぶって事にしてたけど、誰だっけ? あと1人ずつ……


「あっ、そうでした。あと2人は……私と湯真が走ります」


 ……はぁ!?


「「おぉぉ!」」


「ん? ちょっと待て恋桜! どういう……」

「だって、皆が走ってくれるんだから……学級委員長と副委員長が走らないとダメじゃん」


 いやいや、確かに意味は分かるけど……


「いやでも……」

「頑張ろう! 湯真!」


 …………はぁ、最悪だよ。



 この流れは……去年と変わらないのね?



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