第10話 父、雨宮海
B2所属、青森ワンダーズ。
青森県
突如移籍すると聞かされ、自分達の住む家の次に驚いたのが……この移籍先だった。
それこそ、昨シーズンまではB1所属、ひいてはリーグ6連覇を果たしたチームに所属していた父さん。
スタメンでも出ていたのに、なんでいきなり? しかも青森? なんて思ったっけ。
まぁそれでも、歳も歳だし最後に地元の青森のチームに貢献したいのかな? なんて考えたら、辻褄が合うし……あっと言う間に納得も出来てた。
けど、どうもそんな簡単な話ではなかったらしい。
父さんが俺達に移籍を口にした数日後、ある日本人NBAプレーヤーが会見を行った。
その人の名前は、
そう言えばBリーグ復帰するとかって言ってたっけ? あれ? チームの宣言もしてたような……なんて考えてたら、こう口にしたよね?
『来シーズン、日本のBリーグに復帰します。所属チームも、以前インタビューで答えていた通り……青森ワンダーズです』
マジか!?
流石に驚いたよね? てっきりB1のチームだとばかり思ってたし、まさか父さんと同じ青森ワンダーズ。こりゃ面白くなりそうだ……そう思ってた。けど……それで終わりじゃなかったんだ。
そう、今度は……コーチ勉強中だった聖さんの電撃会見。
それもさ? それもさ? その所属チームも青森ワンダーズだったんだぞ?
言うまでもない。これで、青森ワンダーズの名前は一気に世に広まった。
もうさ、ここまで来たら偶然なんかじゃない。
おそらく3人で示し合わせたんだろうって思った。黎さんもだけど、内々で聖さんから連絡貰って、そして運命かの様なタイミングで自分も契約更改の時期だった。だからこそ決めたんだろ?
だってさ、3人共……青森にあるバスケの強豪、黒前高校で一緒にプレーしてたチームメイトだもんな?
地元のチームを昇格させて、B1のリーグ優勝とチャンピオンシップも併せて2冠。
それを……達成させる為にね?
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「きゃー! また下平決めたぁ」
「すげぇ! これでもう20点目だぞ?」
「どう見ても現役と遜色ないじゃん! コーチやってたって嘘だろ?」
「バカ、ちゃんと練習もしてたに決まってるだろ?」
「とにかく……やべぇ!」
点数を決める度に沸き上がる歓声。この熱気は、ある意味必然的だったのかもしれない。プレーもさることながら、レジェンドの人気度が分かる。
そして何より、
「わっ! 海真パパ、パスカットしたよっ!」
「しかもドリブル速い。パパと同年代って思えないなぁ」
見ただけで分かる、父さんのノビノビとしたプレーは……同じプレーヤーとして血を騒がせる。
……ったく、何試合中にニヤニヤしてんだよ。でもまぁ、随分キレキレじゃねぇか。
「さっすがNBAプレーヤーだねっ! 湯真」
「そう……だな」
NBAプレーヤー。父さんの事を誰かにそう言われても、いまいち実感は湧かなかった。
話によると、1シーズンだけだったけど本当にNBAのコートでプレーしていたらしい。まぁ残念ながら生後間もなかった俺達に、当時の記憶はない。
物心ついた時に、当時の映像なんかを見たけどさ? 本当に父さんなのか? そんな疑いを晴らせなかったっけ。
だってさ、父さんは父さん。
家に居ても普通の父さん。俺達の面倒見てくれて、遊んでくれて……世間一般的に見れば良いお父さんだった。
まぁ、何かと母さんと共謀して唐突に俺達にサプライズかますのが好きだったな? 旅行や、ベランダに簡易キャンプ用品設置したり……それに、暇さえあれば母さんとイチャイチャしてたな?
場所を選んで欲しいとは思ったけど、このご時世仲が良いのは幸せな事なんだろう。
まぁそんな感じで、俺を含めて子ども達の中では父さんにNBAプレーヤーって肩書は存在してない。
でも、プロバスケプレーヤーとしては、その姿を何度も目の当たりにしている。だから、良く知ってるんだ。
家では良き父で、それなりに格好良い。
ただ、一旦コートに入ると……
スパッ!
「来たぁ! 雨宮お得意のクイックスリーだ!」
「待て待て!? これで何本目だよ?」
「まっ、またパスカット? どんな反射神経してるのぉ?」
「えっ? なんでスリーポイントラインから離れてる場所で止まってるの? もしかして……この距離から狙ってるの? 1mは離れてるよ?」
「これは来るぞっ! 雨宮のもう1つの得意技。スリーポイントラインから、さらに1m下がった所で放たれる……ロングシュート! ディープスリー!」
スパッ!
「来たぁ来たぁ! これで5本目!」
「すげぇ! 最強じゃねえか? 下平に雨宮、これに晴下が加わる。もうB2のチームじゃねぇよ」
もっと格好良いって事をさ!
「海真パパ、やっぱり凄すぎっ!」
そうだな凜桜。しかもあれ……恐ろしい事に両手で打てんだぜ? なんでも昔、右肘に結構な大怪我負って、全く動かせなくなった時、
『どうせ動かせないなら、このリハビリの時間がもったいない!』
とか言って、左手でシュート練習し始めたんだと。結果、見事両利きシューターの出来上がり。
正直利き手じゃないのに、ここまで正確にシュート出来る様になった練習量は想像もつかない。そしてそれをやり遂げた根性も凄いとしか言い様がない。
「2人共、越えなきゃいけない壁は高そうね?」
滅茶苦茶高けぇよ恋桜。俺も海真も、1対1で未だに父さんに勝った事はないんだ。しかもまだ余裕あるっぽいし、正直底が見えない。
それでもさ、
「そんなの分かってるって! ぜってぇ越えて見せるって! なぁ? 湯真?」
「あぁ、当たり前だろ?」
絶対に……越えて見せる。
ふぅ……久しぶりに目の前でプレー見たら、血が滾って来たよ。
必ず追い付くからな? それも現役の内に!
だから、待っててくれよ?
雨宮……海!
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