第8話 やらかし男と完璧美少年




 クラスのコミュ力お化け達も、徐々に落ち着きを取り戻しつつある昼下がり。俺、雨宮湯真はスマホと睨めっこをしていた。

 その理由は決まってる。朝行われた作戦会議の内容を確認し、今後どうするべきか慎重に吟味をしているに他ならない。


 ―――雨宮海真―――

 身長184センチ。

 体重75キロ。

 視力両眼2.0。

 好きな事はスポーツ全般(特にバスケ)。

 好きな食べ物はカレー(辛口)、辛い物全般。

 好きな芸能人は今の所無し(去年同様)

 その他趣味、カラオケ・ゲーム。流行りのJ-POPをよく聞いている。


 うん。これが最新版の海真情報だ。

 身長体重にしても身体測定を終えたばかりだから間違いない。

 更に好きな物等々、何気ない会話や食べている物を見た限り去年……いや? ここ数年は変化が見られない。

 だとすれば、攻め入るポイントも固まって来たか?



 ―――月城凜桜―――

 身長166センチ。

 体重は……流石の恋桜にも聞けない。まぁ恋桜も察しろよ? 的な雰囲気出してるからね? しかしっ!

 スリーサイズ85/59/85! これに関しては何のためらいもなく教えてくれる辺り……その心中は良く分からない。まぁ恐らく優しさだとは思うけどね?

 視力は両目1.5。

 好きな事は体を動かす事、料理。

 好きな食べ物はショートケーキ(スイーツ全般)

 その他趣味、映画鑑賞(アクションやホラー)


 そしてこれが恋桜から聞いた最新の凜桜情報。

 聞いた限り、趣味等々変わった事は見られない。


 こうしてみると、改めて各々の趣味とかは一致してるんだよなぁ。

 食べ物は俺も恋桜も、辛い物から甘い物までなんでもイケる。まぁ強いてどっちかと言われれば、俺の好きな物は甘い物。恋桜は辛い物。

 ゲームも結構4人共好きだからしょっちゅう対戦してる。


 つまり……いくらでも土俵に連れ込む事は出来るはず……なんだよ?

 しかしながら、部活と休みの折り合いがつかず……未だ1対1で出掛けた事はない。まぁ、そもそも面と向かって2人で遊びに行こうなんて言えなかったのが現実なんだけどさ?


 とはいえ、今こういう状況になった以上そんな事悠長に言っている場合じゃない。

 なんとかしなければ。とりあえず恋桜に……なんて考えていた時だった。


 ヴーヴー


 スマホが数回震えたかと思うと、画面に現れたのは新着メッセージの通知。

 そしてその相手が誰なのか、そんな疑問を抱く間もなく続け様に表示されたのは……


 ん? 恋桜?

 まさに連絡をしようとしていた戦友だった。


 丁度良いタイミングだな? 何々……


【湯真!? 大丈夫だからね? ちょっとしか見てないから! ホント少しだから!?】


 正直、パッとこのメッセージを見た時には何の事を言っているのか理解不能だった……だが、


 大丈夫? 少し? 見えて……見えて……って! おいっ!


 読めば読むほど思い出される記憶。湧き出てくる朝の恥ずかしさ。


 ……こっ、こいつめっ! 教室には居ないな? どこだ? まぁ良い。ちゃんと言わないとな!


【何がだよっ! むしろこっちは全くもって綺麗さっぱり忘れてたっての】

【えっ? そうなの? 朝からいつも以上に思い詰めてる顔してたから】


【思い詰めてませんっ! しかもいつも以上ってなんだ?】

【いやいや、湯真って冷静キャラじゃん? でも度を越えたら結構危ない方向に行きそうだし】


 なっ、危ない!? いやいや朝から今後の計画を練ってただけなんですけどね? 

 ……本当にヤバい顔してたのか? なんか心配になって来た……って違う違う!


【ご心配ありがとうございますね! こちとら今後どうするべきか懸命に考えてたんだぞ? なのにわざわざ掘り返しやがって】

【なっ、何よっ。本当に心配してたのに! それに言わせてもらうけど、これでイーブンだからね? チャラだからね? てかむしろ私の方が上半身も見られてマイナスなんですけど?】


 こいつっ! 過去の事を引っ張り出しやがった! 


【その件は清算済みだろ? 大体、どうせなら凜桜のが見たかったっての!】

【はぁ? 私だってどうせなら海真のパンツ見たかったっての!】


 なっ! 恋桜め……言いたい事言いやがって…………って、何をしてるんだ俺は! 折角の協力者と言い合うなんて百害あって一利なしじゃ? ここは冷静に……


【ごめん、流石に言い過ぎた。でも心配してたのはホント】


 うっ! しかも恋桜の方が大人じゃねぇか! 俺も大人にならないとな……じゃなきゃ凜桜に似合う男にはなれない。となれば……


【いや、俺の方こそ悪い。心配してもらって逆切れして】

【大丈夫。じゃあとりあえずこの一件はおしまいね?】


【了解。あっ、恋桜?】

【うん?】


【恋桜はナイスバディだ。うん、並みの男なら悩殺できるレベルだから。これは信じてくれ】


【なっ……ばっ……ばかぁ!】


 えっ? あれ? 俺……もしかして下手こいた?  



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 ガシャン


 誰も居ない体育館に、ボールを嫌うリングの音が響き渡る。

 もはやこれで3本連続。稀に見る絶不調。居残り練習にこんだけ時間が掛かったのはいつぶりだろう。


 部活中も、何となく変な感じはした。

 そしてその理由も何となく分かっている。


 これからどうするべきか……


 あの後、なんとか般若様の怒りを鎮めてもらったものの……その条件がなかなかの難題だった。

 よりによって4人で出掛ける口実を作れとは……どうしたものだろう。一体……


「よっ! どうしたの? そんなシュートミスするなんて湯真らしくないなぁ」


 ん?


 なんて心ここに在らず状態だった俺の耳に、何とも聞き覚えのある声が飛び込んでくる。反射的に振り向くと、そこに立って居たのは……


「なんかあった?」


 甘いマスクを携え、整った顔立ちをしている美少年だった。

 俺は知っている。もちろん知っている。むしろ知らない人の方が少ないだろう。その名は……


「ん? あぁ……聖明」


 下平しもひら聖明せいめい。俺の1つ年上の3年生。

 この高身長でルックスはアイドル並。更にバスケ部のキャプテンを務め、成績優秀ときたもんだ。


「あぁって……なんかあったの?」

「大した事じゃないって」


 普通であればこんな美少年を目の前に、同性としては敵対心の1つでも浮かぶはずだけど……そこがこいつの恐ろしい所だ。悔しい限りだが性格も抜群に良い。それも男子女子問わず。


 まぁ、そんな他の連中の評価なんて耳にするまでもなく……聖明の性格の良さは自分自身が良く理解している。

 大体、かなり仲が良くないと有り得ない関係だろ? 先輩に……しかも同じ部活の、しかもそのキャプテンに向かってタメ口を聞くなんてさ? 


 付き合いでいうと恋桜・凜桜に次ぐ長さ。出会った歳で行けばむしろ聖明の方が早かったりする。

 それに……俺達と聖明は境遇がよく似ているんだ。特に父親に関しては……


 まっ、そんな話は置いておいて、そもそも聖明はなんで体育館にいるんだ? いつもは居残り練習なんてしないくせに。


「大した事ないねぇ……」

「大体、聖明はなんでまだ体育館居るんだ? さっき帰ったろ?」


「何となく気になってさ? 練習中も調子悪かった気がしたし、さっきのシュート見る限り当たりじゃない?」


 くっ、こいつ……見た目は癒し+天然系タイプかと思いきや、こういう所が鋭いんだよな? まぁ、そうでもなきゃキャプテンなんて出来ないのは分かるけど、こいつの場合は飛び抜けてる。


「げっ、そんなダメダメだった?」

「うん。結構。なんか悩みでもあるの?」


 悩みね……ズバリ的中なんだが? だがこんな悩みを安易に口外するのも……はっ! そうだ! 良い事を思い付いた。


「……実はそうなんだ」

「やっぱりね? 俺で良いなら聞くけど?」


「……本当か? じゃあ少し教えてくれないか?」

「何かな?」


「ある友人Aに頼まれてな? 好きな子Bと遊びに行きたい。だが2人きりだと恥ずかしいからって俺も誘われたんだ」

「なるほどいわゆるダブルデートって奴かな?」


「そうだ。俺はとりあえず仲の良い女友達、強いて言えばその友人Aが好きな子Bの……友達にあたるCを誘おうと思っているんだが……」

「おっ、湯真と仲が良い女の子? なんかそういうの興味なさそうだったから意外だよ」


 おいっ! そんな爽やか笑顔でナチュラルに毒を吐いてんじゃないよっ! 良いか聖明? 間違っても俺以外にそんな事言うなよ? 自分の発信効果の重大性を理解しろよ?


「何がだよ。1人や2人位(恋桜と凜桜)居るっての。それでさ? なんて言って誘えば良いのか、キッカケがなくてさ」

「キッカケ? ストレートに遊びに行こうじゃダメなの?」


「そんなの俺が恥ずかしいじゃねぇか」

「そっか……湯真でも恥ずかしい事あるんだ! ちょっと意外」


 ……お前俺を何だと思っていたんだ? まるで血も通ってない、感情もないロボットみたいな言い方だな? 大体、お前みたいなイケメンだったら誰もがOKするだろうけど、こちとらごく平凡な一般人なんでな? 断られた時のダメージは、付き合いとは言え計り知れないんだよ。


「どういう意味だよ! とにかく、その事で悩んでるんだっ! 俺みたいな普通の高校生はな?」

「そかそか。なるほどね……キッカケ……キッカケ…………あっ!」


 おっ? 何か閃いたか?


「ん?」

「ちなみに、その遊びに誘おうって思ってる4人はスポーツ好き?」


 スポーツ? ……基本的にスポーツ全般は好きだな?


「スポーツは……好きだと思う」

「じゃあ、バスケは?」


 バッ、バスケ? まぁバスケも例外じゃないな?


「多分大丈夫だと思う。でもそれがなにか……」

「えっとね? 日程的にすぐなんだけど、今週の日曜日に開催されるBリーグのチケットあるんだ。結構貰っちゃってさ?」


 Bリーグって、プロバスケットボールリーグだよな? しかも貰った……もしかして親父さんパワーか!? ってこの際それはどうでも良い。という事はもしや……


「えっ? もしかしてそれを……」

「うん! あげるよ? だから、試合観戦ついでに買い物でもして、その時友人AくんとBさんを一緒ににしてあげれば良いんじゃないかな? まぁそこは湯真の力量次第だけどね?」


 マジか? なんてタイミングの良い……そして優しさの塊。

 ありがとう聖明。これで俺の身の安全も確保できる。


 やっぱ最高だぜっ! キャプテン!


「なるほどなるほど。聖め……いやっ! 下平キャプテン!」

「えっ! 何々? いきなりその呼び方は何? ちょっと……気持ち悪いよ?」



「その作戦……使わせて頂きますっ!」



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