第7話 ある意味目覚めの良い朝
気が付くと、目の前には大きな公園広がっていた。
確かに立って居るはずなのにどこかフワフワとしている足。自分が自分じゃないかの様な、そんな不思議な感覚に包まれていると、
『行こうぜ!』
『今日も遊びまくるぞぉ』
『れっつごー!』
どこからともなく聞こえて来た子ども達の声。
それに反応するように、
『一番乗りいただきー』
無意識に口から出る言葉と、勝手に動き出す体。
そして時折視界に入る腕とゆっくりと近付いて来る公園を見る限り、必死に走ってるんだろう。
横を見ると、自分の他に3人が一直線に並んでいた。顔はボヤけてて誰かは分からないけど、身長的に子どもなのは分かる。
ただ、絶対に負けたくなかった。
視線を戻し一直線に目指す。言葉の通り公園へ一番乗りが何よりの目的だった。
徐々に近付く公園の入り口。
イケる!
何処からともなくそんな気持ちが湧いてきた瞬間だった。スっと前に出る2人の姿。
ヤバいと思って、必死に腕を振っても足を上げても上手くは動かない。それどころかだんだん重く、どんどん引き離されて行く。
頑張っても追い付けない。触れられない。
その後ろ姿を見続ける内に悔しくて……結局俺は走るのを止めた。
そんなのお構いなしに離れて行く2人。そんな2人をただただ見つめる自分。さっきまで負けたくない気持ちで一杯だったのに、その光景を目にしてもなぜか怒りも悔しさも……感じなかった。
すると、何となく隣に誰かの気配を感じる。どうやらその人も俺と同じ場所で立ち止まっているようだった。
一体誰だ?
その人物の顔を見ようと、俺はゆっくりと視線を……向ける。
はっ!
するとどうだろう、気が付けば目の前には見慣れた天井が広がっていた。そして耳に入る電子音。それが起床を知らせるアラーム音だって理解するのにそこまで時間は掛からない。こういう時、朝が強いってのはありがたい事だ。
だけど、今日に限ればそうとも言えないのかもしれない。覚醒するのが早いからこそ直前まで見ていた
はぁ……久しぶりに見たな? 昔っていうか、まさに今現在の俺達の関係と同じ夢。いや? むしろこんな状況になってしまった分岐点の夢かもしれない。前に行った2人は紛れもなくあの2人。そして俺の隣にいたのは恋…………はっ! やべっ!
その瞬間、ある事を思い出した俺はアラームを止め、素早くベッドから起き上がる。そして窓のカーテンを開けると急ぎ足で部屋を後にした。その理由は1つ。
今日は……作戦会議の日だっ!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
音を立てず、かつ素早く廊下を駆け抜けた俺の前には洗面所の扉。
そういえば約1週間前、一時の良い思い引き換えに断続的な弱みを握られたなぁ……なんてちょっとしたトラウマが蘇ったけど、今日は違う。
そんな確固たる自信を胸に、俺はその扉をノックした。
トントントン
ノック3回。これは俺と恋桜が決めた暗号みたいなものだ。俺が来たと伝える為の。そしてその返事は……
トントントントン
ノック4回。これが入室OKの合図。それを確認すると、俺はゆっくりと扉を開ける。するとそこには、
「おはよう湯真」
パジャマ姿の恋桜が佇んでいた。
……髪がメデューサの様になっているけど、言わないでおこう。うん、なんか俺の直感がそう呟いている。
「よっ、恋桜」
「早速だけど……始めようか?」
「だな」
週明けの月曜日。朝早いこの時間に示し合わせたかの様に
これを提案したのは恋桜。1週間前の出来事から、俺と恋桜の朝起きる時間がほぼ同じなのは分かった。つまりこの時間を利用しない手はないのではないか? その結果がこの作戦会議。
一緒の家に居るのはメリットっでもありデメリットでもある。なるべくあいつらを2人きりにしない様にしつつ、どう動くべきか意思疎通をしなければいけない。
その都度、話していたらその様子を誰かに見られる可能性もあるし、海真か凜桜に見られたらかなり怪しまれる。
だからこそ、あいつらが起きて来ないこの朝の時間。更に月曜日という、1週間でもっともやる気が出ない日が最適だ。
もちろんストメ……あっ、ストロベリーメッセージDXっていうメッセージアプリでのやり取りは、今までもちょいちょいしてたけど、話した方が早い事もある。つまりこの作戦会議は……俺と恋桜にメリットしかないのだ!
さぁ……始めようか? 凜桜に関する情報は根掘り葉掘り聞くし、海真の情報なら知り得る限りを全て話そう。
そしてその情報を元に、互いに気に入られる様な言動と行動を実行。それらを駆使して……振り向かせてやろうぜっ!
「……っと、ごっごめん。そそ、その前にちょっと……ひっ、1つ良い?」
「なんだ? 俺は一刻も早く……」
ん? あれ? 何で恋桜の奴、若干顔背けてんだ? ……もしかして俺の寝癖か? こればっかりは仕方ないだろ? 言っとくけどお前だって相当だぞ?
「いっ、いや。だって……」
「これは仕方ないだろ? いつもの事なんだから」
「だっ、だとしてもダメだって!」
「はぁ? いやいやお前だって……」
その直後だった。俺は恋桜が何かを指差しているのに気が付く。その先は俺……と言うより……下半身方面だった。
はぁ? 寝癖じゃない? じゃあなんだよ?
少し苛立ちを覚えながらも、ゆっくりと自分の下半身へと視線を向けた俺。すると、それと同時に恋桜が小さく呟いた。
「だって、それはやっぱダメだって! いくらなんでもダメだよ!」
「Tシャツにパンツでウロウロするのは!」
説明しよう。俺、雨宮湯真。寝る時の格好は、冬以外基本的に上はTシャツ、下はパンツ一丁。
そして今の季節は春。
つまり……そういう事。
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