第5話 我が学園、我がクラス

 



 あぁなんて良い天気だ。まさに春独特の優しい日差しがなんとも気持ち良い。

 お陰で、朝から色々と蓄積された何かが浄化されて行く気がする。

 あっ、丁度良いタイミングだし……この学校の説明でもしよう。


 俺が通うここは、私立鳳瞭ほうりょう学園。別に自慢する訳じゃないけど、認定こども園から小・中・高・大学までその全てが広大な土地に存在するこの学園は、有名一流企業への就職率全国トップレベル。さらに全国大会優勝経験、出場常連の部活動が数多くあり、まさに文部両道を掲げる名門校。


 ……って言うのが世間的なイメージだ。でもまぁ、実際どうなの? いざ入っているとガッカリなんじゃない? そう勘繰る人も多いかもしれない。


 ずばりその答えは……ノーだ!

 まさにこども園時代からお世話になっている身で、贔屓してるんじゃないかって思われるかもしれないけど、正直設備や先生達。教育面において不満を抱いた事はない。それに各部活動の熱の入り様も半端ない。

 それぞれの部活がマジで全国レベルで恐ろしい。顧問の先生やコーチが揃いも揃って一流だからこそってのもあるかもしれないけど、上を目指す生徒にとってはこれ以上ない環境だと思う。


 つまり、何が言いたいかと言うと、


「おーい、雨宮?」

「外眺めてーどしたんだー?」

「あれ? どうしたのかな?」


 これまでの学校生活は1点を除くとかなり充実した……


「俺が知る限り7度目の副委員長っ!」

「4度のー、学級委員長をもこなした実力者ー」

「ちょっ、ちょっと2人共」


 ……って、なんだよお前ら! 人の癒しタイムを台無しにするんじゃないよ! はいはい、そうだよ! 今年も副委員長やる事になりましたよ!


 折角の大切な時間を邪魔された俺は、ゆっくりとその雑音が聞こえて来た方へと顔を向ける。すると、ニヤニヤしながらこちらを見ていたのは3人の男。


「あっ、こっち見たぞ」

「やっぱ気に入ってるんだよー副委員長がー」

「でも、実際に似合ってるもんね?」


 基本的に小中高一貫校の鳳瞭学園。それでも中等部、高等部では外部からの入学者も多くなる。そんな中、この3人は中等部からの付き合いだ。じゃなきゃこんなねちっこい絡みはしてこないだろう。


 一見チャラい慎見つつみ

 一際デカイ細山ほそやま

 一瞬女かと思う位整った顔のとどろき


 名前と見た目の違いに冗談かと突っ込みたくなるけど……これでもそれぞれの部活界隈では有名らしい。

 そう考えると、何とも複雑な気持ちだ。


「ん? どうした3人揃って」

「いや? 特にはぁ?」

「別にー?」

「ははっ」


 こいつら、絶対からかいに来たな? もうさ? なんとなく雰囲気で分かるんだよな?


「なんだなんだ? からかいに来たのか?」

「何言ってんだよ!」


 何笑ってんだ慎見。


「そんな事する訳ないってー、俺達の仲だろー?」


 鼻がフゴフゴ言ってんだよ細山!


「そんな事は……ないよ?」


 ……お前は信じられるな? 轟。

 轟は良いとして、その他2人は信用できないんだよ。とりあえずそのニヤけた顔を早急に止めろ。


「その笑いは信用できねぇよ」

「なぁに言ってんだよ! 本当お前にピッタリだって、その役職は」

「そうそうそうー」


 はぁ……なんかこの感じも慣れたぞ? てか、お前ら2人を筆頭に、このクラスのメンツを見れば大体想像は付くんだよ。

 大体、なんでいつも俺はパリピな連中と一緒のクラスになるんだ? 特に今年は酷いぞ!?


 野球部の秋山あきやま

 バレー部の鳥取とっとり

 サッカー部の梶元かじもと

 テニス部の照木てるき! 

 バスケ部の新垣にいがき

 ラグビー部の九頭くとう

 ……そしてお前らバドミントン部慎見! 相撲部細山!


 あぁもう濃すぎて最悪だ。これだけで女子を確認する気力も無くなる。女子も結構ヤバいし、男子もヤバい。

 そのくせお前ら誰も委員長とかやらねぇじゃねぇか!


「なんだよ。だったらお前らやればいいだろ? ったく、テンション高くてバカ騒ぎ好きなくせに、なんで誰も手挙げないんだよ」

「そりゃ無理だろ! 俺達騒ぐのは得意だけどまとめられるスキルなんて微塵もないんだわ」

「そうそうー。だからこそー雨宮のピシッとした指示が俺達には必要なのさー」

「それは本当だよ? 雨宮は……」


「全く、少しは静かにしたまえ!」


 うおっ! いきなり大きな声出すなよ。誰だ?

 そんな他愛もない話をしていると、横から聞こえて来た勇ましい声。思わず俺達は聞こえて来た方へ視線を向けた。

 すると、そこに居たのは……


「本当に……雨宮に責任を押し付けるなんてな? もっと感謝したらどうなんだ? それに仮にも部活界隈では有名な奴らの私生活が、こんなにも乱れていたとなると……他の競技者に示しがつかないぞ?」


 パリピだらけのクラスに突き刺さる一本の正義の矢!


「相変わらず堅いなぁ、研野けんの

「全くだー」


 おっと? 確か剣道部の研野じゃないか? 確か中等部からここに来たはずだけど……今まで同じクラスだった事はないな?


 正直、どんな奴かは分からないけど……第一印象滅茶苦茶良いぞ? 見た目と言い言動と言い、優等生キャラじゃん! あれ? でも待てよ? こういう奴こそ委員長とかやりそうなんだけど……


「堅くはない。常に芯を持って生活しなければ、強くはなれない。浮ついた心は人をダメにする。そんな信念を持っているだけだ」

「だったらお前が副委員長すれば良かったじゃん」


 良く言った慎見。それだけは褒めてやる。


「いや、俺は無理だ」

「なんでよ? 芯を持って居れば皆をまとめる事も出来るだろ?」

「……いやっ」


 ん? なんだ? 急に雰囲気が……


「ん?」

「俺は……俺は……」


「人前に出るのが恥ずかしいんだ」

「はぁ?」


 おいー! そのガチガチ眼鏡で古風な顔立ちで人前に出るのが恥ずかしい? しかもなんで既に恥ずかしがってんだよ! 

 ……でっ、でもまぁこのクラスの仲だと貴重な、落ち着いた正論キャラだからな? 俺は歓迎するぞ? むしろ仲良く……


 その時だった、


 ガラガラガラ


 突然、教室の扉が音を立てて開いた。当然、俺達はそこへ視線を向ける。すると、そこに立って居たのは……女の子!


「あれ? えっと……えっと……」


 ん? 誰だ? しかも誰かを探してる?


「あっ! 居た居たつよぽん!」


 つよぽん? 誰だ? ん? こっちに……あれ? 研野の机に来たけど……


「ふふっ、つよぽん来ちゃった。はいこれ! 今日のお弁当だよ?」


 おっ、お弁当……だと!?


「あっ、ありがとう……柵ノ木さくのきさん」

「えっ? どうしたの? いつもはゆかりんって呼んでくれるのにー」



「「「ゆっ……ゆかりん!?」」」


 おい……待てよ? 待てよ? 落ち着け……落ち着け……ゆかりんって呼んでる? 弁当? あと……つよぽん?


「……なぁ慎見」

「どっ、どした?」


「いっ、いいから! ちょっ、ちょっと教室出よう」

「きゃっ、どしたのつよぽん? 今日はその……いつもより積極的……」


「研野の下の名前ってなんだ?」

「名前? たしか……つよし研野けんのつよしだ」


 剛? 剛……つよし……つよ……し……つよ……ぽん……つよぽん……?

 そう……か……そうか……そう言う事か?


 貴様……何が芯を持てだ? 浮ついた心は人をダメにするだぁ?

 彼女が居て、手作り弁当持って来てもらって……つよぽんゆかりんだとぉ??


 あぁ確信したよ。確実に確信したよ。



 ……きーさーまぁぁ! ちくしょうめぇぇ! 




 お前とは絶対……仲良くなれないなっ!!




 そんな心の叫びが、つよぽんに届いたかどうかは……知る由もなかった。



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